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ことばの溜め池
ふだん何氣なく思っている「ことば」を、池の中にポチャンと投げ込んでいきます。ふと立ち寄ってお氣づきのことがございましたらご連絡ください。
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「乗物」と記載する。
乗物(ノリモノ)シヨウフツ[平去・入]。〔器財門492D〕
輿(コシ) 乗物(ノリモノ)。〔永祿本・言語門154F〕
乗物(ノリモノ) 。駕(同) 。〔言辞門123E・天理図書館蔵上62オE〕
このように、上記当代の古辞書においては、広本『節用集』、黒本本・易林本『節用集』に標記語「乗物」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
047如レ雲似レ霞。遠所花者、乗物僮僕難シ二合期一 遠所ハ難レ定二約日ヲ一。故ニ可レ當二近花一。僮僕ハ従者也。又下人也。〔謙堂文庫藏8左G〕
とあって、標記語「乗物」の語を収載し、語注記は「従者なり、また下人なり」と記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オ三〜八〕
乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)/乗物僮僕僮僕ハ供する者也。〔7ウAB〕
とあって、この標記語「乗物」の語を収載し、語注記は未記載にする。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウA〜E、5ウE〜G〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ@〜E、9ウ@〜A〕
Norimono.ノリモノ(乗物・駕) 輿,または,駕籠.*原文はAndas,ou,palanquim.〔Coxi(輿)の注〕→Caqi,u(舁き,く);Noritcuqe,uru.〔邦訳473r〕
のり-もの〔名〕【乘物】(一){馬、牛、車、輿など、?て、人の乘りて行くもの。乘。駕。*名義抄「乗、ノリモノ、駕、ノリモノ」*字類抄「乘、ノリモノ、駕、ノリモノ」*源氏物語、六、末摘花廿五「普賢菩薩ののりものと覺ゆ」(白象のこと)*朗詠集、下、故宮「老鶴從來仙洞駕(ノリモノ)」(二)後に專ら、駕籠。(貴人の用なるに)轎。肩輿。*和漢三才圖會、三十三、車駕類「乘物、云云、近俗、應輿之精者稱二乘物一、其周匝裹用二備州莞筵一、今武家僧醫及婦女所レ乘者也、民俗不レ許レ乘レ之」*守貞漫稿、廿九、駕車「板輿、云云、縉紳家には、惣て、專ら輿と云ふ、武家には肩輿に非れば輿と云はず、乘物と云習へり」〔三-786-2〕
遠所(シヨ)。〔元亀二年本336@〕〔静嘉堂本401C〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「遠所」と記載する。
遠所(ヱンジヨ)トヲシ、トコロ[上・上]。〔態藝門703E〕
遠所(エンジヨ) 。〔弘治・言語進退192F〕
遠所(エンシヨ) 。〔弘治・言語進退195C〕
遠近(エンキン) ―行(カウ)。―景(ケイ)。―所(シヨ)。―慮(リヨ)論語人_無キハレ―キ必有レ近キ_憂イ。〔永祿本・言語門160H〕
遠慮(ヱンリヨ) 驚語人_无―必有近憂。―近。―行。―景。―所。〔尭空本・言語門150A〕
遠行(ヱンカウ) 死義(シスルギナリ)。―近(ギン)。―處(ジヨ)。―路(ロ)。―人(ニン)。―慮(リヨ)。―見(ケン)。―國(ゴク)。―離(リ)。〔言辞門220F・天理図書館蔵下43オF〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「遠所」の語収載し、訓みを「ヱンジヨ」と「ヱンシヨ」と清濁両用することが見えている。これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
047如レ雲似レ霞。遠所花者、乗物僮僕難シ二合期一 遠所ハ難レ定二約日ヲ一。故ニ可レ當二近花一。僮僕ハ従者也。又下人也。〔謙堂文庫藏8左G〕
とあって、標記語「遠所」の語を収載し、語注記は「約日を定めがたし。故に當に近花とすべし」と記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オB〜G〕
遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)/遠所之花者遠所ハ遠方といふが如し。〔7ウA〕
とあって、この標記語「遠所」の語を収載し、訓みは「ヱンシヨ」、語注記は上記の如く「遠方と云ふがごとし」と記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウA〜E、5ウE〜G〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ@〜E、9ウ@〜A〕
Yenjo.エンジョ(遠所) Touoqi tocoro.(遠き所)遠方の所.文書語.〔邦訳819l〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「如雲似霞」と記載する。
?(ヒコヅライ)レ雲(クモヲ)攫(ツカム)レ霧(キリヲ)[平軽・平軽・入・上]言ハ自由自在ノ皃也。〔態藝門545D〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「如雲似霞」の語は未収載にあり、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
047如レ雲似レ霞。遠所花者、乗物僮僕難シ二合期一 遠所ハ難レ定二約日ヲ一。故ニ可レ當二近花一。僮僕ハ従者也。又下人也。〔謙堂文庫藏8左G〕
とあって、標記語「如雲似霞」の語を収載し、語注記は未記載にする。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オB〜G〕
雲(くも)の如(ごと)く霞(かすミ)に似(に)たり/如ク∨雲ノ似∨霞ニ雲といひ霞といひ多きにたとへたるなり。〔7ウ@〕
とあって、この標記語「如雲似霞」の句を収載し、語注記は上記の如く記載し、初めてこの句について「多きにたとへたる」と解釈する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウA〜E、5ウE〜G〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ@〜E、9ウ@〜A〕
狂仁 同。〔元亀二年本52B〕
狂仁 。〔静嘉堂本58C〕
狂仁 。〔天正十七年本上30オB〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「狂仁」と記載する。
狂人(キヤウジン/タワフル・クルウ、ヒト)[○・平軽]物狂(モノクルイ)。〔態藝門827C〕
狂言 ―人。〔尭空本・言語門174G〕
狂人(キヤウジン) ―氣(キ)。〔人名門186A・天理図書館蔵下26オA〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「狂人」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』で「狂仁」、そして下記真字本では、「狂人」の語で収載しているのである。
046諸家ノ狂人 狂言奇語之人也。溺‖好景ニ|詠‖詩歌ヲ|者皆狂人也。千載集俊成ノ卿ノ(公衞卿力)歌曰、花盛リ四方(ヨモ)ノ山_辺ニ木_休(アコカレテ)テ春ハ心ノ身ニ添ヌ哉(カナ)云々。〔謙堂文庫藏8左F〕
とあって、標記語「狂人」の語を収載し、語注記は「狂言奇語の人なり。好景に溺れ詩歌を詠む者、皆狂人なり。『千載集』俊成卿(公衞卿力)の歌に曰く、甜花盛り四方の山辺にあこがれて春は心の身に添へぬかな云々」と記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オ三〜八〕
諸家(しよけ)の狂仁(きやうじん)/諸家ノ狂仁。花にうかれて山々をかりくらす風雅(ふうが)の人を云。〔7オ八〜7ウ一〕
とあって、この標記語「狂仁」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウ二〜六、5ウ六〜八〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ一〜六、9ウ一〜二〕
Qio<jin.キヤウジン(狂人) すなわち,Monogurui(物狂ひ)狂人.〔邦訳502r〕
きゃう-じん〔名〕【狂人】狂気したる人。きちがひ。*徒然草、百七十五段「酒、云云、飲ませつれば、うるはしき人も、忽ちに狂人となりて、をこがましく」〔一819-4〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「諸家」と記載する。
諸事(シヨジ) ―宗(シウ)。―家(ケ)。―人(ニン)。―國(コク)。―辨(ヘン)。〔言辞門214五・天理図書館蔵下40オ五〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「諸家」の語は未収載にあり、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
046諸家ノ狂人 狂言奇語之人也。溺‖好景ニ|詠‖詩歌ヲ|者皆狂人也。千載集俊成ノ卿ノ(公衞卿力)歌曰、花盛リ四方(ヨモ)ノ山_辺ニ木_休(アコカレ)テ春ハ心ノ身ニ添ヌ哉(カナ)云々。〔謙堂文庫藏8左F〕
とあって、標記語「諸家」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オ三〜八〕
諸家(しよけ)の狂仁(きやうじん)/諸家ノ狂仁 花にうかれて山々をかりくらす風雅(ふうが)の人を云。〔7オ八〜7ウ一〕
とあって、この標記語「諸家」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウ二〜六、5ウ六〜八〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ一〜六、9ウ一〜二〕
しよ-か〔名〕【諸家】もろもろの、いへ。多くの家門。諫王經、「諸家内外」〔1010-4〕
好士(カウシ)。〔元亀二年本95八〕
好(カウ)士 。〔静嘉堂本119三〕
好士(シ) 。〔天正十七年本上58ウ五〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「好士」と記載する。
好士(コノム・ジ/カウ・ヨシ、サブライ)[去・上]。〔態藝門280八〕
好士(ジ) 。〔弘治本・言語進退87八〕
好色(カウシヨク) ―物(ブツ)。―士(ジ)。〔永祿本・言語門83二〕
好色(カウシヨク) ―物。―士。〔尭空本・言語門75五〕
好色(カウシヨク) ―物。―使。―士。〔両足院本・言語90八〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「好士」の語を収載していて、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
045爭徒然トシテ送‖光陰|哉。花下(原註ニ)好士 風流ノ士也。又詩人歌人也。〔謙堂文庫藏8左E〕
とあって、標記語「好士」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オ三〜八〕
花(はな)の下(もと)の好士(こうし)/花ノ下ノ好士舊注に昔名花木級主樹とて詩歌の道に達したるものをゑらひ其花の主と定められ花さかりにハ彼か許に集(あつま)りて詠歌の興行あり。是を好士といふといえり。ある説にハ花下の好士といへるも花に心を移し詩歌をもてあそふ風流乃人をいふ。かならすしも級主櫻乃事にあらすといえり。〔7オ六〜八〕
とあって、この標記語「好士」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウ二〜六、5ウ六〜八〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ一〜六、9ウ一〜二〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔至徳三年本〕
花下好士諸家狂仁如雲似霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔宝徳三年本〕
花下好士諸家之狂仁如レ雲似レ霞遠所之花者乗物僮僕難合期先近隣之名花以歩行之儀思立事候雖爲左道之樣以異躰之形明後日御同心候者本望也〔建部傳内本〕
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所ノ之花ハ者乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣ノ之名花以テ二歩行ノ之儀ヲ一思ヒ立ツ事候雖トモレ爲リト二左道ノ之樣一以テ二異躰ノ之形チヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔山田俊雄藏本〕
花下ノ好士諸家ノ狂仁如クレ雲ノ似タリレ霞ニ。遠所之花ハ乗物僮僕難シ二合期シ一先ツ近隣之茗花ハ以テ二歩行之儀ヲ一思ヒ立ツ事ニ候雖モレ爲リト二左道之樣一以テ二異躰之形ヲ一明後日御同心候ハヽ者本望也〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「花下」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「(はなの)もと」と記載する。
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「花下」の語は未収載にあり、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
045爭徒然トシテ送‖光陰|哉。花下(原註ニ)好士 風流ノ士也。又詩人歌人也。〔謙堂文庫藏8左E〕
とあって、標記語「花下」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如ク∨雲(クモ)ノ似(ニタリ)∨霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ‖合期(ガウゴ)シ|先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ‖歩ブ行之儀ヲ|思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモ∨爲(タリ)ト‖左道ノ之樣(ヨウ)|以テ‖異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ|明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也花ノ下(モト)好士(カウジ)ハ其比ノ代ニハ。名花木ニハ。級主樹(キウシユジユ)トテ達(タツ)シケル者ヲ主(アルジ)ト定ラレシナリ。花盛(ザカ)リニハ彼(カレ)ガ許(モト)ニ集(アツマツ)テ會ヲ仕興兎發ヲ兎遊フ也。其比ノ好士ト謂(イヒ)習ハシタリ。狂仁(キヤウジン)ト云者ハ。餘ノ事ヲ捨(ステ)テ。花ニ心ヲ移(ウツ)シ營(イチナ)ム。渡世(トせイ)ヲモ目ニ懸(カケ)ス。花ノミヲ心ロニ懸テ狂(クル)ヒ行ク人ヲ狂人ト云也。〔6オ三〜八〕
花(はな)の下(もと)の好士(こうし)/花ノ下ノ好士舊注に昔名花木級主樹とて詩歌の道に達したるものをゑらひ其花の主と定められ花さかりにハ彼か許に集(あつま)りて詠歌の興行あり。是を好士といふといえり。ある説にハ花下の好士といへるも花に心を移し詩歌をもてあそふ風流乃人をいふ。かならすしも級主櫻乃事にあらすといえり。〔7オ六〜八〕
とあって、この標記語「花下」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
花(はな)の下(もと)乃好士(こうし)諸家(しよけ)の狂人(きやうじん)雲(くも)の如(ごと)く霞(かすみ)に似(に)たり。遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうぼく)合期(がうご)し難(がた)し先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくハ)歩行(ほかう)之(の)儀(ぎ)を以(もつて)思(おも)ひ立(た)つ事(こと)に候(さふら)ふ左道(さたう)之(の)樣(やう)爲(たり)と異體(いてい)之(の)形(かたち)を以(もつて)明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふら)は者(バ)本望(ほんまう)也(なり)/花ノ下(モト)ノ好士諸家ノ狂人如クレ雲(クモ)ノ似(ニタリ)レ霞(カスミ)ニ。遠所(エンジヨ)ノ之花ハ者(―)乗物(ノリモノ)僮僕(ドウボク)難(ガタ)シ二合期(ガウゴ)シ一先ツ近隣(キンリン)ノ之名(メイ)花以テ二歩ブ行之儀ヲ一思ヒ立ツ亊ニ候雖ヘトモレ爲(タリ)ト二左道ノ之樣(ヨウ)一以テ二異躰(イテイ)之(―)形(カタチ)ヲ一明後(ゴ)日御同心候ハヽ者本望(マウ)也▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同し。美景(びけい)に浮(うか)れて所々の春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花ざかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔5ウ二〜六、5ウ六〜八〕
花(はなの)下(もとの)好士(かうし)諸家(しよけの)狂仁(きやうじん)如(ごとく)レ雲(くもの)似(にたり)レ霞(かすミに)遠所(ゑんしよ)之(の)花(はな)者(ハ)乗物(のりもの)僮僕(どうほく)難(がたし)二合期(かふこし)一先(まづ)近隣(きんりん)之(の)名花(めいくわ)以(もつて)二歩行(ほかう)之(の)儀(ぎを)一思(おもひ)立(たつ)事(ことに)候(ざふらふ)雖(いへども)レ爲(たりと)二左道(さたう)之(の)樣(やう)一以(もつて)二異體(いてい)之(の)形(かたちを)一明後日(ミやうごにち)御同心(ごどうしん)候(さふらハ)者(バ)本望(ほんまう)也(なり)▲花下ノ好士とハ花(はな)に心を移(うつ)し詩歌(しいか)をもてあそぶ風流(ふうりう)の人をいふ。諸家狂仁といへるも同く美景(びけい)に浮(うか)れて所々春(はる)を探(さぐ)る雅遊(がゆう)の徒(と)なり。俊成卿(しゆんぜいきやう)の哥(うた)に甜花さかり四方(よも)の山邊(やまべ)にあこがれて春(はる)ハ心の身(ミ)にそハぬ哉と讀(よめ)る類(たぐひ)なり。〔9オ一〜六、9ウ一〜二〕
†QVAca.カカ(花下) Fanano moto.(花の下)花をつけている木の根もと.文書語.〔邦訳515l〕
はな-の-もと〔名〕【花下】(一)花咲ける樹の邊。白氏文集、三十、春興「花下忘レ歸因二美景一」後撰集、一、春、上「鶯の、なきつる聲に、さそはれて、花のもとにぞ、われは來にける」山家集「願はくは、花のもとにて、春死なむ、その二月(きさらぎ)の、望月の頃」(二)連歌の宗匠の家の號。後土御門天皇より、連歌師飯尾宗祇に賜はりしもの。此號、師弟次第に授受せしが、寛永中に至り、其號を繼げる里村昌啄(紹巴の門人の昌叱の子)に、連歌宗匠の稱を賜はりしより、後、又、師弟授受せり。菟玖波集の序に「或詠花下、或嘯月前、久しく雲の上のもてあそび、花の下のたはぶれとなれり」とあり。(連歌(レンガ)の條を見よ)津國女夫池(享保、近松作)三、「もとより一學やさ男、花の下の門弟にて、連歌を好み」〔1606-3〕
徒然(トぜン)。〔元亀二年本54四〕
徒然 。〔静嘉堂本60五〕
徒然(トせン) 。〔天正十七年本上33オ四〕〔西來寺本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔至徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山櫻開落交條○([其])梢繁難黙止者此節也爭徒然而送光陰哉〔宝徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔建部傳内本〕
抑醍醐雲林院ノ花濃香(チヨウキヤウ)芬々トシテ匂巳盛ンナリ也嵯峨芳(ヨシ)野ノ山桜開落交(マシフ)レ條ヲ難キ二黙止一者此節(トキ)也。爭テカ徒(ト)然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔山田俊雄藏本〕
抑モ醍醐雲林院ノ花濃香芬々トシテ匂ヒ巳ニ盛ン也嵯峨吉野ノ山桜開落交ヘレ條(エダ)ヲ其ノ梢繁シ難キ二黙止一者此ノ節也爭デカ徒然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「徒然」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「ト(ゼン)」と記載する。
徒然(ツレ〃) 无馬([為])分/閑詞/トせン。〔黒川本・畳字門上49ウ六〕
徒衆 〃然。〃口/〃侶。〔卷第二・畳字門426二〕
徒然(トぜン) 。〔言辭門152三〕
徒然(ツレ々/トぜン。トモガラ・イタヅラ、シカリ)[平軽・平]或作冷然。〔態藝門421三〕
徒然(ツレ/\) 。冷然(ツレ/\) 又作連々。〔弘治・津部、言語進退131三・四〕
徒然(トせン) 。 徒然(ツレ/\)トぜン 。〔永祿本・言語門44九・105九〕
徒然(トせン) ―跣。〔尭空本・言語門41六〕
徒然(トぜン) 。〔両足院本・言語門49七〕
徒然(トぜン) 。〔言語門43七・天理図書館蔵上22オ七〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「徒然」の語を収載していて、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
045爭徒然トシテ送‖光陰|哉。花下(原註ニ)好士 風流ノ士也。又詩人歌人也。〔謙堂文庫藏8左E〕
とあって、標記語「徒然」の語を収載し、語注記は未記載にする。
抑(ソモ)醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花濃香(デヤウキヤウ)芬々(フン )ト兎、匂(ニオヒ)巳(スデニ)盛(サカン)也。嵯峨(サガ)吉野ノ山櫻(ヤマザクラ)開落(カイラク)交(マジヘ)∨條(ヱダ)ヲ其ノ梢(コズヘ)繁(シゲシ)難(ガタキ)‖黙止(モタシ)|者此ノ節(せツ)也爭(イカデカ)徒然(トぜン)ト兎而送(ヲクラン)‖光陰(クワウイン)ヲ|哉(ヤ)ト醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花トツヾケタルハ。讃(ホ)メテ名所ノ花ヲ知せンガ爲也。彼(カノ)雲林院ニ昔シ忘憂(ハウユウ)花合(クハガウ)歡櫻(クハンノサクラ)ト云名花アリ。匂フ事九重マデ匂ヒ。色濃キ事餘言ン方モナシ。其比ハ君モ君タリ。國ノ政(マツリ)事モ無∨怠(ヲコタル)添佛法王法ノ盛ナリシ上ハ。花モ香ヲマシ色モ妙也。特ニ雲林院(ウンリンイン)モ繁昌(ハンジヤウ)シ。勤行(ゴンギヤウ)モ稠カリシカバ。最花モ香色倍(マサ)レリ。去レバ此花ヲ見人愁(ウレヒ)ヲ忘(ワス)レ悦(ヨロコヒ)ヲ合スルト也。去程忘憂花合歡櫻ト帝(ミカ)トヨリ號(カウ)シ給ヒケレ。然ニ名所ノ名花ヲ云ハントテ。醍醐(ダイコ)嵯峨(サガ)芳野(ヨシノ)ナンドヲ云タル也。今ハ世モ醐薄(ゲウハク)ニ及ビ。佛法王法廢(スタ)レ絶(タヘ)テ政事モ直(タメ)シカラズ。去ハ花モ白ヒ少ク色モアサシ。〔5ウ六〜6オ三〕
爭(いかで)か徒然(とぜん)として光陰(くわういん)を送(おく)らん哉(や)/爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉シ爭とハなにとしてといふ意なり。徒然はさひしき様子をいふ。光陰を送るとは月日をへる事なり。〔7オ四〜六〕
とあって、この標記語「徒然」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)條(えだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こずゑ)繁(しげ)し。黙止(もだし)難(がた)き者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)とし而(て)光陰(くハういん)を送(おく)らん哉(や)/抑醍醐。雲林院ノ花。濃香芬々ト兎。匂巳盛也。嵯峨。吉野ノ山桜。開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ。難キ二黙止一者此節也。爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉。〔5ウ一・二〕
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)交(まじへ)レ條(えだ)を其(その)梢(こずゑ)繁(しげし)。難(がたき)二黙止(もだし)者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)に而(して)送(おく)らん二光陰(くハういん)を一哉(や)。〔8ウ六〕
Tojen.l,tojenna.トゼン.または,トゼンナ(徒然,または,徒然な) ひとりぼっちで寂しくして居る(こと).¶Tojenna tei(徒然な体)孤独の寂しさ,または,物寂しげにしているさま.¶また,比喩.Toje~na.(徒然な)ひもじい.〔邦訳658l〕
と-ぜん〔名〕【徒然】つれづれなること。物さびしくて居ること。爲すること無くて、退屈なること。(靜岡縣にては、空腹(クウフク)をトゼンと云ふ)書言字考節用集、八、言辭門「徒然、トゼン」太平記、七、千劍破城軍事「唯取り巻きて食攻(ジキぜめ)にせよと下知して、軍を被レ止ければ、徒然に皆堪へ兼ねて、花下(はなのもと)の連歌師共を呼び下し、一萬句の連歌をぞ始めたりける」〔1406-5〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔至徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山櫻開落交條○([其])梢繁難黙止者此節也爭徒然而送光陰哉〔宝徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔建部傳内本〕
抑醍醐雲林院ノ花濃香(チヨウキヤウ)芬々トシテ匂巳盛ンナリ也嵯峨芳(ヨシ)野ノ山桜開落交(マシフ)レ條ヲ難キ二黙止一者此節(トキ)也。爭テカ徒(ト)然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔山田俊雄藏本〕
抑モ醍醐雲林院ノ花濃香芬々トシテ匂ヒ巳ニ盛ン也嵯峨吉野ノ山桜開落交ヘレ條(エダ)ヲ其ノ梢繁シ難キ二黙止一者此ノ節也爭デカ徒然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「節」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「とき」と記載する。
節せチ 。〔黒川本・天象門下101オ五〕
節せチ 。〔卷第十・天象門432三〕
隙(ヒマ)ケキノ節(せツ)フシ・トキ[入・入]。〔態藝門1044六〕その他
このように、上記当代の古辞書においては、広本『節用集』に標記語「節」の語を収載し、これに古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
044難‖黙止|者此節也 背∨花不∨可∨居也。〔謙堂文庫藏8左E〕
とあって、標記語「節」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
抑(ソモ)醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花濃香(デヤウキヤウ)芬々(フン )ト兎、匂(ニオヒ)巳(スデニ)盛(サカン)也。嵯峨(サガ)吉野ノ山櫻(ヤマザクラ)開落(カイラク)交(マジヘ)∨條(ヱダ)ヲ其ノ梢(コズヘ)繁(シゲシ)難(ガタキ)‖黙止(モタシ)|者此ノ節(せツ)也爭(イカデカ)徒然(トぜン)ト兎而送(ヲクラン)‖光陰(クワウイン)ヲ|哉(ヤ)ト醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花トツヾケタルハ。讃(ホ)メテ名所ノ花ヲ知せンガ爲也。彼(カノ)雲林院ニ昔シ忘憂(ハウユウ)花合(クハガウ)歡櫻(クハンノサクラ)ト云名花アリ。匂フ事九重マデ匂ヒ。色濃キ事餘言ン方モナシ。其比ハ君モ君タリ。國ノ政(マツリ)事モ無∨怠(ヲコタル)添佛法王法ノ盛ナリシ上ハ。花モ香ヲマシ色モ妙也。特ニ雲林院(ウンリンイン)モ繁昌(ハンジヤウ)シ。勤行(ゴンギヤウ)モ稠カリシカバ。最花モ香色倍(マサ)レリ。去レバ此花ヲ見人愁(ウレヒ)ヲ忘(ワス)レ悦(ヨロコヒ)ヲ合スルト也。去程忘憂花合歡櫻ト帝(ミカ)トヨリ號(カウ)シ給ヒケレ。然ニ名所ノ名花ヲ云ハントテ。醍醐(ダイコ)嵯峨(サガ)芳野(ヨシノ)ナンドヲ云タル也。今ハ世モ醐薄(ゲウハク)ニ及ビ。佛法王法廢(スタ)レ絶(タヘ)テ政事モ直(タメ)シカラズ。去ハ花モ白ヒ少ク色モアサシ。〔5ウ六〜6オ三〕
開落(かいらく)條(ゑだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こすへ)繁(しげ)し/開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ開く落ちる花枝(ゑた)をまじへそのこずへ殊に繁りて詠(なか)め一方(ひとかた)ならすと也。〔7オ二・三〕
とあって、この標記語「節」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)條(えだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こずゑ)繁(しげ)し。黙止(もだし)難(がた)き者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)とし而(て)光陰(くハういん)を送(おく)らん哉(や)/抑醍醐。雲林院ノ花。濃香芬々ト兎。匂巳盛也。嵯峨。吉野ノ山桜。開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ。難キ二黙止一者此節也。爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉。〔5ウ一・二〕
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)交(まじへ)レ條(えだ)を其(その)梢(こずゑ)繁(しげし)。難(がたき)二黙止(もだし)者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)に而(して)送(おく)らん二光陰(くハういん)を一哉(や)。〔8ウ六〕
†Xet.セツ(節) 例,Sono xet.(その節)すなわち,Sono toqi.(その時)その時期に,その場合に,その時刻に,など.〔邦訳756l〕
せ-つ〔名〕【節】又、せち。(一)四時、氣候の變はる節(をり)。荊楚歳時記(梁、宗懍)「毎月皆有二弦望晦明一、以二正月初年一時俗重以爲レ節也」「節が遲い」節が早い」(二)とき。をり。ころ。期。槍權三重帷子(享保、近松作)下「御自分、江戸より下着の節」「此節」其節」(三)みさを。節操。戰國策、魏策「折レ節而朝レ齊、楚王必怒矣」左傳、成公十五年「聖達レ節、次守節、下失レ節」漢書、踐都傳「奉レ職死レ節」(四)使臣などが資格の標識として携ふる旗。周禮、地官、堂節、注「以二王命一徃來、必有レ節、以爲レ信」史記、秦始皇紀、注「必節者、編レ必爲レ之、以象二竹節一」(五)くぎり。區分。「第一章第三節」(六)豫算編制上にて、目(モク)の下の區分。(七)音曲、又は、歌謡のふし。調子。律。拍子。「曲節」(八)骨と骨とのつがひめ。「骨節」關節」(九)節句、節日、節會などの略。(十)英國の尺度の名、Knot.のあて字。「速力十二節(ノツト)の船」〔1108-5〕
覓(シゲシ)。滋(同)。重(同)。〔元亀二年本334四〕
茂(シゲシ)。滋(同)。重(同) 。〔静嘉堂本398五〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔至徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山櫻開落交條○([其])梢繁難黙止者此節也爭徒然而送光陰哉〔宝徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔建部傳内本〕
抑醍醐雲林院ノ花濃香(チヨウキヤウ)芬々トシテ匂巳盛ンナリ也嵯峨芳(ヨシ)野ノ山桜開落交(マシフ)レ條ヲ難キ二黙止一者此節(トキ)也。爭テカ徒(ト)然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔山田俊雄藏本〕
抑モ醍醐雲林院ノ花濃香芬々トシテ匂ヒ巳ニ盛ン也嵯峨吉野ノ山桜開落交ヘレ條(エダ)ヲ其ノ梢繁シ難キ二黙止一者此ノ節也爭デカ徒然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・経覺筆本に「繁」と記載する。
繁(ハン)シケシ茂稠滋攘重直客反森蕃(ハン)吏臣已上同。〔黒川本・辞字門下74ウ二〕
繁シケシ吏滋臣茂蕃重已上同 。〔卷第九・辞字門180一〕
繁(シミ/\/ハン・シゲシ)[平軽]。〔態藝門1025三〕
稠(シゲシ)チウ木―。滋(同)。繁(同)。重(同)。〔言辞門219一・天理図書館蔵下42ウ一〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「繁」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
043開落交∨條ヲ其ノ梢ヘ繁 雖∨爲‖同木|南枝ハ暖シテ早_開北枝寒故ニ遲キ也。就‖開落|菅丞相ノ曰、散モ/ル惜シ散ル面白キ山櫻。〔謙堂文庫藏8左D〕
とあって、標記語「繁」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
抑(ソモ)醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花濃香(デヤウキヤウ)芬々(フン )ト兎、匂(ニオヒ)巳(スデニ)盛(サカン)也。嵯峨(サガ)吉野ノ山櫻(ヤマザクラ)開落(カイラク)交(マジヘ)∨條(ヱダ)ヲ其ノ梢(コズヘ)繁(シゲシ)難(ガタキ)‖黙止(モタシ)|者此ノ節(せツ)也爭(イカデカ)徒然(トぜン)ト兎而送(ヲクラン)‖光陰(クワウイン)ヲ|哉(ヤ)ト醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花トツヾケタルハ。讃(ホ)メテ名所ノ花ヲ知せンガ爲也。彼(カノ)雲林院ニ昔シ忘憂(ハウユウ)花合(クハガウ)歡櫻(クハンノサクラ)ト云名花アリ。匂フ事九重マデ匂ヒ。色濃キ事餘言ン方モナシ。其比ハ君モ君タリ。國ノ政(マツリ)事モ無∨怠(ヲコタル)添佛法王法ノ盛ナリシ上ハ。花モ香ヲマシ色モ妙也。特ニ雲林院(ウンリンイン)モ繁昌(ハンジヤウ)シ。勤行(ゴンギヤウ)モ稠カリシカバ。最花モ香色倍(マサ)レリ。去レバ此花ヲ見人愁(ウレヒ)ヲ忘(ワス)レ悦(ヨロコヒ)ヲ合スルト也。去程忘憂花合歡櫻ト帝(ミカ)トヨリ號(カウ)シ給ヒケレ。然ニ名所ノ名花ヲ云ハントテ。醍醐(ダイコ)嵯峨(サガ)芳野(ヨシノ)ナンドヲ云タル也。今ハ世モ醐薄(ゲウハク)ニ及ビ。佛法王法廢(スタ)レ絶(タヘ)テ政事モ直(タメ)シカラズ。去ハ花モ白ヒ少ク色モアサシ。〔5ウ六〜6オ三〕
開落(かいらく)條(ゑだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こすへ)繁(しげ)し/開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ開く落ちる花枝(ゑた)をまじへそのこずへ殊に繁りて詠(なか)め一方(ひとかた)ならすと也。〔7オ二・三〕
とあって、この標記語「繁」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)條(えだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こずゑ)繁(しげ)し。黙止(もだし)難(がた)き者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)とし而(て)光陰(くハういん)を送(おく)らん哉(や)/抑醍醐。雲林院ノ花。濃香芬々ト兎。匂巳盛也。嵯峨。吉野ノ山桜。開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ。難キ二黙止一者此節也。爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉。〔5ウ一・二〕
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(はな)濃香(じようかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)交(まじへ)レ條(えだ)を其(その)梢(こずゑ)繁(しげし)難(がた)二黙止(もだし)一者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)に而(して)送(おく)らん二光陰(くわういん)を一哉(や)。〔8ウ六〕
しげ・し・キ・ケレ・ク・ク〔形、一〕【繁・重・滋・茂・蕃】(一)繁(しげ)りてあり。(草木などに)費やす。源氏物語、一五、蓬生05「しげき草、蓬をだに、かき拂はん物とも、思ひよりたまはず」(二)細かにて、多し。頻りなり。密なり。(事に)。源氏物語、四、夕顔23「隣りしげく、咎むる里人、多く侍らんに」(三)?なり。重なる。拂ふ。遣(や)る。源氏物語、一、桐壺25「しげく渡らせ給ふ」同、四、夕顔42「内より、御使、雨の足よりもしげし」〔886-4〕
梢(コスエ)。標(同)。抄(同)。〔元亀二年本241六〕
梢(コスへ)。標(同)。抄(同)。〔静嘉堂本278五〕
梢(コスへ)。標(同)。抄(同)。〔天正十七年本中68オ五〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔至徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山櫻開落交條○([其])梢繁難黙止者此節也爭徒然而送光陰哉〔宝徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔建部傳内本〕
抑醍醐雲林院ノ花濃香(チヨウキヤウ)芬々トシテ匂巳盛ンナリ也嵯峨芳(ヨシ)野ノ山桜開落交(マシフ)レ條ヲ難キ二黙止一者此節(トキ)也。爭テカ徒(ト)然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔山田俊雄藏本〕
抑モ醍醐雲林院ノ花濃香芬々トシテ匂ヒ巳ニ盛ン也嵯峨吉野ノ山桜開落交ヘレ條(エダ)ヲ其ノ梢繁シ難キ二黙止一者此ノ節也爭デカ徒然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、山田俊雄藏本を除く至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・経覺筆本に「其ノ梢繁シ」と記載する。
梢 コスヘ/所交反。抄同/云眇。標(ヘウ)同/木抄也。槙同云顛/木上也。〔黒川本・植物門下2ウ五〕
梢 コスエ/枝―也。抄/木末也。標(ヘウ)/下抄。○。槙已上同/木上也。〔卷第七・植物門113四五〕
梢(コズヱ/サウ)[平]。抄(同/せウ)[上]。標(同/ヒヤウ)[平]〔草木門655一〕
標(コズヘ)。梢(同)。抄(同) 。〔弘治・草木門185六〕
梢(コズヘ)。/標(コズヘ)抄。〔永祿本・草木門151九・152二〕
梢(コズヘ) 標。抄。〔尭空本・草木門141九〕
梢(コスエ) 標(同)。〔草木門155六・天理図書館藏下10ウ六〕
このように、上記当代の古辞書においては、標記語「梢」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
043開落交∨條ヲ其ノ梢ヘ繁 雖∨爲‖同木|南枝ハ暖シテ早_開北枝寒故ニ遲キ也。就‖開落|菅丞相ノ曰、散モ/ル惜シ散ル面白キ山櫻。〔謙堂文庫藏8左D〕
とあって、標記語「梢」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
抑(ソモ)醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花濃香(デヤウキヤウ)芬々(フン )ト兎、匂(ニオヒ)巳(スデニ)盛(サカン)也。嵯峨(サガ)吉野ノ山櫻(ヤマザクラ)開落(カイラク)交(マジヘ)∨條(ヱダ)ヲ其ノ梢(コズヘ)繁(シゲシ)難(ガタキ)‖黙止(モタシ)|者此ノ節(せツ)也爭(イカデカ)徒然(トぜン)ト兎而送(ヲクラン)‖光陰(クワウイン)ヲ|哉(ヤ)ト醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花トツヾケタルハ。讃(ホ)メテ名所ノ花ヲ知せンガ爲也。彼(カノ)雲林院ニ昔シ忘憂(ハウユウ)花合(クハガウ)歡櫻(クハンノサクラ)ト云名花アリ。匂フ事九重マデ匂ヒ。色濃キ事餘言ン方モナシ。其比ハ君モ君タリ。國ノ政(マツリ)事モ無∨怠(ヲコタル)添佛法王法ノ盛ナリシ上ハ。花モ香ヲマシ色モ妙也。特ニ雲林院(ウンリンイン)モ繁昌(ハンジヤウ)シ。勤行(ゴンギヤウ)モ稠カリシカバ。最花モ香色倍(マサ)レリ。去レバ此花ヲ見人愁(ウレヒ)ヲ忘(ワス)レ悦(ヨロコヒ)ヲ合スルト也。去程忘憂花合歡櫻ト帝(ミカ)トヨリ號(カウ)シ給ヒケレ。然ニ名所ノ名花ヲ云ハントテ。醍醐(ダイコ)嵯峨(サガ)芳野(ヨシノ)ナンドヲ云タル也。今ハ世モ醐薄(ゲウハク)ニ及ビ。佛法王法廢(スタ)レ絶(タヘ)テ政事モ直(タメ)シカラズ。去ハ花モ白ヒ少ク色モアサシ。〔5ウ六〜6オ三〕
開落(かいらく)條(ゑだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こすへ)繁(しげ)し/開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ開く落ちる花枝(ゑた)をまじへそのこずへ殊に繁りて詠(なか)め一方(ひとかた)ならすと也。〔7オ二・三〕
とあって、この標記語「梢」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)條(えだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こずゑ)繁(しげ)し。黙止(もだし)難(がた)き者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)とし而(て)光陰(くハういん)を送(おく)らん哉(や)/抑醍醐。雲林院ノ花。濃香芬々ト兎。匂巳盛也。嵯峨。吉野ノ山桜。開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ。難キ二黙止一者此節也。爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉。〔5ウ一・二〕
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(はな)濃香(じようかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)交(まじへ)レ條(えだ)を其(その)梢(こずゑ)繁(しげし)難(がた)二黙止(もだし)一者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)に而(して)送(おく)らん二光陰(くわういん)を一哉(や)。〔8ウ六〕
Cozuye.コズヘ(梢) 樹木の先の小枝.→Fuqicudaqi,qu;Qigui(木々);Tcutai,to<;Xito>(枝頭).〔邦訳158r〕
こ-ずゑ〔名〕【梢】〔木末(こずゑ)の義〕(一){木の幹、又は、枝の先(さき)。木の末(うれ)。ちらす。費やす。倭名抄、廿30木具「樹梢、唐韻云梢<所交反 古須惠>枝梢也」新六帖、二「秋山の、こずゑづたひに、啼く猿の、しづまる時も、なき心かな」(二)年の暮。歳末。堀河百首、歳暮「ことたまの、おぼつかなさに、をかみすと、こずゑながらも、年を越すかな(ことたまの條を見よ)」字典「歳末曰レ抄」禮記、王制篇「榠宰制二國用一、必于(オイテス)二歳之抄一」(次條を見よ)〔686-1〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔至徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山櫻開落交條○([其])梢繁難黙止者此節也爭徒然而送光陰哉〔宝徳三年本〕
抑醍醐雲林院花濃香芬々匂巳盛也嵯峨吉野山桜開落交條其梢繁難黙止者此節也争徒然而送光陰哉〔建部傳内本〕
抑醍醐雲林院ノ花濃香(チヨウキヤウ)芬々トシテ匂巳盛ンナリ也嵯峨芳(ヨシ)野ノ山桜開落交(マシフ)レ條ヲ難キ二黙止一者此節(トキ)也。爭テカ徒(ト)然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔山田俊雄藏本〕
抑モ醍醐雲林院ノ花濃香芬々トシテ匂ヒ巳ニ盛ン也嵯峨吉野ノ山桜開落交ヘレ條(エダ)ヲ其ノ梢繁シ難キ二黙止一者此ノ節也爭デカ徒然トシテ而送ラン二光陰ヲ一哉〔経覺筆本〕
×〔文明四年本〕
と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本に「開落」と記載する。
開落(カイラク/ヒラク・ヲチル)[平軽・入]。〔態藝門272三〕
このように、上記当代の古辞書においては、広本『節用集』に標記語「開落」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』及び下記真字本が収載しているのである。
043開落交∨條ヲ其ノ梢ヘ繁 雖∨爲‖同木|南枝ハ暖シテ早_開北枝寒故ニ遲キ也。就‖開落|菅丞相ノ曰、散モ/ル惜シ散ル面白キ山櫻。〔謙堂文庫藏8左D〕
とあって、標記語「開落」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。
抑(ソモ)醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花濃香(デヤウキヤウ)芬々(フン )ト兎、匂(ニオヒ)巳(スデニ)盛(サカン)也。嵯峨(サガ)吉野ノ山櫻(ヤマザクラ)開落(カイラク)交(マジヘ)∨條(ヱダ)ヲ其ノ梢(コズヘ)繁(シゲシ)難(ガタキ)‖黙止(モタシ)|者此ノ節(せツ)也爭(イカデカ)徒然(トぜン)ト兎而送(ヲクラン)‖光陰(クワウイン)ヲ|哉(ヤ)ト醍醐(ダイゴ)雲林院(ウンリンイン)ノ花トツヾケタルハ。讃(ホ)メテ名所ノ花ヲ知せンガ爲也。彼(カノ)雲林院ニ昔シ忘憂(ハウユウ)花合(クハガウ)歡櫻(クハンノサクラ)ト云名花アリ。匂フ事九重マデ匂ヒ。色濃キ事餘言ン方モナシ。其比ハ君モ君タリ。國ノ政(マツリ)事モ無∨怠(ヲコタル)添佛法王法ノ盛ナリシ上ハ。花モ香ヲマシ色モ妙也。特ニ雲林院(ウンリンイン)モ繁昌(ハンジヤウ)シ。勤行(ゴンギヤウ)モ稠カリシカバ。最花モ香色倍(マサ)レリ。去レバ此花ヲ見人愁(ウレヒ)ヲ忘(ワス)レ悦(ヨロコヒ)ヲ合スルト也。去程忘憂花合歡櫻ト帝(ミカ)トヨリ號(カウ)シ給ヒケレ。然ニ名所ノ名花ヲ云ハントテ。醍醐(ダイコ)嵯峨(サガ)芳野(ヨシノ)ナンドヲ云タル也。今ハ世モ醐薄(ゲウハク)ニ及ビ。佛法王法廢(スタ)レ絶(タヘ)テ政事モ直(タメ)シカラズ。去ハ花モ白ヒ少ク色モアサシ。〔5ウ六〜6オ三〕
開落(かいらく)條(ゑだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こすへ)繁(しげ)し/開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ開く落ちる花枝(ゑた)をまじへそのこずへ殊に繁りて詠(なか)め一方(ひとかた)ならすと也。〔7オ二・三〕
とあって、この標記語「開落」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読『庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(ハな)濃香(ちやうかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)條(えだ)を交(まじ)ヘ其(その)梢(こずゑ)繁(しげ)し。黙止(もだし)難(がた)き者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)とし而(て)光陰(くハういん)を送(おく)らん哉(や)/抑醍醐。雲林院ノ花。濃香芬々ト兎。匂巳盛也。嵯峨。吉野ノ山桜。開落交ヘレ條ヲ其梢繁シ。難キ二黙止一者此節也。爭カ徒然ト兎而送ラン二光陰ヲ一哉。〔5ウ一・二〕
抑(そもそも)醍醐(だいご)雲林院(うんりんゐん)の花(はな)濃香(じようかう)芬々(ふんぶん)として匂(にほひ)巳(すてに)盛(さかん)也(なり)嵯峨(さが)吉野(よしの)の山櫻(やまさくら)開落(かいらく)交(まじへ)レ條(えだ)を其(その)梢(こずゑ)繁(しげし)難(がた)二黙止(もだし)一者(ハ)此(この)節(せつ)也(なり)爭(いかで)か徒然(とぜん)に而(して)送(おく)らん二光陰(くわういん)を一哉(や)。〔8ウ六〕
Cairacu.カイラク(開落) Firaqi votcuru.(開き落つる)開いて落ちること.Fanaga cairacu suru.(花が開落する)花が咲いて,花びらが取れて落ちる.〔邦訳82r〕
かい-らく〔名〕【開落】開くと、落つると。(花に云ふ)陳子良、子幹誅「山花開落、朧月盈虧」徐?、牡丹詩「開落一何頻」和漢朗詠集(1018頃)、上、早春「南枝北枝之梅、開落已巽<慶滋保胤>」〔338-3〕
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