街道をゆく_6沖縄・先島への道(司馬遼太郎 著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2024.11.01

書名 「街道をゆく_6沖縄・先島への道」
編著者 司馬 遼太郎 著
出版社 朝日新聞社
出版年 1981-1985.5
請求番号 915.6/7-6
Kompass書誌情報

「先生、今どんな本が面白いですか?」読書家らしい学生さんに質問されました。司馬遼太郎(1923-96)の『街道を行く』を愛読していると答えると、「そんな昔の本なんか」と失望した様子で教室を出て行きました。数年前のことです。

全43作もある『街道を行く』シリーズには古今東西、老若男女、さまざまな人物が登場しますが、その白眉は「須田画伯」です。須田剋太(1906-90)は本学の祖・道元禅師に強い憧れを抱き、しかし坐禅は組まず、絵画に道元の思想を活かすことに命を賭けています。この独特なキャラクターは、司馬遼太郎の旅に挿絵画家として同行しますが、二人は同じ旅路で全く違う時間を過ごします。その存在がもっとも際立っているのが、この『沖縄・先島への道』です。沖縄の日本復帰から2年後の1974年春、自分を「虚弱」だと思い込んでいる須田画伯は、まるでモンゴルに行くような厚着で空港に現れ、みなを驚かせます。戦争の記憶も生々しい中、那覇では「平静な気持ちで夜をすごせたことがない」と告白する司馬遼太郎は、日本人とは一体何なのかという重い問題を、沖縄の旅を通して考え抜きます。他方、須田画伯は与那国島に渡る空港で、見知らぬ人に道元と抽象絵画の関係性を説いて止みません。相変わらずチグハグな二人なのですが、しかし彼らの問題意識は旅の終わりで見事に重なり合っています。与那国島の墓地を見学中、須田画伯は我慢ができなくなって、野外で用便をします。そのとき、自分の排泄物を、画伯は生まれて初めてその目で見たのでした。

想像より数倍も大きく、「ハブのよう」なそれを見た画伯は、「私は間違っていたのです」と繰り返しながら、「ご自分の生命力に自信を持たれたのか、いきいきとした足取りで、歩きはじめた」と、司馬は書いています。沖縄で本来の自分を見出し、そこに回帰すると言うのは、本書の核心にあるテーマです。先に私は「沖縄の日本復帰」と書きました。その主客を入れ替えること―すなわち日本が沖縄に復帰すること―が出来れば、「虚弱信仰」から解放された与那国島での須田画伯のように、私たちも本当に自由な自分に戻ることができるかもしれない。そのような深遠なる可能性を、本書を通して司馬遼太郎は日本人に示唆しています。

最後にクイズをひとつ。本書『沖縄・先島への道』のなかに一箇所、「駒沢大学」という言葉が出てきます。それは、何ページでしょうか?

総合教育研究部 教授 白鳥義博 

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