自由からの逃走(エーリッヒ・フロム著;日高六郎訳)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2021.09.01

書名 「自由からの逃走」
著者 エーリッヒ・フロム
訳者 日高 六郎
出版者 東京創元社
出版年 1965年12月
請求番号 361/127A
Kompass書誌情報

皆さんにこの本をお勧めしたいわけではない。伝えたいのは、大学生時代にこの本と出会った私の経験の方である。だが、まずは著者と書籍の内容を紹介しよう。

本書は第二次世界大戦中の1941年に刊行されたやや古い本である。著者のエーリッヒ・フロムは、ナチスの迫害を逃れアメリカに渡り本書を執筆した。フロムは、私たちは自分を自由な個人だと思っているが、それは本当なのかと疑う。近代人は自由を獲得したとされるなら、なぜドイツの人々はヒットラーに魅了され、ナチズムに服従したのか。精神分析を応用して社会現象を捉えるフロムは、独裁的なファシズムを受け入れた人々の心の在り方を探り、それが近代社会の誰もが宿している心の特性だと警鐘を鳴らす。

近代人は、身分や地縁などの社会から解き放たれて自由を得たが、他方で孤独・無力感・劣等感を抱えるようになったと、フロムは捉える。孤独を抱えた近代人は、自由を捨てて新たな社会からの支えに頼ろうとする。その際生じる心の特質の1つが「権威主義的性格」である。それは、自分よりも力のある人物・集団・理念などに憧れて服従し、他方で自分よりも弱い者に敵意を持ち支配することで、心の安定を保つあり方である。フロムがまだ生きていれば、SNSでのつるし上げや、ヘイトスピーチをそういった視点から捉えるかもしれない。

この本は、学部のゼミで先生や仲間と共に読んだものの、当時の私には難しくて十分に理解できなかった本である。ただ、今ある自由が偽りの自由かもしれない事や、社会に流される自己の危うさなどについてじっくり考えることは、当時の私が感じていた自信のなさを乗り越えるための力となった。今読むと、フロムの考えに疑問を感じる点も多々あるのだが、それはそれで自分の学びの履歴を感じ取らせてくれる。

自己形成や自分の成長を促してくれる、自分にとっての一冊。皆さんはその本にもう出会えただろうか。

総合教育研究部 教授 矢野 秀武

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