〔2002.08.17更新〕

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歯磨きの口状

箱入歯磨漱石香の口上

東々西々、抑私住所の儀、八方は八つ棟作り、四方に四面の蔵を建てんと存じ立てたる甲斐もなく、段々の不仕合せ、商ひの損相続き、渋団扇にあふぎ立てられ、跡へも先へも参り難し。然る処去る御方より、何ぞ元手の入らぬ商売思ひつき候ふやうにと、御引き立て下され候ふやうにと、御引き立て下され候ふ。歯磨きの儀、今時の皆様は、よく御存じの上なれば、隠すは野夫〔やぼ〕の至りなり。其の穴を委しく尋ね奉れば、房州砂に香〔にほ〕ひを入れ、人々の思ひつきにて、名を替へるばかりにて、元来下直の品にて御座候へども、畢竟袋を拵へ候ふの、あのゝかのゝにて、手間代に引け候ふ。是に依つて此の度箱入りに仕り、世上の袋入りの目方二十袋分二箱に入れ、お遣ひ勝手宜しく、袋が落ち散り、楊枝がよごれると申すやうな、へちまな事の是なきやうに仕り、かさでせしめる積りにて、少しばかり利を取り、下直に差し上げ申し候ふ。尤薬法の儀、私は文盲怠才にて、何も存ぜず候へども、是も去る御方より御差し図にて、第一に歯を白くし、口中をさはやかにし、悪しき臭を去り、熱をさまし、其の外種々薩〓〔土垂〕、富士の山程、効能之ある由の薬方、御伝へ下され候ふ。応〔き〕くか応〔き〕かぬかの程、私は夢中にて、一向存じ申さず候へども、高が歯を磨くが肝心にて、其の外の効能は、きかずとも害にもならず、又伝へられた其の人も、丸で馬鹿でもなく候へば、よもや悪しくはあるまいと存じ、教への通り薬種を撰み、随分念入れ調合仕り、ありやうは錢がほしさのまゝ、早々売出し申し候ふ。御遣ひ遊され候ふて、万一宜しからず候はゞ、だいなし御打ちやり遊ばされ候ふても、高の知れたる御損、私方は塵積つて山とやらにて、大に爲めに相成り候ふ。一度ぎりにて御求め下されずとも、御恨み申し上げべくやうは御座なく候ふ。若し又御意に入り、□□□□と御評判遊ばされ下され候へば、皆様御ひいき御取り立てにて、段々繁昌仕り、表店へ罷り出で、金看板を輝かせ、今の難儀を昔語りと御引き立ての程、隅から隅まで、づらりと希ひ上げ奉り候ふ。其の爲めの御断りさやうに、クワチクワチ。(此の文は平賀鳩溪の作にて、飛花落葉の中に在り。)

 

ところてん売りの口上

ところてんやぁ、かんてんやぁ……さあ突きますぞ、つきますぞ。音羽の瀧の糸櫻。ちらちらおつる星降り。それ天上まで突き上げて、やんわりうけもち、すべるはしりもち、しだれ柳にしだれ梅、さすもそらすもそらふてきれぬを、しょうぐぁんあい、あい……」(「心太」を突く間、この口上で間を持たせたという)

 

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