フランケンシュタイン(シェリー著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.09.01

書名 「フランケンシュタイン」
著者 メアリー・シェリー
訳者 小林 章夫
出版社 東京 : 光文社
出版年 2010年10月
請求番号 080/21-96
Kompass書誌情報

大学生のみなさんになぜ『フランケンシュタイン』をおすすめするのか。それは、勉強して知を得るとはどういうことかについて、この小説がたくさんのことを教えてくれるからにほかならない。

まず、知は人間に力をもたらしている。怪物をつくったフランケンシュタイン博士は、大学で科学の面白さに目覚め、生命を生み出せる理論と技術を手にして試したくなる。博士は怪物を創造するが、最悪の結果になる。怪物は醜いとされて人間に差別され、人間を憎悪した怪物は多くの人々を殺害してしまう。知が恐ろしい力になりうることが示されており、学ぶ人間にその使い方を問いかけている。
次に、知は人間に苦しみをもたらしている。生まれたばかりの怪物は、言葉を覚えて世界のことを学ぶが、人間の差別と暴力の歴史を知って深く傷つくのだ。知ることで自分の世界は広がり、より複雑になる。一方でそれは見たくない現実に向き合うこと、自分の加害性に気づくことでもある。無知のまま単純な世界にいれば楽だが、差別や暴力の一部のままだ。そこから逃れるには、勉強しながら現実と向き合い、何ができるか考える苦しみを続けるしかない。
最後に、知は人間に生き方をもたらしている。本作には、父と宗教によって生き方を強制された女性が登場する。教育による自立と、別の宗教を信じる人々との関わりは否定される。しかしこの支配に、女性は勉強して知を得ることで抵抗した。母国語以外の言語を習得し、父とは信仰の異なる人々と知的に関わっていく。他者と、自分の考えを高めていく生き方を選ぶのである。勉強して知を得ることは、決められた生き方を疑う態度と、さまざまな人々と関わる言葉、そして自分の生き方を考えて選ぶ機会を与えてくれるのだ。

大学の四年間は何を勉強してもいい。勉強ばかりしても、誰にも文句は言われない。好きなものを好きなだけ勉強できるなんて、どれだけ贅沢で幸せなことだろうか。大学にいる今、『フランケンシュタイン』をきっかけに、そもそも勉強して知を得るとはどういうことなのか、存分に考えてみませんか。

総合教育研究部 助教 柿原和宏

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