ブータン便り NO.7

江口 卓

 新年明けましておめでとうございます

 ティンプーの2011年1月1日は、約2カ月ぶりの雨で始まりました。200mぐらい上の斜面は雪化粧だったので、1?2度気温が低かったらティンプーの谷底も雪だったと思います。1月1日がティンプーから見える山の初雪でした。例年は、もっと早く初雪が見られるようです。

 ブータンの新年は日本でいうところの旧暦なので、今年は2月の始めが新年になり、2月3日と4日が新年の休日になります。そのため、年末年始は通常の仕事です.12月31日まで仕事をし、1月1日の土曜日と、2日の日曜日は普通の週末でした。3日からは普通に研究所に通い仕事をしました。1月1日が平日だったら、仕事でした。そういうわけで、ブータンでは、年末年始の雰囲気はありませんでした。ただし、ティンプー市内に新しくできたインドとブータンの合弁のホテルでは、クリスマスディナーや年越しのパーティなどの催し物が企画されていました。ブータンに滞在する外国人を対象としたものですが、そのうちこのような催しも少しずつブータン人の中にも浸透していくのではないかと思います。

 12月の出来事をいくつか紹介したいと思います。12月17日は103回目のNational Dayで休日でした。1907年にブータンの初代国王が即位し、ブータン王国が建国された記念の日です。この日は、ティンプー中心部にあるチャンリミタン競技場で記念式典がありました。チャンリミタン競技場は、日本でいうところの国立競技場に当たり、大きな式典やサッカーなどのスポーツの試合がおこなわれます(写真)。朝9時30分過ぎに競技場に出かけ、一般の観客席から式典を見ることができました。

写真 National Dayの記念式典(チャンリミタン競技場)
競技場の市街地側(写真手前)にはコンクリートによる階段状の観客席があり、反対側のティンプー川の方にはブータンの伝統建築による来賓席があります。来賓席の中央手前の壇上で国王の演説が行われます。写真中央に整列しているのは、警察官や軍人と軍楽隊です。

 式典は、10時過ぎに国王や首相をはじめとする各大臣の入場から始まりました。最初に宗教的な儀礼が行われた後、国王の演説がありました。次に、ブータンの発展に寄与した人々の表彰が国王自らの手で行われました。そのあとは王立舞踊団や学生による踊りが続き、午後1時過ぎに国王や来賓が輪になって競技場で踊りを踊ってお開きとなりました。

 式典自体は、わりとオーソドックスでしたが、一つだけ驚いたことがありました。踊りが始まってしばらくすると国王や大臣が来賓席を回ってのあいさつが始まりました。来賓へのあいさつが終わったら国王は帰られるのだろうと思っていたのですが、そのあと一般の観客席のスタンドに上がって個々に話を始められました。私は、スタンドの上段の一番前に座っていたのですが、その通路を国王が歩いてこられたので、直接話ができるかと思いましたが、残念ながら私の少し前でスタンドのさらに上の方に上がってしまわれました。上段に学生のグループが座っており,その学生たちと話をするためでした.少数の警備を伴い、国王と大臣が一般の人の中を1時間以上にわたって歩いて回られたのには驚きました。警備の問題もあってなかなかこういう光景はほかの国では見られないだろうと思いました。

 新年にはふさわしくない事故の話ですが、ブータンにおける12月の大きな話題だったので、触れたいと思います。12月にはブータンに関係する大きな事故が続いて起こりました。最初は、15日に起こったネパールでの航空機事故です。ネパールの国内線の航空機が墜落して乗員全員が死亡するという事故が起こりました。22人乗りの小さな飛行機ですが、乗客のほとんどがブータン人で、19人が亡くなりました。チベット仏教の聖地の一つである洞窟にお参りした後、カトマンドュへ戻る際の事故でした。ブータン国外での事故で、多くのブータン人が亡くなるのは初めてのことのようで、個人的な旅行であったにもかかわらず、国内での葬儀は国葬並みの扱いとなりました。

 もう一つの大きな事故は、22日にブータン国内で起こりました。当日昼食を食堂で食べているとバスが落ちたと同僚が教えてくれました。研究所から車で20分ほどの距離にあるドチュラという峠を越えて、反対側に20分ほど下ったランペリというところで、路線バスが道路から300m下の斜面に落ちて、9人の人が亡くなりました。事故の原因の一つは、定員の約1.5倍の乗客が乗っていたということでした。かつて定員オーバーで事故が続いたので、長距離バスは定員を守るため座席指定になった経緯があるのですが、どうして定員以上の人が乗っていたかは、報道ではよく分かりませんでした。ブータンでの死亡事故の多くは道路からの転落によるものです。山道でカーブが多く、道幅は狭く、ガードレールのないところが多いので、転落事故は後を絶ちません。

 最後に、前にも少し書きましたが、12月にはいって学校が休みになりました。研究所でも休みを取る人がほかの時期より多く、なんとなくゆったりした雰囲気になっています。日本でいうと学校が休みの8月ごろの職場の雰囲気に少し似ています。2月は新年と国王の誕生日があって休みが多いので、この雰囲気は2月までは続きそうです。寒さは前より厳しくなって、私のアパートでは窓ガラスの室内側に露結した水滴が朝には凍るようになりました。日本も寒くなったようですが,日本とブータンの気温を見ていると、寒さが連動しているようにも思えます。


images/bt_back.gif (1073 バイト)