ベトナム・フエ便り NO.1

古都フエで暮らす

平井幸弘(2012.4.13記)

鳥愛ずる男たち

まだうす暗い朝5時、ホテルより約50m離れた地区役所の鉄塔にある拡声器からの大音量の有線放送で目覚めるものの、鳥のさえずりがピークに達する6時頃、やっと起床。Tシャツ、短パンの身軽な格好で、朝食前のウオーキングに出かける。城壁を巡る堀を一周すると2.5km、約3500歩の手頃な運動である。女性年配者のグループや夫婦連れが、三々五々それなりの格好で楽しそうにおしゃべりしながら、大勢歩いている。一方堀に面する公園の一角では、男たちが7〜8人地面に腰を下ろし何やら見つめている。視線の先は一列に吊るされた鳥籠、そう小鳥の鳴き比べを楽しんでいるのです。「虫愛ずる姫」ならぬ「鳥愛ずる男たち」とも言うのでしょうか(写真1)。
そんな朝の風景を眺めながら宿所に戻り、30〜40分ほどかけて朝食バイキング、8時出勤。無数のバイクに追い立てられながら自転車で10分、大学に到着・・・・・!?

写真1 公園で毎朝行われている鳥の鳴き比べ

皆様、お元気でお過ごしのことと思います。今年度(平成24年度)、駒澤大学の公費在外研究(1年間)でベトナム中部の古都フエにあるフエ農林大学/地域資源・農業環境学部に来ている平井です。「在外研究」の先輩方にならって、研究とは少し離れますが、現地で暮らしながら見たこと感じたことなどを「フエ便り」として、お送りしたいと思います。

フエの生活時間

さて、フエに来て2週間が経ちましたが、やっとこちらの生活リズムに慣れたところです。1年間ここで過ごすのですから、なるべくここの人たちの生活習慣に逆らわないよう、一緒にフエ時間の流れを楽しもうと思います。そこで今回は、私の一日をお伝えしましょう。
起きてから大学に出勤するまでは、冒頭に紹介したとおりですが、8時頃に大学に行くと、ちょうど1限目と2限目の間で、多くの学生が構内を移動しています。フエ大学では、1限目が午前7時に始まり、午前中11時までに4コマ授業が組まれています。1コマは高校と同じ50分で、休み時間は各10分、昼休みは2時間で午後1時から5時まで4コマあります。教員は、日本同様1限の授業を持たない場合は、8時頃出勤する人が多いようですが、夕方5時にはほぼ全員が研究室からいなくなります(写真2)。


ところが、私が大変驚いたのは、11時から午後1時までの2時間、大学構内から人影が途絶えてしまうことです(写真3)。構内に小さな学食があるのですが、そこにもほとんど学生はおらず、先生方も研究室の扉を施錠して皆いなくなります。最初の数日、授業直後の昼休みは込むだろうと11時半頃に食堂に行くと誰もおらず、一人でBun Bo Hueというフエ特有の麺をすすることになってしまいました。実は、学生も教職員もほとんど大学からごく近い所に住んでいて、昼は皆自宅やアパートに帰って昼食、シャワーを浴びて,さらに20〜30分ほど午睡をとるのだそうです。フエはベトナムの中で最も降水量が多く湿度も高く、持参した簡易湿度計でもほぼ毎日80%前後で、しかもこの1週間は気温が上昇し、最低26、27度〜最高30度ほどになってきました。正午前後の最も暑苦しい時間帯に、冷房もない研究室や教室で過ごすより、午後に備えて自宅でリフレッシュするのがこの地で暮らす知恵なのでしょう。もちろん街中も、歩いている人はおろかバイクも極端に少なく、外国人観光客を乗せたシクロが目立つくらいです。私も、「郷に入っては郷に従え」どおり、昼は宿所に帰って静かに休息することにします。

写真2 フエ農林大学の中の地域資源・農業環境学部の建物
(この建物の1階中央入り口から右側2番目の部屋を他に3人の若い講師と共同で利用させてもらっています)
写真3 フエ農林大学(Dai Hoc Nong Lam Hue)の中央棟
(昼休みには構内から人影がなくなり、いたって静かな時間だけが過ぎていきます)

 

ベトナムの環境問題を知る

午後は、1時から授業が始まりますが、1時半頃に研究室に戻っても先生方はまだほとんどいません。授業のない先生は、ゆっくり2時頃までに出勤されるようです。1時ではまだ暑いから、仕方ないですね。私は、この大学・学部では1〜2ヶ月に1回、合同セミナーで研究発表をする以外は、自分の研究をすれば良いのですが、今は研究課題として揚げた「ベトナム中部タムジャンカウハイ・ラグーンにおける海面上昇の影響に対する沿岸域の総合的管理」について、具体的なフィールドと調査項目を計画・準備しているところです。学内では、フリーのWiFiが使えるためインターネットには簡単に接続でき、おもにネットで文献や各種情報を収集しています。ただし、扱う情報については「フリー」の意味を心得て、十分気をつけなければならないですね。

午後4時頃には、学部の事務をしている職員がベトナムの英字新聞である”Viet Nam News”を研究室に持って来てくれます。先日購読手続き(3ヶ月で約2000円)をしたのですが、この新聞社の事務所はハノイとホーチミン、そしてダナンにしかなく、フエでは一日遅れで(週末の土・日分は月曜に)読むことができます。その記事には,例えば「中部のNinh Thuan省の大規模塩田事業によって、周囲の農地や牧草地・居住地に塩水が侵入し、井戸や灌漑ため池などの塩分濃度が基準の10〜約100倍にもなって、深刻な問題となっている」など、国内各地の様々な環境問題も取り上げられており、英語の勉強も兼ねて興味深く見ています。

仕事を終えて

さて、夕方5時までに授業が終わると,一部の学生は構内でいろいろなスポーツ、例えばサッカーやバレーボール、卓球、バドミントンなど、十分な施設はありませんが、それぞれ楽しんでいるようです。今年はフエ農林大学設立45周年ということで、学内で各種記念行事が行われています。先週の土曜日には、学内7学部対抗バレーボール大会(各学部若手教員のそれぞれ男女,複数のチーム)の決勝戦でしたが、男子では見事私がお世話になっている地域資源・農業環境学部チームが優勝しました。
私もいずれ何か運動をしたいと思っていますが、6時頃まで仕事した後は、今のところ毎日夕食をどこでどのように食べるかを苦労しています。もちろん宿所に戻れば、それなりに普通に食事ができるのですが、やはりフエの人々が毎晩食べているものをと思い、まずは先にも紹介したBun Bo Hue(ブン ボ フエ)、pho(フォー)、Banh Canh(バイン カイン:日本のうどんにそっくりなフエ特有の麺、写真4)などの麺類の研究をしています。

今回はここまでにしましょう。


写真4 フエ特有のBanh Canh (バイン カイン)
(日本のうどんにそっくりですが、麺は小麦ではなくタピオカの粉から作ったもの)

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