渋江抽斎(森 鷗外著)・吾輩は猫である(夏目 漱石著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2021.12.01

書名 「渋江抽斎」
著者 森 鷗外
出版者 岩波書店
出版年 1999年5月
請求番号 080/6-2170
Kompass書誌情報

書名 「吾輩は猫である」
著者 夏目 漱石
出版者 明治文学刊行会
出版年 1946年
請求番号 H512.1/71-1、2
Kompass書誌情報

二冊上げてあるが、どちらもとても有名な作品で、入手も簡単だろうからまとめて一冊と考えてもらっていい。中公文庫本(368頁)と文春文庫本(578頁)を上げたが、実は何でもいいのである。初出の際の旧字旧仮名遣いのでも新字新仮名遣いのでも文庫本でも全集本でも、ザ・鷗外でもザ・漱石でも何でもいいが、抜粋本や省略のあるものだけはご免被りたい。未読者はこれを機会に是非読み通すこと。長いので速読かなどと言わないで、じっくり音読してもらいたい。やはり、簡単に掌で扱える重くない文庫本がお薦めか。筋がどうで、何の話かなどは気にしなくていい。しっかり音読してもらいたい。

昨日わたしは孫娘に『十五少年漂流記』(新潮文庫)を読み聞かせた。聞手の顔色を窺いながら音読した。顰めっ面で聞いていた幼童は、何故か「モーコー、モーコーオ*」というところで、ケラケラと笑った。そう、君には、そんな風に、鷗外と漱石の代表作の一つを音読することをお勧めする。聞手は君自身だから、音読と言っても大きな声を張り上げる必要はない。君が、君自身が読み聞かせる近代日本の文句なしの名作に耳を傾け、味読するのである。眼で文字を追い、同時に沈黙の音声を発しながら読むのである。お経を読むのと一緒だと考えてもらっていい。自分の読み上げる声を聞きながら本を読むのである。眼と口と耳と心をフルに使って音読するのである。どんな話が紡ぎ出されるものか。

大学生ともあろう知識人が、<音読み>で自在に会話を愉しめないようでは何とも情けない話である。そう、一廉の知識人となるための大事なトレーニングと思ってもらっていい。やたらと漢語が出てくるものなら他の何でもいいのである。仮にこの二冊を言われた通りにみごとに読破出来たら、君の日本語力は格段にアップしているはずで、読書の深みにはまり込んでしまい、いつしか君は、現代の日本語に関しては無敵となっている自分を見出すに違いないのである。(*) "Moko! (...)Moko!''

仏教学部 教授 金沢 篤

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