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ことばの溜め池
ふだん何氣なく思っている「ことば」を、池の中にポチャンと投げ込んでいきます。ふと立ち寄ってお氣づきのことがございましたらご連絡ください。
まなこゐ 眼子遊仙窟 又肝僧 横波 眼尾なとかけり。〔角川書店刊498O〕
とあって、「まなこゐ」の語として、『遊仙窟』に「眼子」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
013:婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕鈔本「眼子」〔二19ウC〕※陽明文庫本「眼子」〔12ウD〕慶安三版「眼子」〔19ウG〕
とあって、「眼子」の標記字に「まなこゐ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。。〔〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「眼子」の標記字に和訓「まなこゐ」の語を収載する。
まなこ‐い[:ゐ]【眼居】〔名〕対象に向けた目の様子。目つき。まなざし。*十巻本和名抄〔九三四頃〕二「眼 眼皮附 〈略〉遊仙窟云眼皮〈師説万比 一説万奈古井〉」*枕草子〔一〇C終〕四一・鳥は「鷺は、いとみめも見ぐるし。まなこゐなども、うたてよろづになつかしからねど」【語源説】(1)眼居の義か、あるいはマナコヰ(眼率)の義か〔大言海〕。(2)メノソコヰ(目之底居)の義〔日本語原学=林甕臣〕。【辞書】和名・色葉・名義・言海【表記】【眼皮】和名・色葉・名義【眼色】言海
[関連語補遺]
《回文》(まなこい▼いこなま) |
人の御涙をさへのこふ袖はいとゝつゆけさのみまさる 下官乃将(モテ)衣ノ袖与(アタヘテ)娘子ニ一拭涙ヲ遊仙窟 。〔角川書店刊488下N〕
とあって、「のごふ」の語として、『遊仙窟』に「拭」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
212:下官乃將(モテ)衣ノ袖一与(トモニ)娘子一拭フレ涙。十娘乃作(ツクテ)別詩曰別( ルヽ)時ニハ終是( レ)別( ル)コトナリ春心不レ値(アハ)レ春。羞(ハ ラフハ)見添ヲ二孤-鸞(コ ラン)影一悲ラクハ看(ミン)添ヲアラハサシ一-騎塵一。翠(ミ )柳開( ケ)ナムトキ二眉色(ヒ)ナムト一紅桃乱コトル二瞼(マ リ)マナカタ新ナルヲ一。時君不(スナキナハ)レ在(マシマサ)サラマシカハ嬌タル?弄(モ ンテ)搬(ソシテム)レ人(ワレ)。〔醍醐寺本66D、文庫〕鈔本「拭フレ涙」〔二19ウC〕※陽明文庫本「拭フレ涙」〔12ウD〕慶安三版「拭フレ涙」〔19ウG〕
とあって、「拭レ涙」の標記字に「(なんだをのご)ふ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
下官乃將(モテ)衣ノ袖一与(トモニ)娘子一拭フレ涙。〔〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「拭レ涙」の標記字に和訓「(なんだをのご)ふ」の語を収載する。
のご・う[のごふ]【拭】〔他ハ四〕手でふく。ふきとる。ぬぐう。*万葉集〔八C後〕二〇・四三九八「ま幸くて 早還り来と ま袖もち 涙を能其比(ノゴヒ) むせひつつ 言問すれば〈大伴家持〉」*日本霊異記〔八一〇〜八二四〕中・一「沙彌頭を摩(な)で血を捫(ノコヒテ)。〈国会図書館本訓釈 捫 ノコヒテ〉」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕須磨「心とどめて、あはれなる手など弾き給へるに、ことものの声ともはやめて、涙をのごひあへり」*正法眼蔵〔一二三一〜五三〕洗面「手巾は、半分はおもてをのごひ、半分にては手をのごふ」【語源説】(1)塵埃のノコリヲハラウの意か〔和句解〕。(2)ヌクウ(拭)の転〔紫門和語類集〕。(3)ノヘカク(延掻)の義〔言元梯〕。(4)ノガオフ(遁生)の約〔国語本義〕。【発音】〈ア史〉平安○○◎ 鎌倉○○● 室町・江戸●○○〈京ア〉[0]【上代特殊仮名遣い】 青色は甲類に属し、赤色は乙類に属する。ノゴフ【辞書】字鏡・色葉・名義・下学・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【拭】色葉・名義・下学・和玉・文明・明応・天正・饅頭・書言・ヘボン【巾】色葉・名義・和玉・文明・天正・易林・書言【狂】色葉・名義・易林・書言【揮・揩】色葉・名義・和玉【雪】色葉・和玉・伊京【憔】字鏡・名義【捫・攬・揃・擾】色葉・名義【嘶・壺・擁】名義・和玉【清・洒・狂・掩】色葉【淹・捉・圏・控・拳・喘・紐・払】名義【刷・嗚・孵・圉・侫・墹・孚・堊・媼・嶽・幟・峇・彖・弃】和玉【賢】書言
[関連語補遺]
《回文》(のごふ▼ふごの) |
いさゝかまとろむともなきゆめに 睡マトロム遊仙窟 坐(イナカラ)。〔角川書店刊488下L〕
とあって、「まとろむ」の語として、『遊仙窟』に「睡」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
020:少時(シハラクアルトキ)坐睡(井ナカラマトロム)則夢見ツ二十娘一驚覺( メ)攬(カヒサクル)レ之忽然(タチマチ)空セリレ手。心中悵-怏(ヤウ)イタムテ復何ソ可( キ)レ論スアケツラフ。余リ因(イタレ)詠曰夢中疑ヒツ二是レ實(マコトカト)一覺( メテ)[平]後[上]忽[上]非(アラサリケリ)真マコト[上]。誠知ヌ腹ノ欲スレハレ断ヘムト窮-鬼(キウキ)イキスカタ故(コトサラニ)[上]調(ナヤマスナリ)せルカレ人ワレ。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕鈔本「坐睡」〔二19ウC〕※陽明文庫本「坐睡」〔12ウD〕慶安三版「少時(シハラクアテ)シハラクアルトキニ坐睡(井ナカラマトロンテ)。則夢ニ見ツ二十娘ヲ一。驚キ覺(サメテ)攬(カヒサクル)ニレ之ヲ忽然トタチマチニ空セリレ手ヲ。」〔13オC〕
とあって、「坐_睡」の標記字に「ゐながらまどろむ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
少時(シハラクアルトキ)坐睡(井ナカラマトロム)則夢見二十娘一驚覺( メ)攬(カヒサクル)レ之忽然(タチマチ)空せリレ手。。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「坐睡」の標記字に和訓「ゐながらまどろむ」の語を収載する。
ま‐どろ・む【微睡】〔自マ五(四)〕@眠気を催してちょっとの間浅く眠る。とろとろと眠る。うとうとする。*古今和歌集〔九〇五〜九一四〕恋三・六四四「ねぬる夜の夢をはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさる哉〈在原業平〉」*平家物語〔十三C前〕一・鹿谷「くるしさにうちふし、ちつとまどろみ給へる夢に」*虎寛本狂言・花子〔室町末〜近世初〕「いざ夜もふくる、さらばまどろまうと言ふて、とろとろとろとまどろうだれば」A眠る。また、熟睡する。寝入る。転じて、活動が停止する。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕空蝉「わかき人は、何心なく、いとようまどろみたるべし」*幸若・大臣〔室町末〜近世初〕「ねいりてさうなくおきさせ給ず。夜日三日ぞまとろみ給ふ」*仮名草子・伊曾保物語〔一六三九頃〕中・二三「獅子王前後も知らず臥しまどろみける所に」*北村透谷論〔一九四六〕〈小田切秀雄〉二「近代的な人間の要求はこの二十年代前半に至ってもなおまどろみつづけていたのであった」【語源説】目トロメクの約〔名語記〕。メトロメ(目蕩目)の義〔名言通〕。メトロム(目蕩)の義〔国語本義・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健・大言海〕。目のよどむ意か〔類聚名物考〕。ドロムはトロトロに通ず。目垂の義〔俚言集覧〕。メタワム(目撓)の義〔言元梯〕。【発音】〈標ア〉[ロ]〈ア史〉江戸●●○○〈京ア〉[0]【辞書】文明・伊京・饅頭・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【真眠】文明・饅頭【寐・緩】伊京【目睡】書言【間眠】ヘボン
[関連語補遺]
《回文》(まどろむ▼むろどま) |
えいなひはてゝ 辞イナフ遊仙窟 。〔角川書店刊488下@〕
とあって、「いなふ」の語として、『遊仙窟』に「辞」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
036:十娘答曰向者(サキニ)承( リ)聞(キヽミレハ)謂(オモヒテ)二言(コトハノミアル)?-客ハフヒヽトナラントナラント一相拙(ツタナク)為( セリ)ス二礼-侖(井ヤウヲ)ツタナ□□一深( ク)覺(サメ)レ面慙( ツ)。兒(ワラハカ)意一相當( ル)レル事(コト)須( ク)シ引-接ス。此間(コロハ)踈-陋(ソロウニシテ)イヤシクシテ未レ免(マ )二風-塵タモ一。入トキレ室不レ合ヘカラ二推-詞(シ)イナフ昇モレ堂何須(イカニシテカ)進-退。〔醍醐寺本19B〕鈔本「辞」〔二19ウC〕※陽明文庫本「辞」〔12ウD〕慶安三版「辞」〔19ウG〕
とあって、「詞」の標記字にて「いなふ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
此間(コロハ)踈-陋(ソロウニシテ)イヤシクシテ未レ免(マ )二風-塵タモ一。入トキレ室不レ合ヘカラ二推-詞(シ)イナフ昇モレ堂何須(イカニシテカ)進-退。〔〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「辞」の標記字に和訓「いなふ」の語を収載する。
いな‐・ぶ【辞・否】[一]〔他バ上二〕(感動詞「いな」に、動詞をつくる接尾語「ぶ」を付けた語)承知しないということを表わす。断る。いやがる。辞退する。いなむ。*日本書紀〔七二〇〕神武即位前(北野本訓)「兄猾罪を天(きみ)に獲(え)たれば事(こと)辞(イナフル)所無し」*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕春日詣「春を惜しむ花〈略〉冬をいなぶるとり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕末摘花「人のいふ事は、強うもいなびぬ御心にて」*大鏡〔一二C前〕三・師輔「ありがたきことをも奏せさせ給ふことをば、いなびさせ給ふべくもあらざりけり」*大唐西域記長寛元年点〔一一六三〕三「辞(イナフル)ことを致すに由无くして」*宇治拾遺物語〔一二二一頃〕一五・七「国のうちにある身なれば、えいなびずして、米百石の分奉るといひて、とらせたり」[二]〔他バ四〕[一]に同じ。*日本書紀〔七二〇〕允恭元年一二月(寛文版訓)「何ぞ遂に謝(イナハ)むや」*撰集抄〔一二五〇頃〕八・伊勢広隆寺歌事「もし道にて思はざる事侍るとも、いなぶ心あるべからず」【発音】〈標ア〉[ナ]平安○○◎〈京ア〉[0]【辞書】色葉・名義・文明・伊京・黒本・言海【表記】【辞】色葉・名義・伊京・黒本【怯・固辞】色葉【不肯・裾・禁・耒惜・狛】名義【吝惜】文明【希惜】黒本
[関連語補遺]
《回文》(いなふ▼ふない) |
うらめしけにこそおほしたるや 覈恨遊仙窟 朱雀院我御代にかゝる行幸なきを恨おほしめす也。〔角川書店刊459上@A〕
とあって、「うらめし」の語として、『遊仙窟』に「覈恨」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
229:下官不(ス)レ忍( ハ)二相看( ル)一忽把(トテ)十娘手子(タナスニ)一而別( ル)可(ハカリニ)。行モト无至( ル)二三里ハカリモト一廻( シ )レ頭(カ )看( ルニ)數人ノ猶在テコト下舊(モト)ノ處立リ。余時漸-々去遠(トヲサカル)シ聲沈( ミ)影滅(キヘ)顧(カ ミ)瞻(ミルニ)マホルニ不(ス)レ見( ヘ)惻愴(シキサウ)イタムテ而去ヌ何事。行テ到テ山-口一浮ヘ舟而過( ク)。夜耿-々兎而不レ寐(イ子ラレ)心敗(ケイ)-々而靡( シ)レ託(ツクコト)。既覈-恨(サウコム)イタミウラム/カシラカモス於啼-フ毫モ一又淒二-傷(せイシヤウス)於別-フモ一。飲( ミ)レ氣呑( ム)レ聲天-道人情有テレハレ別( レ)必怨( ミアリ)ム有テレ怨必盈(ミツ)イキトホリアリ。去シ日一ツニ何ソ長キ來ル宵(ヨル)一ツニ何ソ短キ。比-目ノウヲ絶(タチ)レ對ヲムカウコトヲ雙ヘル鳧(カモ)失( フ)レ伴(トモカラ)ヲ日々衣ェ(ユルヒ)朝々(アサナアサナ)帶(ヲヒ)緩(ユルフ)。口上( ヘ)脣( ル)裂(サケ)胸間(ア )氣( キ)滿( ツ)ヌ涙瞼(マナシリニ)マナフタ千行(チツラ)フ愁膓(ワタ)寸断(キサキサニ)レ。端-坐兎横( タヘ)レ琴(コト)涕-血流( ル)レ襟( ノクヒ)千ノ思( ヒ)競( ヒ)起( リ)百ノ慮( ヒ)交( リ)侵( ス)。獨( リ)?(ヒソメ)レ眉而永結( ホル)空ク抱(イタキ)カヽヘレ膝而長( ク)吟(シナマル)サマヨフ。望トモ神-仙一兮不不(ス)レ可( カラ)レ見( ル)普( ク)二天-地一兮知( ム)余カ心一思( ヒ)フトモ二神-仙一不レ可レ得(ウ)?ルコト二十娘一兮断ヘヌタリ二知( リ)聞コト一欲フレ聞ムトレ此兮膓(ヲモヒ)亦乱( ル)更( ニ)見テレ此兮悩(ナヤム)余カ心一。〔醍醐寺本72F、文庫〕鈔本「悵恨」〔二19ウC〕※陽明文庫本「覈恨」〔12ウD〕慶安三版「覈恨」〔19ウG〕
とあって、「覈恨」の標記字に字音「サウコム」そして「イタミウラム」と「カシラカモス」の二語訓を記載する。この「いたみうらむ」の訓を『河海抄』編者は採録の対象としたことになる。
次にこれを『遊仙窟抄』第一冊にては、
夜耿-々兎而不レ寐(イ子ラレ)心敗(ケイ)-々而靡( シ)レ託(ツクコト)。既覈-恨(サウコム)イタミウラム/カシラカモス於啼-フ毫モ一又淒二-傷(せイシヤウス)於別-フモ一。飲( ミ)レ氣呑( ム)レ聲天-道人情有テレハレ別( レ)必怨( ミアリ)ム有テレ怨必盈(ミツ)イキトホリアリ。。〔〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「覈恨」の標記字に和訓「いたみうらむ」の語を収載する。
うらめし・い【恨・怨】〔形口〕うらめし〔形シク〕@相手の心や処置が期待に反するものであったり、望ましくない事態が自力ではどうにもならないような場合、それに対する不満、嘆きなどが心の内にわだかまっている。残念で悲しい。*万葉集〔八C後〕一三・三三四六「天地の 神し恨之(うらめシ) 草枕 この旅の日(け)に 妻離(さ)くべしや〈作者未詳〉」*万葉集〔八C後〕二〇・四四九六「宇良売之久(ウラメシク)君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける〈大原今城〉」*古今和歌集〔九〇五〜九一四〕恋五・八二三「あき風のふきうらがへすくずのはのうらみても猶うらめしき哉〈平貞文〉」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕御法「年ごろ、むつましく仕うまつり馴れつる人人は、しばしものこれる命、うらめしきことを嘆きつつ、尼になり」*平家物語〔一三C前〕三・少将都帰「生をへだてたる習ひほどうらめしかりけるものはなし」*徒然草〔一三三一頃〕六九「疎からぬおのれらしも、うらめしく我をば煮て、辛き目を見するものかな」*史記抄〔一*浄瑠璃・都の富士〔一六九五頃〕三「それはつれなしうらめしし、逢ふ瀬がなくはないまでよ」*浄瑠璃・八百屋お七〔一七三一頃か〕上「親父様は死なしゃったか。ヲヲサヲヲサエエ問ふも語るも浦めしや」*談義本・成仙玉一口玄談〔一七八五〕一・三保箒良得羽衣之談「住みなれし空にいつしか行く雲の、臟(ウラメ)しき景色や」Aきたない。*筑紫方言〔一八三〇頃〕「むさいきたないと云事を うらめしい」Bいやらしい。*浜荻(久留米)〔一八四〇〜五二頃〕「うらめし いやらし。恨敷也」【方言】@不潔だ。きたない。汚らわしい。《うらめしい》久留米†127東京都利島323福岡県872熊本県阿蘇郡923大分県日田郡・玖珠郡939《いらめしい》福岡市872《らめしい》大分県日田郡939Aいやらしい。《うらめしい》岩手県上閉伊郡098熊本県玉名郡058《うらめし》岩手県気仙郡100Bゆううつだ。おっくうだ。《うらみしい》岩手県気仙郡102C吝嗇(りんしよく)だ。金銭にきたない。《いらめしい》福岡市879【語源説】(1)ウラムの未然形がウラマシと活用した、その転か〔大言海〕。(2)ウラミ(心見)から転成した形容詞。シは形容詞語尾〔万葉集=日本古典文学大系〕。(3)ウラミメカシキの義〔和句解〕。【発音】ウラメシイa〈標ア〉[シ]〈京ア〉[メ]文「うらめし」〈標ア〉[メ]〈ア史〉江戸「うらめしき」●●●○○〈京ア〉[メ]【上代特殊仮名遣い】青色は甲類に属し、赤色は乙類に属する。ウラメシ【辞書】易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【臟】易林・書言【筮】書言【恨敷】ヘボン【怨】言海
[関連語補遺]
《回文》(うらめし▼しめらう) |
なかめする軒の雫に袖ぬれてうたかた人をしのはさらめや 未必或ウツタ人遊仙窟 。〔角川書店刊437下EF〕
とあって、「うたかた」の語として、『遊仙窟』に「未必」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
013:須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕鈔本「未必」〔二19ウC〕※陽明文庫本「未必」〔12ウD〕慶安三版「未必」〔19ウG〕
とあって、「未必」の標記字に「うたかた」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「未必」の標記字に和訓「しつらひ」の語を収載する。
うた‐かた【泡沫】(「うたがた」とも)[一]〔名〕@水の上に浮いているあわ。水あわ。*十巻本和名抄〔九三四頃〕一「霤 潦等附 〈略〉淮南子注云雨〈和名宇太加太〉雨潦上沫起若覆盆也」*方丈記〔一二一二〕「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし」*名語記〔一二七五〕九「うたかた如何。これは波の異名歟。うくたまかた也。浮玉形也。まろにていできてやがてきゆるあはの事なるべし」Aはかなく消えやすい物事のたとえにいう。→うたかたの。*赤染衛門集〔一〇四一〜五三頃〕「雨降れば水に浮かべるうたかたの久しからぬは我身なりけり」*浄瑠璃・平仮名盛衰記〔一七九三〕三「昨日めでたき人だにも今日は漂ふうたかたの粟津が原の討死を」[二]〔副〕@のあわのはかなく消えるように、少しの間も。しばらくのまも。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕真木柱「ながめする軒のしづくに袖ぬれてうたかた人をしのばざらめや」A「うたがたも」に同じ。*草根集〔一四七三頃〕一五「此世にてもゆる蛍は思ひ川うたかた誰にあはで消けむ」*俳諧・三冊子〔一七〇二〕わすれ水「『涙川たへずながるるうき瀬にもうたかた人にあわで消めや』この歌の『うたかた』は『むしろ』といふ字、『何んぞ』といふ字二説在。義理は『何ぞ』也。なんぞ人に逢はできへんと也」【語源説】(1)ウツカタ(空形)の転〔雅言考・名言通・大言海・国語の語根とその分類=大島正健〕。(2)ウツラカタ(虚象)の約転〔冠辞考〕。(3)浮キテ得ガタキモノの略〔歌林樸〕。(4)ワガタ(輪形)。ワの延音ウタ〔和訓集説〕。(5)ウクタマカタ(浮玉形)の反〔名語記〕。【発音】〈音史〉平安末以降「うたがた」と濁音にも。〈標ア〉[0]〔1〕は●●●●平安か 鎌倉〔2〕 は●●●○平安●●●● 鎌倉●●●○〈京ア〉[0]【辞書】和名・色葉・名義・日葡・書言・言海【表記】【沫雨】和名・色葉・名義・書言【海】書言
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《回文》(うたかた▼たかうた) |
しはふきやみ 十娘(チヤウカ)曰児(ヲノコ)近来患睚(シハフキヤミシテ)クワンソウ声音(コヘ)不徹(サハヤカ)遊仙窟 睚病〔不本十病〕咳睚 咳病。〔角川書店刊249上HI〕
とあって、「おもと」の語として、『遊仙窟』に「患睚」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
013:須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕鈔本「患睚」〔二19ウC〕※陽明文庫本「患睚」〔12ウD〕慶安三版「患睚」〔19ウG〕
とあって、「患睚」の標記字に「しはぶきやみ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「患睚」の標記字に和訓「しはぶきやみ」の語を収載する。
從渠 シツラヒ 燉理 同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
從渠 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
從渠レウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕
しわぶき‐やみ[しはぶき:]【咳病】〔名〕せきがでる病気。せきこむやまい。風邪、気管支炎、喘息など。しわぶきやまい。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕夕顔「このあか月より、しはぶきやみにや侍らん、頭いと痛くて、苦しく侍れば」*醍醐寺本遊仙窟康永三年点〔一三四四〕「児(わらは)は近来患嗽としはふきやみして声音徹(ささやか)ならず」*増鏡〔一三六八〜七六頃〕一五・村時雨「今年いかなるにか、しはぶきやみ流行りて、人多く失せ給ふ中に」【発音】〈標ア〉[0]【辞書】書言・言海【表記】【咳病】書言・言海
[関連語補遺]
《回文》(しはぶきやみ▼みやきぶはし) |
なをさりにも 平生(ナヲサリ)遊仙窟 〔角川書店刊260上B〕
とあって、「なをさり」の語として、『遊仙窟』に「平生」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
182:十娘詠テレ弓曰平生好ムテ須(モチ井テ)レ弩(ユミ)。得レ挽(ヒク)即凰( レ)レ頭聞( ク)二渠(ミマイトフせノ)把(トリ)提(サクルコトノ)快(心ヨキ)一更乞( フ)二五三籌(カス)一。〔醍醐寺本56C、文庫〕鈔本「平生」〔〕※陽明文庫本「平生」〔〕慶安三版「平生」〔〕
とあって、「平生」の標記字に「みまいとふせ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
十娘詠テレ弓曰平生好ムテ須(モチ井テ)レ弩(ユミ)。得レ挽(ヒク)即凰( レ)レ頭聞( ク)二渠(ミマイトフせノ)把(トリ)提(サクルコトノ)快(心ヨキ)一更乞( フ)二五三籌(カス)一。〔〕。〔〕
とあって、「平生」の標記字に和訓「」の語を収載する。
等閑 ナヲサリ ナヲサリカヲテ 。〔前田家本×〕〔黒川本中卷古畳字門37ウC〕
平生 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
平生レウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕×
平生等閑(ナヲサリ) 。〔10冊言辞門32F〕
なおざり[なほざり]【等閑】〔形動〕深く心にとめないさま。本気でないさま。いいかげん。通りいっぺん。かりそめ。*後撰和歌集〔九五一〜九五三頃〕秋下・四〇三「なをさりに秋の山べを越えくれば織らぬ錦をきぬ人ぞなき〈よみ人しらず〉」*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕忠こそ「なをざりなる御心かな。なほいみじきものは女の身なりけり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕葵「なをざりのすさびにつけても、つらしとおぼえられ奉りけむ」*色葉字類抄〔一一七七〜八一〕「等閑 ナヲサリ」*名語記〔一二七五〕九「なをざり、如何。等閑とかけり。猶避の義歟。閑にひとしとかけるは、さはがず、ききもいれざる義とおぼえたる歟」*申楽談儀〔一四三〇〕能書く様、その一「新座むきに、なをざりと謡ひ度歟」*俳諧・曠野〔一六八九〕員外「芭蕉翁の伝へしをなをざりに聞しに」*地獄の花〔一九〇二〕〈永井荷風〉一二「どうも児供(こども)の時教育を等閑(ナホザリ)にしたものには困る事が多いもので」【補注】中古では「源氏物語」に多く見え、用法としては主に男性の女性に対する性情や行動への評価として現われている。【語源説】(1)ナホ(直)ゾ‐アリ(有)の義〔和訓栞・大言海・日本語源=賀茂百樹〕。ナホゾアル(猶在)の義〔名言通〕。(2)ナホサリ(直去)の義〔言元梯〕。ナヲサリ(猶避)の義か〔名語記〕。ナホサリ(猶去)の義〔国語本義〕。【発音】〈標ア〉[0]〈京ア〉[0]【辞書】色葉・下学・伊京・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【等閑】色葉・下学・伊京・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【偸間・平生】書言[子見出し] * なおざりがてら
[関連語補遺]
《回文》(おもとともお) |
拠瞋(ハラタチヌ)遊仙窟 攀?か怒れる姿也。〔角川書店刊427上M〕
とあって、「はらだち」の語として、『遊仙窟』に「瞋」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
057:五嫂曰。娘子把レ酒莫レ瞋(イカル)マメタツ新-婦[上]更亦不[上]敢(カン)[上]。※〔醍醐寺本文庫26@〕
137:十娘見(ミ)二五嫂頻弄(モ フ)一佯(イツハリ)羞{朏}ナマハチテ不レ咲(ワ )エマ。余( リ)詠曰千金此處有( リ)一咲(エミ)待(マツ)二渠為ニせム一不(ス)レ望( マ)全( ク)露(アラハサム)レ齒(ハヲ)ハクキ請( フ)為ニせム二暫顰(ヒソメヨ)ムコトヲレ眉。※〔醍醐寺本文庫43B〕
鈔本「拠瞋(ハラタチヌ)」〔二19ウC〕※陽明文庫本「拠瞋(ハラタチヌ)」〔12ウD〕慶安三版「拠瞋(ハラタチヌ)」〔19ウG〕
とあって、「拠羞」の標記字右傍らに「朏」の字を添え和訓は「いつはり/なまはちて」訓読記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
五嫂曰。娘子把レ酒莫レ瞋(イカル)マメタツ新-婦[上]更亦不[上]敢(カン)[上]。〔〕。〔頭書二19ウI〕
十娘見(ミ)二五嫂頻弄(モ フ)一佯(イツハリ)羞{朏}ナマハチテ不レ咲(ワ )エマ。余( リ)詠曰千金此處有( リ)一咲(エミ)待(マツ)二渠為ニせム一不(ス)レ望( マ)全( ク)露(アラハサム)レ齒(ハヲ)ハクキ請( フ)為ニせム二暫顰(ヒソメヨ)ムコトヲレ眉。〔〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「瞋」の標記字に和訓「はらたち」の語を収載する。
瞋(イカル) シツラヒ 燉理 同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
瞋(イカル) シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
腹立(ハラダツ)[入入]フクリウ 或作二拠朏(ハラダツト)一。〔021、79E〕
はら‐だち【腹立】〔名〕(「はらたち」とも)腹を立てること。怒ること。癇癪(かんしやく)をおこすこと。立腹。*妙一本仮名書き法華経〔鎌倉中〕七・妙音菩薩品第二十四「貪欲、瞋恚(シンイ〈注〉ハラタチ)、愚癡、嫉妬、慳慢、おほきことなしや、いなや」*曾我物語〔南北朝頃〕三・九月名月にいでて、一万・箱王、父の事なげく事「身づからが弓の弦くひきりたる鼠の首は、射させまゐらすベきものを、はらだちや」*虎明本狂言・鈍太郎〔室町末〜近世初〕「なふはらたちや、そのやうな事をいはしますか」*西洋道中膝栗毛〔一八七〇〜七六〕〈仮名垣魯文〉一一・下「もってのほかはらたちのやうすに」【補注】「日葡辞書」には清濁両様の見出しがみられる。【方言】@よく立腹する者。怒りんぼ。《はらたちごんべえ〔─権兵衛〕》千葉県夷隅郡040《はらたちふぐと〔─河豚〕》東京都三宅島333A虫、かまきり(蟷螂)。《はらたち》群馬県佐波郡242長野県上田475《はらたちばば〔─婆〕》千葉県夷隅郡288《はらたちばばあ》埼玉県南埼玉郡054北葛飾郡258千葉県261《はらたちばんば》山梨県455《はらたちばんばあ》静岡県富士郡523《はらたちげんべえ〔─源兵衛〕》武蔵江戸近郊†025千葉県上総001夷隅郡288《はらたちげんぱ》千葉県夷隅郡040《はらたちごんべえ》埼玉県054844《はらたちごんべ》埼玉県入間郡257《はらたちごおじ》埼玉県秩父郡250【発音】〈標ア〉[0][チ]〈京ア〉[0]【辞書】日葡・ヘボン・言海【表記】【腹立】ヘボン・言海
[関連語補遺]
《回文》(はらだち/ちだらは) |
へにといふ物いとあからかにかいつけて 粉白氏文集 面子(メンシノカホツキ)荏苒(シンセントヘニアカニシテ)遊仙窟 これも児女子の氣粧也。〔角川書店刊416上RS〕
とあって、「べにあか」の語として、『遊仙窟』に「荏苒」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
花容(カタチ)婀娜(タヲヤカニシテ)天上(アメノ ヘニモ)無( シ)レ儔(タクヒ)玉體(スカタ)逶聆(井イ)コマヤカニシテ人間(ヨノナカニ)小( シ)レ匹(タクヒ)。輝々テレル面子(メンシ)カホツキ荏苒(シンセン)ヘヽヤカニシテ畏(ヲソル)彈(ツラソハ)ハシカハ穿(ウケナムト)細々(ホソヤカナル)腰支(コシハセ)參差(タヲヤカニシテ)疑( フ)二勒断(タヘナムカト)一。韓娥(カンカ)宋玉云シヲトコイロコノミモ云シカホヨイヒトモ 見(ミテシカハ)則愁(ウレヘイシ)生(イケランコトヲ)ナル絳樹青琴云シヲンナイロコノミモ云シカホヨヒ人モ 對(ムカハマシカハ)レ之羞(ハチ)死(シナマシ)。〔醍醐寺本5@・文庫205B〕鈔本「荏苒」〔二19ウC〕※陽明文庫本「荏苒」〔12ウD〕慶安三版「荏苒」〔19ウG〕
とあって、「荏苒」の標記字に「べにあか」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「荏苒」の標記字に和訓「べにあか」の語を収載する。
荏苒 シツラヒ 燉理 同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
荏苒 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
荏苒(ジンゼン) 日月急過。〔疊字門160A〕
荏苒ジンゼン、ハヤシ・ノブ 展轉(テンテンスル)義。二日月ノ急ニ過義也。〔246、74A〕
じん‐ぜん【荏苒】[一]〔形動タリ〕歳月のめぐりゆくさま。また、物事がのびのびになるさま。延引。*懐風藻〔七五一〕和藤江守詠裨叡山先考之旧禅処柳樹之作〈麻田陽春〉「日月荏苒去。慈範独依依」*本朝無題詩〔一一六二〜六四頃〕四・三月尽日惜春〈藤原明衡〉「荏苒風光雖近夏、蹉霜鬢独添秋」*東海一余滴〔一三七五頃〕祭天外和尚文「爾来心同、不異合離。日月荏苒、二紀於茲」*須賀直見宛本居宣長書簡‐明和元年〔一七六四〕七月某日「足下病中、下榻待僕、荏苒至今」*随筆・胆大小心録〔一八〇八〕一〇八「この叙ははじめに、昇法しが村瀬に乞ひしかど、例の任冉として事はたさずありしかば」*国会論〔一八八八〕〈中江兆民〉「心神忽々として楽まず手足萎弱して挙らず胃膓消化すること能はず荏苒(ジンゼン)として唯死を待つのみ」*張華‐励志詩「日歟月歟、荏苒代謝。〈注〉荏苒猶漸進也」[二]〔副〕歳月が経過するさま。のびのびになるさま。*元和本下学集〔一六一七〕「荏苒 ジンゼン 日月急過」*読本・近世説美少年録〔一八二九〜三二〕二・一回「却説(かくて)光陰荏苒(ジンゼン)して」*条約改正論〔一八八九〕〈島田三郎〉四「五年の期限は荏苒経過せん」*篝火〔一九三九〜四一〕〈尾崎士郎〉一・二「このままの状態で荏苒(ジンゼン)日を過していたら」【発音】〈標ア〉[0]〈京ア〉[0]【辞書】下学・文明・黒本・言海【表記】【荏苒】下学・文明・黒本・言海〔名〕(動詞「しつらう」の連用形の名詞化)@調度、施設などを設け
[関連語補遺]
《回文》(べにあか▼かあにべ) |
ふてとるみちとこうつことゝこそあやしく玉しゐのほとみゆるをふかきらうなくみゆるおれ物を 遊仙窟云囲碁出於智慧〔角川書店刊347下KL〕
とあって、「おもと」の語として、『遊仙窟』に「囲碁」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
132:五嫂曰圍碁出於智慧張郎亦復太能。」。〔醍醐寺本43@、文庫221@〕
鈔本「囲碁」〔二19ウC〕※陽明文庫本「囲碁」〔12ウD〕慶安三版「囲碁」〔19ウG〕
とあって、「囲碁」の標記字に「おもと」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「囲碁」の標記字に和訓「しつらひ」の語を収載する。
囲碁 シツラヒ 燉理 同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
囲碁 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
囲碁レウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕
ごうつ【囲碁】〔名〕(動詞「しつらう」の連用形の名詞化)@調度、施設などを設け
[関連語補遺]
《回文》() |
めてたき御ありさまも 可愛メテタシ 遊仙窟 筋昆同 〔角川書店刊236上@〕
とあって、「めてたき」の語として、『遊仙窟』に「可愛」「筋昆」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
僕又為詩曰「檮℃l面合,光色兩邊披。錦障劃然卷,羅帷垂半欹。紅顏雜緑黛,無處不相宜。艷色浮粧粉,含香亂口脂。鬢欺?鬢非成鬢,眉咲蛾眉不是眉。見許實娉?,何處不輕盈!唸怜嬌裏面,可愛語中聲。婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。巧兒舊來鐫未得,畫匠迎生摸不成。相看未相識,傾城復傾國。迎風?子欝金香,照日裙裾石榴色。口上珊瑚耐拾取,?裏芙蓉堪摘得。聞名腹肚已猖狂,見面精神更迷惑。心肝恰欲摧,踊躍不能裁。徐行??香風散,欲語時時媚子開。靨疑織女(タナハタツメノ)留星去,眉似?娥送月來。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕鈔本「可愛」〔二19ウC〕※陽明文庫本「可愛」〔12ウD〕慶安三版「可愛」〔19ウG〕
とあって、「可愛」「筋昆」の標記字に「めてたし」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「可愛」「筋昆」の標記字に「めてたし」の語訓を収載する。
可愛 メテタシ。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
可愛 メテタシ[平平上平]。〔法中24D〕
可愛 メテタシレウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕
めでた・い〔形口〕めでた・し〔形ク〕(動詞「めでる(愛)」の連用形「めで」に「いたし」の付いた「めでいたし」の変化したもの。ほめたたえることがはなはだしい、すなわち、対象にたいへん心がひかれ、好み愛する気持になっていることを表わす。「目出度」「芽出度」などの字をあてることもある)@見た目に魅力的な状態で、ほめたたえるに値する。立派である。見事である。結構である。すばらしい。イ人物についていう。*竹取物語〔九C末〜一〇C初〕「かぐや姫もとのかたちに成ぬ。御門、なほめでたく思し召さるる事せき止めがたし」*大和物語〔九四七〜九五七頃〕四〇「その宮にさぶらひけるうなゐなん、この男宮をいとめでたしと思ひかけ奉りたりけるをも」*狭衣物語〔一〇六九〜七七頃か〕一「かくのみ幼き者はめでたきものとのみ、思し習ひたるを」ロ人の容姿、振舞などについていう。*竹取物語〔九C末〜一〇C初〕「かぐや姫かたちの世に似ずめでたき事を、御門きこしめして」*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕内侍督「御髪つくろひ、かしづきたてる様、めでたき事限りなし、いとうつくしげなり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕紅葉賀「御髪の、いとめでたくこぼれかかりたるをかきなでて」*今昔物語集〔一一二〇頃か〕一・三「又諸の目出たく厳(いつく)しき女を撰て具せしめて」ハ一般の事物についていう。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕内侍督「銀(しろかね)の透箱のいと清らなるに、敷物などいとめでたし」*徒然草〔一三三一頃〕二三六「丹波に出雲と云ふ所あり。大社をうつして、めでたくつくれり」ニ自然の風物についていう。*千里集〔八九四〕「白雲の中を分けつつ行暮のめてたきことは山にぞありける」*栄花物語〔一〇二八〜九二頃〕初花「十五夜の月曇なく、秋深き露の光にめでたき折なり」*徒然草〔一三三一頃〕二一「岩にくだけて清く流るる水のけしきこそ、時をもわかずめでたけれ」A食べ物の味がすぐれている。うまい。おいしい。*大和物語〔九四七〜九五七頃〕一七三「よろづの物食へども、なほ五条にてありし物は、めづらしうめでたかりきと、思ひいでける」*宇治拾遺物語〔一二二一頃〕一三・一一「うまきこと、天の甘露もかくあらんとおぼえて、目出かりけるままに、おほく食ひたりければ」*当世書生気質〔一八八五〜八六〕〈坪内逍遙〉はしがき「飴は味ひいと美(メデタ)き一種の食物に外ならねど」B声や音などが、趣があってすぐれている。よい。*大和物語〔九四七〜九五七頃〕一六八「声いと尊くめでたう聞ゆれば、ただなる人にはよにあらじ」*狭衣物語〔一〇六九〜七七頃か〕一「殊に人に知られぬ手を一二つばかり、吹き出して止みぬるを、〈略〉めでたくいみじと思し召したる様、いとこちたし」Cすぐれていて、崇め尊ぶに値する。非常に尊い。ありがたい。*落窪物語〔一〇C後〕三「八講なむ、此世もいと尊く、後のためもめで度あるべければ、して聞かせ奉らまほしき」*梁塵秘抄〔一一七九頃〕二・四句神歌「神のめでたく現ずるは、金剛蔵王ははわう大菩薩」*平家物語〔一三C前〕一一・先帝身投「極楽浄土とてめでたき処へ具しまゐらせさぶらふぞ」*曾我物語〔南北朝頃〕一・費長房が事「この壺のうちに、めでたき世界有、〈略〉百二十丈の宮殿楼閣あり、天にて聖衆まひあそぶ」D評判・権勢・待遇などの度合がすぐれている。よい。*落窪物語〔一〇C後〕三「こはいかに。此殿にはかくめでたきおぼえにては侍ひ給ひけるぞ」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕浮舟「右の大殿の、さばかりめでたき御勢にて、いかめしうののしり給ふなれど」*虎明本狂言・鈍根草〔室町末〜近世初〕「おともの衆が、おほふ御ざあらふずる間、御ぐゎいぶんもめでたからふとぞんずる」E書、絵、和歌などが、すぐれている。上手である。うまい。*栄花物語〔一〇二八〜九二頃〕月の宴「道風などいひける手をこそは、世にめでたき物にいふめれど」*梁塵秘抄〔一一七九頃〕一・今様「和歌にすぐれてめでたきは、人丸赤人小野の小町」*無名抄〔一二一一頃〕「此はいとめでたき哥なり」F物事のしかた・ありかたが、すぐれている。上手である。うまい。*梁塵秘抄〔一一七九頃〕二・四句神歌「よくよくめでたく舞ふものは、巫小楢葉車の筒とかや」*堤中納言物語〔一一C中〜一三C頃〕花桜をる少将「琵琶を〈略〉近衛の御門わたりにこそ、めでたくひく人あれ」*宇治拾遺物語〔一二二一頃〕三・一八「人ゐまじり、苦しかるまじき所にては、物いひなどはしながら、めでたくのがれつつ、心も許さぬを」G物事が望ましい状態で、喜び祝うに値する。喜ばしく、結構である。近世・現代では、接頭語「お」を付けた「おめでたい」の形で用いることが多い。イ幸福・幸運の、度合が高くて、喜ばしい。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕浮舟「宮のうへこそ、いとめでたき御さいはひなれ」*平家物語〔一三C前〕二・烽火之沙汰「果報こそめでたうて、大臣の大将に至らめ」*仮名草子・伊曾保物語〔一六三九頃〕下・二七「さてもわが身は果報めでたき物かな」ロしあわせである。栄えている。うまくいっている。*栄花物語〔一〇二八〜九二頃〕月の宴「醍醐の聖帝とまして、世の中に、天の下めでたき例にひき奉るなれ」*今昔物語集〔一一二〇頃か〕二・二四「其の後は互に行き通て、各(おのおの)目出くてぞ過ぎける」*浄瑠璃・平仮名盛衰記〔一七三九〕三「昨日めでたき人だにも、今日は漂ふ泡沫(うたかた)の」ハ幸運である。好都合である。ありがたい。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕真木柱「おほきおとどを、めでたきよすがと思ひ聞え給へれど」*十訓抄〔1252〕七・信濃国諏訪社風祝事并俊頼歌事「しかれば、其年風静にて、農業のためにめでたし」ニ物事が、うまくいったり、思い通りである。また、その結果喜ばしいと思うさまをいう。首尾よい。*落窪物語〔一〇C後〕三「中納言忽ちに御心地もやみて、めでたし」*平家物語〔一三C前〕三・大塔建立「祈り申されければ、中宮やがて御懐姙あって、思ひのごとく皇子にてましましけるこそ目出たけれ」*古今著聞集〔一二五四〕二・五六「其後一両年ありて、めでたく往生を遂たりけり」*徒然草〔一三三一頃〕五一「思ふやうに廻りて、水を汲み入るる事、めでたかりけり」*日本読本〔一八八七〕〈新保磐次〉四「七十度に至りて終に麦を捧げて目出たく己れが穴に入りぬ」ホ人や物事の状態が、祝い喜ぶに値する。また、よい事が予想されたりして、喜ばしい。*落窪物語〔一〇C後〕一「四の君もまた御婿取し給はんと設け給ふめりと〈略〉めでたきや、誰をか取り給ふ」*平家物語〔一三C前〕三・頼豪「今度さしも目出たき御産に、大赦は行なはれたりといへ共」*日葡辞書〔一六〇三〜〇四〕「Medetai(メデタイ)〈訳〉喜ばしい、あるいは、上首尾である。また、何事かについて感謝の意や祝意を述べるのに使う語」*虎明本狂言・福の神〔室町末〜近世初〕「あひかわらず、両人同道いたすは、めでたい事で御ざる」*三人妻〔一八九二〕〈尾崎紅葉〉後・三五「これが地を固むる雨かも知れませぬ、うう目出(メデ)たいな」Hお人よしである。ばか正直である。また、愚かである。皮肉をこめた言い方に使われることが多い。現代では「おめでたい」の形で用いる。*茶屋諸分調方記〔一六九三〕六「めでたきお客はそれでもよろこびあがり給ふ」*洒落本・蕩子筌枉解〔一七七〇〕聴江笛送陸侍御「此客よほどめでたい人で、おもひいれとられたうへ、此たびのわかれ金」【語源説】@メデイタシ(愛甚)の義〔国語本義・国語の語根とその分類=大島正健・大言海・日本語源=賀茂百樹・ニッポン語の散歩=石黒修〕。Aメデイタシ(愛痛・感痛)の義〔俚言集覧・俗語考・菊池俗言考〕。Bメデ(芽出)タシの義〔志不可起・和訓栞〕。C目ダツラシの義〔名語記〕。D天の岩戸の伝説から、目出タシの義〔運歩色葉集・感興漫筆〕。E天の岩戸の伝説から、メデ(女出)の義〔和語私臆鈔〕。【発音】〈なまり〉メゼタイ〔埼玉方言・静岡・神戸〕メタカ〔埼玉方言〕メデター〔伊予・瀬戸内〕メゼタエ〔福島・瀬戸内〕メゼテー〔埼玉方言〕メデチ・メデチー・メリタイ〔鳥取〕メデテー〔埼玉方言〕メレタ〔岩手・飛騨〕メレタイ〔茨城・埼玉方言・石川・福井大飯・岐阜・飛騨・静岡・愛知・志摩・伊賀・南伊勢・鳥取・島根・広島県〕メレタカ〔壱岐続〕メレタタイ・メレテ〔岩手〕メレテー〔南知多〕メレンタイ〔広島県〕メンタイ〔茨城・飛騨・島根〕〈標ア〉[タ]〈京ア〉[デ]文「めでたし」〈標ア〉[デ]〈ア史〉江戸「めでたき」●●○○〈京ア〉[タ]【辞書】色葉・名義・文明・伊京・天正・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【目出度】文明・易林・書言・ヘボン【目出】色葉・天正【玩】名義・伊京【妙】伊京・天正【娃】名義[子見出し] * めでたき身(み) * めでたく打出(うちだ)し * めでたくかしくる
[関連語補遺]
《回文》(したでめ▼めでたし) |
おもと 侍者白氏文集 御許新猿樂記 遊仙窟云 從渠渠は汝(ナンチ)也?(ナンチ)也 大鏡云いふかひもなきほとの物にもあらすおもとほとのきはにてそありける 和泉式部か童名を御許丸といひけり〔角川書店刊235J〕
とあって、「おもと」の語として、『遊仙窟』に「渠」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
013:須臾之間忽聞( ク)内裏(ウチツカタニ)調( フル)レ箏(コト)之聲一僕(ヤツカリ)因( シテ)詠テ曰自(ヲノレハ)隱(ハタカクシテ)多(スクレタル)キレ姿(スカタノ)ヲ一則(ソクトウツクシ)キラ/\シキレ欺( ケルナル)アサムイテ他(ヒトヲ)獨自(ミ )眠(子フル)。故(コヽニ)々(子タマシカホニシテ)将モテ二纎(ホソヤカナル)手一時(ヨリ)々(\ニ)弄(カキナラス)二小弦(ホソキヲヽ)一。耳聞ニタモスラ猶氣絶(イキノタヘヌキ)モ眼メニ見(ミムトキ)若為(イカハカリ)怜[憐イ]ヲモシロカラン。從(ヨシヤ)渠(キミ)―女也痛(ハナハタ)不(スハ)レ肯(イナヒ)[平平上濁]レ人(ワレニ)更(サラニ)アカラサマニ別(コト)求(モトメンヤ)レ天(アメニ)アヤシキ所ヲ。〔醍醐寺本5C、文庫205〕鈔本「從渠」〔二19ウC〕※陽明文庫本「從渠」〔12ウD〕慶安三版「從渠」〔19ウG〕
とあって、「渠」の標記字に「きみ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
須臾之間忽聞?裏調箏之聲僕因詠曰自隱多姿則欺他獨自眠。故故將纎手時時弄小弦。耳聞猶氣?眼見若為憐。從渠痛不肯人更別求天。
須臾之間忽聞( ク)内裏(ウチツカタニ)調( フル)レ箏(コト)之聲一僕(ヤツカリ)因( シテ)詠テ曰自(ヲノレハ)隱(ハタカクシテ)多(スクレタル)キレ姿(スカタノ)ヲ一則(ソクトウツクシ)キラ/\シキレ欺( ケルナル)アサムイテ他(ヒトヲ)獨自(ミ )眠(子フル)。故(コヽニ)々(子タマシカホニシテ)将モテ二纎(ホソヤカナル)手一時(ヨリ)々(\ニ)弄(カキナラス)二小弦(ホソキヲヽ)一。耳聞ニタモスラ猶氣絶(イキノタヘヌキ)モ眼メニ見(ミムトキ)若為(イカハカリ)怜[憐イ]ヲモシロカラン。從(ヨシヤ)渠(キミ)―女也痛(ハナハタ)不(スハ)レ肯(イナヒ)[平平上濁]レ人(ワレニ)更(サラニ)アカラサマニ別(コト)求(モトメンヤ)レ天(アメニ)アヤシキ所ヲ。〔二19ウC〕。〔頭書二19ウI〕
とあって、「從渠」の標記字に和訓「しつらひ」の語を収載する。
君(クン)[平]キミ 在上之稱也/舉云也 公(コウ)[平]古紅反 侯(コウ)[平]皇后胡遘反 辟乾王宮仁吾臣辟門光胡反 丞諸膺反 渠キミ者也 。〔前田家本・下卷幾部人倫門57オ@〕〔黒川本下卷46ウC〕
從渠 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
從渠レウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕
お‐もと【御許】[一]〔名〕(「お」は接頭語)@天皇や貴人の御座所を敬っていう語。*日本書紀〔七二〇〕皇極四年六月(岩崎本訓)「入鹿、御座(オモト)に転(まろ)び就きて、叩頭(の)むで曰(まう)さく」A(天皇や貴人の御座所に仕える「おもと人」の意から)女性、特に女房を親しみ敬って呼ぶ語。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕俊蔭「見る人いだきうつくしみて、『親はありや。いざわが子に』といへば、『いな、おもとおはす』とて更に聞かず」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕夕顔「ただわれどちと知らせてものなどいふ若きおもとの侍るを」*和泉式部日記〔十一C前〕「夜のほどろにまどはかさるる、さわがしの殿のおもとたちや」*宇治拾遺物語〔一二二一頃〕一三・六「せうとの光遠に『姫君は質にとられ給ぬ』と告ければ、光遠が云やう『そのおもとは、薩摩の氏長ばかりこそは質にとらめ』といひて」B(「…のおもと」の形で)女房などの名前、または職名の下につけて呼ぶ敬称。*落窪物語〔一〇C後〕三「三の君の御方に、典侍(すけ)の君、大夫(たいふ)のおもと、下仕まろやとて、いと清げなる物の」*枕草子〔一〇C終〕四九・職の御曹司の西面の「つとめて、日さし出づるまで、式部のおもとと小廂にねたるに」[二]〔代名〕対称。多く、女性に対して敬愛の気持から用いる。代名詞「あ」「わ」と結び付いた「あがおもと」「わがおもと」という形もある。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕内侍督「何を賭けべからん。正頼、娘ひとり賭けん。をもとには何をか賭け給はんずる」*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕沖つ白浪「楊貴妃が、七月七日、長生殿にて聞こえ契りければ、おもとには、こよひ仁寿殿にてを契り聞こえん」*枕草子〔一〇C終〕一二九・関白殿黒戸より出でさせ給ふ「関白殿、黒戸(くろど)より出でさせ給ふとて、女房のひまなくさぶらふを、『あないみじのおもとたちや。翁をいかにわらひ給ふらん』とて、分け出でさせ給へば」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕玉鬘「この女の手をうちて、『あがおもとにこそおはしましけれ。あな嬉しともうれし』」【発音】〈標ア〉[モ]〈京ア〉(モ)【辞書】色葉・言海【表記】【御許】色葉・言海
[関連語補遺]
《回文》(おもとともお) |
しつらひ 燉理遊仙窟 〔37オ@、角川書店刊226上D〕
とあって、「しつらひ」の語として、『遊仙窟』に「料理」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
034:十娘遂ニ廻シレ頭喚( ム)桂心曰ク料(トウ)-理シツラヒ中[平]-堂将(井テ)ヒキ少府安-置せシメテ。〔醍醐寺本18D、文庫221@〕眞福寺本「料-理(トリシツラヒ)」※陽明文庫本「燉理トシツラ」〔12ウD〕慶安三版「料(シツラテ)-理ト」〔19ウG〕※醍醐寺本の「トウ(リ)」の音は「斗」の音に引かれた誤読歟。
とあって、「料理」の標記字に「しつらひ」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
十-娘(シウシヤウ)遂(ツイニ)廻(メクラシ)レ頭(カフヘヲ)喚(ヨンテ)二桂心(ケイシン)ヲ曰(イハク)料-理(リヤウリト)シツラニ中-堂(ナカツカタ)ヲ一。将(ヒイテ)二少-府(シヤウフ)ヲ一安-置(アンチ)せヨ。〔二19ウC〕ソコデ十娘カホヲメグラシ。桂心(ケイシン)ヲヨンデイハク。中堂ノザシキヲ料理テ。少府文成ドノヲツレマヒラセテ。安置(ヤスメヲキ)マヒラセヨト濱。〔頭書二19ウI〕
とあって、「料理」の標記字に和訓「しつらひ」の語を収載する。
補理 シツラヒ 燉理 同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
燉理 シツラフ[平平上平]。〔法中24D〕
料理(シツライ)レウリ、ハカル・コトワリ 又作二補理(シツライ)一修補スル義也。〔246、973G〜974@〕
志-つら・ふ[しつろふ]・ふ・へ・は・ひ・へ〔他動、四〕【料理】〔〕(「しつらう」の連用形の名詞化)@調度、施設などを設け
しつらい[しつらひ]〔名〕(動詞「しつらう」の連用形の名詞化)@調度、施設などを設け整えること。設備。支度。こしらえ。*竹取物語〔九C末〜一〇C初〕「うちうちのしつらひには、いふべくもあらぬ綾おりものにゑをかきて、まごとはりたり」*紫式部日記〔一〇一〇頃か〕寛弘五年九月一〇日「御しつらひかはる。白き御帳にうつらせ給ふ」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕帚木「心殿の東おもて払ひあけさせてかりそめの御しつらひしたり」*栄花物語〔一〇二八〜九二頃〕初花「御櫛の筥の内のしつらひ、小筥どものいり物どもは更なり」*随筆・胆大小心録〔一八〇八〕一三三「わづか八席のしつらいにて、石灰炉に炎々とたきほこらせて」A(「室礼」「補理」などはあて字)平安時代以後、請客饗宴、移転、女御入内などの晴れの儀式の日に、寝殿の母屋、および廂(ひさし)に調度類をたてて室内を装飾したこと。また、寺院で、法会(ほうえ)や仏事が行なわれる空間の飾りつけのこと。荘厳(しょうごん)。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕若菜上「御しつらひはかへ殿の西面に御几帳より始めてここの綾錦をまぜさせ給はず、もろこしの后の飾りをおぼしやりて」*色葉字類抄〔一一七七〜八一〕「補理 シツラヒ 燉理 同」*看聞御記‐応永二三年〔一四二六〕三月七日「先是早旦御会所室礼。屏風立廻」*大乗院寺社雑事記‐長祿二年〔一四五八〕一一月一三日「堂場理如例。指図在別紙」*御湯殿上日記‐文明一二年〔一四八〇〕八月一九日「くろとの御しつらゐせらるる」*禁中方名目鈔校註〔一七四一〜六〇頃〕上「室礼(シツライ) 仮名書也。本字料理と書。〈略〉補理とも書。書言故事殿中設曰室礼」B物事がうまくいくための手だて。*太平記〔十四C後〕二一・塩冶判官讒死事「女性、少(をさなき)人を具足したれば、兎角のしつらいに滞て、幡磨の陰山にては早追付れにけり」*禅鳳雑談〔一五一三頃〕中「うたいの内のべしぢめ事たとへ、びわのひだりの手にてうけおしのしつらい候也」【発音】〈標ア〉[ラ]〈ア史〉鎌倉室町○○○○・江戸●●○○〈京ア〉[0]【辞書】色葉・和玉・文明・天正・饅頭・黒本・易林・言海【表記】【補理】色葉・文明・黒本・易林【料理】文明・饅頭・黒本【燉理】色葉【党】和玉【殿】天正
[関連語補遺] 『遊仙窟』の「料理」を訓読して「しつらひ」として、古辞書では『色葉字類抄』及び観智院本『類聚名義抄』が最も早く収載するが、『日国』第二版では、同表記の語でも訓みが異なることで『名義抄』の方は未採録という形になっている。
《回文》弥、料理ていらっしゃい(いやしつらいていらつしやい) |
人やりならぬこかるゝ夕もあらむと 人やり我心からなる心也。人やりの道ならなくに大方はいきうしといひていさかへりてん古今 身のうさをしれははしたに成ぬへみ思へはむねのこかれのみする後撰十八 涙にし思ひの消る物ならはいとかくむねはこかれさらまし同蔑心蔑身大集経 千(チタヒ)思テ千(チヽ)ノ腸( タ)熱(アツシ)一( ヒ)念テ一( ヒ)心蔑(ムネコカル)遊仙窟 三教指皈云寧莫術婆伽之焼胸 一寸如焦之心胸中火消二年不乾之涙袂上雨収本朝文粹 紀斉(サイ)名作〔角川書店刊226上D〕
とあって、「むねこがる」の語として、『遊仙窟』に「心蔑」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
193:又詠曰千( ヒ)思千ノ膓壱(アツシ)一( ヒ)ノ念( ヒ)テ一ノ心蔑( コカス)コカレヌ。若為(イカニシテ)求守トナツクコトヲ得ル暫借(カラム)ヨせ二可憐(ウツクシケナル)腰ヲタモヲ一。〔醍醐寺本60E、文庫268D〕※陽明文庫本「千( ヒ)思千(チヽ)ノ腹壱( シ)一( ヒ)念( ヒ)一心蔑( コカル)」〔41ウE〕慶安三版「千( ヒ)思千(チヽ)ノ腹壱( シ)一( ヒ)念( ヒ)一心蔑( コカル)」〔〕
とあって、「蔑」の標記字に「こがす」「こがる」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
余(ヨ)時(トキニ)把―二著(トリ ツク)手子(タナスヱニ)一。忍(シノフ)添レ心(コヽロニ)不(ス)レ得(ヱ)。又(マタ)詠(エイ)兎曰(イハク)。千(チタヒ)思(ヲモテ)千(チヽ)ノ膓(ハラハタ)熱(アツシ)。一(ヒトタビ)念(ヲモフテ)一(ヒトツ)ノ心蔑(コヽロコガル)。若為(イカンシテカ)求守(ナツクコトヲ)得(ヱテ)。暫(シバラク)借(カラム)二可憐(ウツクシケナル)腰(コシ)ヲ一。〔五2オF267頁〕又詠兎イハク。チタビヲモフゴトニ。チタビ傷(ハラハタ)アツク。モユルヤウナリ。一タビヲモフゴトニ。一ノ心吁焦(アコカレ)タリ。イカニシテカ。ワレ十娘ヲ。求守(モトメマモリ)ヱテ。ウツクシキ腰ヲ。カリタキト濱。〔頭書五3オD269頁〕
とあって、「心蔑」の標記字に和訓「ささやか」の語を収載する。
焦(せウ)[平]コカス蔑纏灸膚 已上同。〔前田家本下卷古辞字門9オE〕〔黒川本下卷〕
蔑 音同上又績又/側角反 炬火/コカス(ル)[平平濁平]、コカレクサシ[平平平○○○]、ヤク[上平]、カハク[平平平]、カシケタリ、呉消。〔佛下末45BC〕
むね 焦(こ)がる 心の中で苦悶(くもん)する。心でもだえ苦しんで胸が熱くなるように感じる。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕帚木「かれはた、えしも思ひ離れず、折々人やりならぬむねこがるる夕もあらむと覚え侍り」*深養父集〔平安中〕「袖はぬれむねはこがるる我がみ哉こひはひ水になれるなるべし」【辞書】言海【表記】【胸焦ガル】言海
[関連語補遺]
〔『』〕
《回文》細々許な旨味を見舞う仲や酒(ささやかなうまみをみまうなかやささ) |
さゝやかにて 細々許(サヽヤカナリ)サイ/\キヨ 少々 小蠅(サハエ) いつれもちいさき心也。〔角川書店刊229下G〕
とあって、「ささやか」の語として、『遊仙窟』に「細々許」の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
023:婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。〔醍醐寺本27E、文庫20〕※眞福寺本「細々許ナルコト」※陽明文庫本「細々許」〔〕慶安三版「細々許」〔〕
とあって、「細々許」の標記字に「ささやか」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。〔〕〔頭書三14オA〕
とあって、「細々許」の標記字に和訓「ささやか」の語を収載する。
細々 サイ/\。〔前田家本下卷サ重點門50ウC〕〔黒川本下卷サ41オG〕
細(サイ)々 ホソヤカナリ[平平○○○]、サヽヤカナリ[平平○○○]。〔法中63オE〕
ささ‐やか【細─】〔形動〕(近世は「さざやか」とも)@形がいかにも小さく好ましく見えるさま。小さくまとまってこぢんまりとしているさま。細かなさま。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕国譲上「中納言殿は、いとささやかになれたる人のらうらうじきなり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕花散里「ささやかなる家の、木立などよしばめるに」*書陵部本名義抄〔一〇八一頃〕「細々 季云 遊仙窟云細々読保曾夜賀奈利 ササヤカナリ」*徒然草〔一三三一頃〕一三九「秋の草は〈略〉いづれもいと高からず、ささやかなる墻(かき)に、繁からぬ、よし」*浮世草子・好色万金丹〔一六九四〕五・四「萩柴の垣さざやかに山吹の帰り花三つ四つ二つ開きたるに寒菊はまだ莟也」*書言字考節用集〔一七一七〕九「細々許 サザヤカ〔遊仙〕」*人情本・仮名文章娘節用〔一八三一〜三四〕前・発端「三すぢ町のほとりにささやかなる家を借りて」Aきめが細かいさま。繊細なさま。*浜松中納言物語〔十一C中〕二「ゆるされありつる足もおさへ給へかしとて、引き寄せ給へば、にほひありさま、いとあてはかに、かうばしう、手あたりもいといみじうささやかに」Bおおげさでないさま。わずかなさま。形ばかりのさま。つつましいさま。*夜明け前〔一九三二〜三五〕〈島崎藤村〉第二部・下・八・四「短冊を取り寄せたり、互に歌をよみかはしたりするやうな、ささやかな席が開けた」*鳥獣戯話〔一九六〇〜六二〕〈花田清輝〉一・一「息子にも、ささやかながら、味わわせたいとおもったのであろう」【語源説】@ササは細小の義。ヤカは接尾語〔大言海〕。Aイササカの略転〔万葉代匠記〕。Bササヤカ(小々肖気)の義〔日本語原学=林甕臣〕。Cササは小々。日光は小に止っていよいよアカ(明)なりという義〔国語本義〕。Dシナシナヤカの義〔名語記〕。【発音】〈標ア〉[サ]〈2〉〈京ア〉[ヤ]【辞書】色葉・名義・書言・ヘボン・言海【表記】【逶色】色葉【細々】名義【細々許】書言【瑣小】ヘボン【細小】言海
[関連語補遺]
〔『』〕
《回文》細々許な旨味を見舞う仲や酒(ささやかなうまみをみまうなかやささ) |
心つきなく 開晴{關情}遊仙窟 無心月宛字 〔角川書店刊222上HI〕
とあって、「心つきなく」の語として、『遊仙窟』に「開晴{關情}」(「丹」字は、「關」の異体字で、「開」に字形が近いため誤写し易い。下位字の「情」も草体で「晴」に字形が近いことから誤写し易い文字であり、『河海抄』に「開晴」とするが、下記『遊仙窟』本文に順えば「關情」が正しいので、已下「關情」の語として取り扱うことにする)。そして宛字に「無心月」という二種の標記字を示す。
このうち、『遊仙窟』に、
065:琵琶入レ手未レ彈中間余(僕イ)乃詠曰心虚( キ)不レ可レ測(ハカル)眼(メ)細(ホソクシ)強( チ)丹-情( フ)コヽロヅキ廻( シ)レ身已入ル抱(フトコロ)不レ見(アラハサ)レ有嬌タル聲( ヘ)。〔醍醐寺本27E、文庫20〕※眞福寺本「丹(カナヘリ)レ情(ニ)コヽロツキナリ」※陽明文庫本「丹_情(コヽロツキナリ)」〔19オB〕慶安三版「關_情(コヽロツキ)」〔27ウ〕
082:其時緑-竹ノマカタケ彈( ク)レ箏(シヤウノコト)。五-嫂詠レ筆曰天生(ナシテ)素-面一能留( ム)レ客[入]躄レ意丹[平]-情コヽロヅキナル併在レ渠(キミ)ミマイトコロ。莫( シ)レ恠(アヤシフ)向( 井等ニ)者頻聲戰(ワナヽク)ワナヽイシ良由(マテ)フレ不ルニ得レ伴(トモ)乍(ニワカニ)心虚( キ)一。」〔醍醐寺本27E、文庫20〕※眞福寺本「丹情(コヽロツキ)ナルコト」※陽明文庫本「丹_情(タル)」〔21ウB〕慶安三版「關_情(コヽロツキナル)」〔30オD〕
とあって、「丹情」の標記字に「こころつき」の語訓を記載する。
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
眼(メ)細(ホソク)兎強(アナガチニ)關情(コヽロツキ)。〔三6ウC〕
五-嫂(コソウ)ハ詠(エイ)兎レ筝(サウ)ヲ曰(イハク)。天(テン)生(ナシテ)二素-面(ソメン)ヲ一能(ヨク)留(トヽメン)レ客(カク)ヲ發(ヒラキ)レ意(コヽロ)ヲ開情(カイシヤウ)トコヽロツキナル併(シカシナカラ)在(アリ)レ渠(キミ)ニ。〔三13オC〕マ意ヲヒラキ。情(ナサケ)ヲヒラクコト。サナガラ。キミ文成ノトコロニアリ。〔頭書三14オA〕
とあって、かたや「關情」、かたや「開情」の標記字に和訓「こころつき」の語を収載する。ここは『河海抄』の編者を含め、標記字に揺れがみられるところである。
心着無 コヽロツキナシ。〔前田家本下卷コ12ウF〕
心着無 コウロツキナシ。〔黒川本下卷コ10ウB〕
丹情 コヽロツキ[平○○○○]〔法中96E〕
開懐カナヘリ[平平○○] 二心ツキリナリ[平平濁平○○]〔法下74E〕
こころづき‐な・し【心付無】〔形ク〕感情的、感覚的、情緒的に、自分の気持と相いれないものに対する嫌悪感を表わす。気に食わない。心に好感が持てない。不満足で不愉快だ。*蜻蛉日記〔九七四頃〕上・天徳二年「今ぞ、れいの所に、うちはらひて、など聞く。されど、ここには、例のほどにぞ通ふめれば、ともすれば、こころづきなうのみ思ふほどに」*枕草子〔一〇C終〕一二一・いみじう心づきなきもの「いみじう心づきなきもの。〈略〉ものへも行き、寺へもまうづる日の雨。使ふ人などの、『我をばおぼさず、なにがしこそただいまの時の人』、などいふをほの聞きたる」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕夕顔「はかなびたるこそはらうたけれ。かしこく人に靡かぬ、いと心づきなきわざなり」*徒然草〔一三三一頃〕一九〇「いかなる女なりとも明暮添ひ見んには、いと心づきなく憎かりなん」【辞書】色葉・易林【表記】【心着無】色葉【无二心著一】易林
[関連語補遺]
開情(コヽロツキナク) 〔『温故知新書』89C〕
《回文》關情なり隣り木津路此処(こころづきなりとなりきづろここ) |
うちひそみぬかし 頻戚(ヒンシクト)イタミヒソム文選 舌出(ヒソム)遊仙窟 出万葉 人のなく時に口のすけみ出たる心也。又とし老ぬれは口のすけむをいふ也。 万第四 もゝとせにおいくち〔角川書店刊〜〕
とあって、「ひそみ」の語として、『文選』に「頻戚」、『遊仙窟』に「舌出」、『万葉集』に「出」の三種の標記字を示す。このうち、『遊仙窟』に、
197:十娘曰雖レ拒(フせク)レ張能ク不( シ)レ免(ユ レ)マヌ輸(チク)マケタリ二他口子(クチヲスウニ)[入]ハキノ一。々々(クチスウコト)爵[入]-郁(ウマシ)[入]カウハシ鼻似リ二-穿カホハタキモノニ一舌-子シタハ芬-芳トカウハシ頬(ツラハ)疑フ二鑽(キリ)破( リテンカト)一。〔醍醐寺本61C、文庫20〕※眞福寺本「舌-子」※陽明文庫本「舌-子」〔〕
とあって、「舌」の字を有する熟語として「舌子」に「した」の語訓を記載するに過ぎない。『河海抄』が示すこの「舌出」は『遊仙窟』には無い語であることが判明する。では何を見たのかと考察するに、次に示される所の『万葉集』が注目されよう。実際、『万葉集』卷四・七六四の大伴宿祢家持和歌一首には、
百年(モヽトセ)尓(ニ) 老(オイ)舌出(シタイテ)クチイソニ而(ヽ) 与余牟(トヨム)友(トモ) 吾者(ワレハ)不厭(イトハジ) 戀者益友(コヒハマストモ) 〔K1910173左G〕
百年(モヽトセ)尓(ニ) 老(オイ)舌出(シタイテ)クチヒソミ而(ヽ) 与余ト牟(トヨム)友(トモ) 吾者(ワレハ)不恃(イトハシ) 戀者益友(コヒハマストモ) 〔西本願寺本43ウD〕
これを『遊仙窟抄』第一冊には、
々々(クチスウコト)爵[入]-郁(ウマシ)[入]カウハシ鼻似リ二-穿カホハタキモノニ一舌-子シタハ芬-芳トカウハシ頬(ツラハ)疑フ二鑽(キリ)破( リテンカト)一。〔オ@〜D〕ナ此(コノ)。〔頭書一21ウI〜22ウ@〕
とあって、「舌子」について和訓「した」の語を収載するだけである。ここは『河海抄』の編者が出典を違えたところとしておく。
? クチヒソム。渊已上同。〔黒川本中卷ク人事門74ウC〕
?(ヒン)[平] ヒソム/笑也/―眉。頻同。嘸幎盗偸渊已上同。〔前田本下卷ヒ部人事門93オF、黒川本89ウ@〕
? 音頻[平] クチヒソム[上上平○上]/マナカ(ミヽ)ミスハル ヒソム〔佛中51D〕
頻 音槊[平] シキリナリ[上上○○○] シハ/\[上上濁○○] スミ[平]ヤカナリ/イヤ/\[上上○○] ヒソム[平○上] 重ヽ比ヽ近ヽ毎ヽ和平又去〔佛下本23B〕
ひそ・む【顰・?】[一]〔自マ四〕眉根や口元などがゆがむ。顔つきがゆがむ。→くちひそむ。べそをかく。泣き顔になる。*落窪物語〔一〇C後〕四「親子の面を見でくだしてんずるかとて、ただひそみにひそみ給ひて」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕若菜上「まみのあたりうちしぐれて、ひそみ居たり」[二]〔他マ下二〕→ひそめる(顰)。【語源説】@ヒソカにあつむる意〔和句解〕。Aヒサ(引挟)むの義〔言元梯〕。【発音】〈標ア〉[ソ][0]〈京ア〉[0]【辞書】ヘボン・言海【表記】【顰】ヘボン・言海【?】言海
くち‐ひそ・む【?】〔自マ四〕にがにがしく思って口がゆがむ。にがにがしく思う顔つきをする。*新撰字鏡〔八九八〜九〇一頃〕「廖 口由加牟 又口比曾牟」*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕忠こそ「くちひそむもしらず、上中下、すげなき遊びを、心一つやりて、こと心なし」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕総角「山里の老人どもは〈略〉姫宮の御心を、あやしくひがひがしくもてなし給ふを、もどきくちひそみ聞こゆ」*将門記承徳三年点〔一〇九九〕「天神(クチヒソム)て賊類非分の望を謗り、地類呵嘖して悪王不便の念を憎む」【辞書】字鏡・色葉・名義・和玉・易林【表記】【?】色葉・名義・易林【廖】字鏡【鳴・渊】色葉【烙・淹】名義【顰】和玉
[関連語補遺]
《回文》遵へた者も耐え難し(したがへたものもたへがたし) |
あはめにくむ 淡悪アハ/\シクニクム也 すへておとこも女もわろものはわかわつかにしれるたの事をのこりなく見せつくさんと思へるこそいとをしけれ 虚俗キヨシヨクノワロモノ 遊仙窟 〔『紫明抄』角川書店本27下F〜H〕
とあって、字音「キヨシヨク」和訓「ワロモノ」の語として、「虚俗」の標記字を示す。これと同じく『紫明抄』では「虚俗」として記載する。このうち、『遊仙窟』に、
026:十娘曰向(サキ)見( シトキ)二詩-篇一謂(ヲモヒキ)言( ノミアル)虚-俗タヽヒトナラント今逢(ムカヘルトキ)アフ二玉-貌(ハウ)一更勝(マサレリ)レタリ文-章一。乃是文-章窟(イ )也。〔醍醐寺本15オB、文庫20〕※金剛寺本「凡俗(ワルモノナランヤ)」〔33@〕※眞福寺本「凡俗(タヽヒトナラント)ワルモノナラント」※陽明文庫本「凡-俗(ノタヒヽトノ)」〔10ウ@〕※慶安版「凡俗タヽヒトナラント」〔16ウA〕
とあって、醍醐寺本だけが「虚俗」に作り、「ただひとならんと」の語訓を記載する。他本は「凡俗」
の標記字に「ただひとならんと」、「わるものならんと」の語訓を記載する。但し、醍醐寺本は別の文章段において
少府公乃是仙-才夲非?(ハン)-俗[入]タヽヒト一。〔醍醐寺本27@〕
と、「?俗」の語に左訓「タヽヒト」を明記する。
『遊仙窟抄』第一冊に、
十娘曰(ジウシヤウカイハク)向(サキニ)見(ミシトキニハ)二詩篇(シノヘンヲ)一謂(ヲモヒキ)言(コトノミアル)?-俗(ボンゾク)タヽヒトナラント今(イマ)逢(アフニ)二玉-貌(ギヨクハウ)一更(サラニ)勝(マサレリ)文-章(ブンシヤウニ)一。此(コレハ)是(コレ)文-章(ブンシヤウニ)窟(イハヤ )也(ナリ)。〔102二11ウC〜D〕ケ言(イフ)ハカリナル?俗(ボンゾク)ノ。タヽヒトニテヲハシマスベキトコソヲモヒサブライシニ。其所ノ玉ノコトキ皃ニ。アヒミテハサラニ文章ノ。コトバニハマサリタマフ。〔頭書二12ウF〕
とあって、「凡俗」について右に字音「ボンゾク」左に「ただひとならんと」の和訓を収載する。
凡俗 タヽヒト[平平濁○○] 禾ロ人[平平○○]〔佛上21F〕
[関連語補遺]
※「凡俗」は、『河海抄』卷一・桐壺に、「たゝ人にて ?俗(タヽヒト)日本紀 直仁伊勢物語真名本」〔206下H〕
とあって、出典を『日本書紀』として別に記載する語である。
※典拠である『遊仙窟』に「?俗」と「虚俗」の標記字が見え、『紫明抄』の編者が利用した標記字が、「虚俗」であり、その和訓も「ただひとならん」であることから醍醐寺本系統の写本であることが見えてくる。此を次なる『河海抄』の編者が注釈に取り上げていないため、其の系統を明確にすることにまで至らないのが現況である。今後も他語の使用についても考察する必要がある。
《回文》遵へた者も耐え難し(したがへたものもたへがたし) |
いゑとうし 真々也 無貧相也 主人女遊仙窟 〔『紫名抄』角川書店本23上@〕
みゝはさみかちにひさうなきいゑとうし 無美相 又無貧相 主人妻(イエトウシ)遊仙窟 家童子伊勢物語真名本 伊勢物語云昔男ありけり宮つかへいそかしく心もまめならさりけるほとにいゑとうしまめに思はんといふ人につきて人のくにへいにけり 〔角川書店本218下S〜219B〕
とあって、「いゑとうし」の語として、「主人妻」の標記字を示す。これと同じく『紫名抄』では「「主人女」」として記載する。このうち、『遊仙窟』に、
027:僕(ヤツカリ)因(ヨテ)問曰主(アルシノ)人姓-望(せイハウ)何(イ )處( ソ)。夫(カク)-主ハ何在(イツクニカマシマス)。〔醍醐寺本15C、文庫20〕※眞福寺本「主人姓」※陽明文庫本「主人姓」〔〕
とあって、「主人姓」に「あるじの(ひとセイ)」の語訓を記載するに過ぎない。
『遊仙窟抄』第一冊に、
僕(ヤツカリ)因(ヨテ)問曰主(アルシノ)人姓-望(せイハウ)何(イ )處( ソ)。夫(カク)-主ハ何在(イツクニカマシマス)。〔一21オ@〜D〕ナ此(コノ)。〔頭書一21ウI〜22ウ@〕
とあって、「主人姓」についての和訓を収載する。
主人女(イエドウジ) 源氏物語。〔四2E〕
とあって、「主人女」の語を収載し、その典拠を『源氏物語』としている。
いえ‐どうじ[いへ:]【家童子】[一]〔名〕(「いえとうじ(家刀自)」の変化した語)「いえとじ(家刀自)」に同じ。*塵袋〔一二六四〜八八頃〕五「いゑどうしと云ふは其の心何かん家童子歟。刀自(とじ)と云ふは宿老女の惣名也。〈略〉いゑどうしとは家刀自をいひあやまりたる也」*俳諧・山の井〔一六四八〕秋「こもち月とは十四日をいへり。子をもてるにもいひかけ、家童子(イヱドウジ)にもよせぬ」*浄瑠璃・信田小太郎〔一七〇二頃〕二「見かけ律儀(りちぎ)に事そぎて、家童子(イヘドウジ)有ながら、こしもと下女に手をかけて」[二]狂言。鷺(さぎ)流。好きな女の所に出かけようとする男と、だまされまいとする妻のやり取り。【発音】イエドージ〈標ア〉[ド]【辞書】書言【表記】【主人女】書言
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に「主人姓」は見えるが、その和訓「いへどうじ」の語は未収載にある。此も『河海抄』編者が目にした写本を今後考察する必要がある。
《回文》(いゑとうししうとゑい) |
さるはいと世をはゝかりまめたち給 斂色(マメタツ)遊仙窟 皺眉同上 〔角川書店本21上E〕
まめたち 斂色(マメタツ)遊仙窟 皺眉同上 直立まことし立たる濱 〔角川書店本214上Q〕
とあって、「まめたち」の語として、「斂色」の標記字を示す。これと同じく『紫名抄』でも「斂色」として記載する。このうち、『遊仙窟』に、
018:書(フミ)達シテ入之後十[入]娘[平]斂(レム)[去]-色マメタチテ謂(カタ)桂-心曰ク向_来(イマシ)劇[入]戯(ゲキゲ)タハフレト相_弄(アイモチアソヘル)添真成マメヤカニ欲スレ逼(ナヤマサント)レ人。〔醍醐寺本文庫10B〕※眞福寺本「斂色」※陽明文庫本「斂色」〔〕
099:五嫂大-語コハタカニシ嗔(イカリ)曰。知ナハレ足レリ添不( シ)レ辱(ハツカシカラ)人生有レ限リ。嫂-子欲(ヲモヘラクニ)ラク似レ皺(マメタテル)眉(マユ)ヒソムルニ張-郎不レ須(モチ井)斜眼ミカタムルニ一〔醍醐寺本文庫35@〕
100:十娘佯(イツハリ)収( メ)色瑰(イカリ)マメタチテ曰。少府關(アタレル)アツクル兒ヲニ何(イカンスル)事ヲカ一五嫂頻々(ヨリヨリ)相悩(ナツム)ナヤム。 〔醍醐寺本文庫35@〕
057:五嫂曰。娘子把レ酒莫レ瞋(イカル)マメタツ新-婦[上]更亦不[上]敢(カン)[上]。〔醍醐寺本文庫26@〕
とあって、「斂色」に「まめたち」「まめたつ」の語訓を記載する。
『遊仙窟抄』第一冊に、
書達之後十娘斂色謂桂心曰向_来(イマシ)劇戯(ゲキゲ)タハフレト相_弄(アイモチアソヘル)添真成マメヤカニ欲逼人。〔一21オ@〜D〕ナ此(コノ)。〔頭書一21ウI〜22ウ@〕
とあって、「斂色」について右に字音「レンシヨク」左に「まめだち」の和訓を収載する。
苹マメヤカニ 〔黒川本中卷マ部辞字門94ウA〕
真成 マコト[平上上]/マメヤカ[上平上平]〔僧中42C〕
正首 マメヤカ[上平上平]/マ添[平上] 〔僧下65@〕
まめ‐だ・つ【忠実立】〔自タ四〕(「だつ」は接尾語)まじめな態度をとる。親身なふるまいをみせる。また、まじめくさくふるまう。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕嵯峨院「などか、常に似ずまめだちたる御気色なる」*無名草子〔一一九八〜一二〇二頃〕涙「いみじくまめだちあはれなるよしをすれど」*増鏡〔一三六八〜七六頃〕四・三神山「いよいよ世のうさを思しくんじつつ、いとまめだちてのみおはしますを」*読本・椿説弓張月〔一八〇七〜一一〕続・三三回「彼が事は、君にもよく知し召るべきものを、と信(マメ)だちてまうすにぞ」*照葉狂言〔一八九六〕〈泉鏡花〉鞠唄・四「彼処の継母眉を顰め〈略〉老実(マメ)だちてわれに言へりしことあり」【辞書】言海【表記】【実立】言海
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に「斂色」は見えるが、その和訓「まめだち」の語は未収載にある。此も『河海抄』編者が目にした写本を今後考察する必要がある。
《回文》甘めだ父駄目まあ(あまめだちちだめまあ) |
けにえたふましくない給ふ 一眉猶壓レ耐双眼定傷レ人遊仙窟〔角川書店本199上S〕
とあって、「えたふましく」の語として、「壓レ耐」の標記字を示す。このうち、『遊仙窟』に、
015:余(ヤツカレ)讀レ詩訖(ヲヘ)舉( ケ)ノソク頭( ヘ)門中一忽見(ミツ)十-娘(チヤウカ)[平濁]半[平]-面ハタカクレタルヲ一余即詠曰斂-咲(シム セウ)シタシムルモノカラホヽエメル偸(カクセリ)殘靨(エクホ)一含-羞(カン シウ)ハチシラヘルモノカラ[平平]露(アラハス)半(ナカハノ)脣( ヒル)一一眉(カタマユタニモ)マユスラ猶壓(カタキニ)レ耐(タエ)カタキモノヲ雙( ツ)眼(メ)定( テ)傷ソコナヒテム人(ワレ)。〔醍醐寺本6D、文庫20〕※眞福寺本「壓レ耐」※陽明文庫本「壓レ耐」〔〕
とあって、「一眉猶壓レ耐双眼定傷レ人」にて「たえがたき」の語訓を記載する。
『遊仙窟抄』第一冊に、
含-羞(カン シウト)ハチシラヘルモノ露(アラハス)半(カタカタノ)脣(クチヲ)一。猶(ナヲ)壓(カタシ)レ耐(タヘ)。壓トハレ耐。心中不平也。言ハ見二此ノ美女ノ之一眉ヲ一。心中乃廻皇迷惑ス。未レ知二何方ニ兎而得一。故ニ不平ナリ也。壓ハ。難濱也。音並可ノ反。耐ハ。忍也。音乃代ノ反〔一15ウB〜E〕ル一眉(ヒ)猶(ナヲ)壓(カタシ)レ耐(シノヒ)トハ。ワキカホナレバ。カタマユバカリ見(ミユ)ルゾ。カヤウニ片(カタ)マユバカリシテサヘ。タヘカタキニ。ムカフサマニミルナラハ。何(イカ)ホトカウツクシカラントナリ。注ニ壓(カタシ)レ耐(タヘ)トハ。心中不平ナリト。不平トハ。ヤスカラヌ心也。廻皇(クワイワウ)トハ。俗(ソク)ニウロタユルト云心。コレモ心中不安ナリ。壓(ハ)ハ。難(ナン)ノ字(シ)ト同心。音並可(ビヤウカ)ノ反(カヘシ)。ハノ音ナリ。耐(タイ)ハ忍(ニン)ナリ。タヘシノブナリ。音乃代反。タ。ナ。タイ。ノニ音ナリ。乃ノ字ニハ。タイナイノ二音アレバナリ。〔頭書一16ウK〜17オB〕
とあって、「壓レ耐」について右「たへがたし」の和訓を収載する。
痛 音洞 イタム(シ)/タヘカタシ/ハナハタ[上上上平濁] 和ツウ[○上]〔法下113C〕
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に「壓レ耐」は見えるが、その和訓「たへがたし」の語は未収載にある。此も『河海抄』編者が目にした写本を今後考察する必要がある。『名義抄』の「痛」の他字訓「はなはだ」は、『遊仙窟』に見える語である。
《回文》遵へた者も耐え難し(したがへたものもたへがたし) |
あちきなう 無為史記紀白氏文集古語拾遺 無道日本紀此同上 無状同 無事(アチキナシ)遊仙窟 何須(ナンソアチキナク)同 无情同 無端舎利式〔一16@、角川書店本191上Q〕
とあって、「あぢきなう」の語として、「無事」「何須」「无情」の三種の標記字を示す。このうち、『遊仙窟』に、
017:元來(モトヨリ)不レ見(マシカハ)他(ヒトモ)自(ワレモ)尋常ナヲノアラマシツ子ノアラマシ無[平濁]-事アチキナク相( ヒ)逢( フ)却(カヘリミテ)交(タカヒニ)煩( ヒ)-悩( マス)。〔醍醐寺本9G、文庫〕
083:十娘曰五嫂詠レ箏兒(ワラハヽ)詠セム二尺-八ノフヱヲ一眼多(ユタカニシ)本自( リ)令シレ渠愛せ一口少(ホメクシ)由フ來毎(ツ )被( ル)レ侵(ヲカサ)無-事アチキナク風聲(ウカレタルコヘノミヽヲ)ノミ徹(カヨフラメ)告濱ツケリ二他耳交( リ)レ人氣(イキ)滿ルトキハヌルトキハレ自( ラ)填(ミチナム)レ心。〔醍醐寺本31E、文庫〕
016:又遣(ヲコセテ)二婢(マカタチ)桂-心一報(カヘシテ)二余詩一曰( ク)好(ヨシヒ)是( レ)他(ヒト)家好( ミナリ)人(ワレハ)非着(ツキ)レ意人十郎自稱也人(ワレニ)何(ナニ)須(モテカ)下漫(アタリ)相( ヒ)弄( フ)幾許(ソコハク)費( ス)二精-神タマシヒ一。〔醍醐寺本6F、文庫〕
019:生(ナリ)前一有( リ)日但(ヽヽヽヽ)為(ナスコト)レ樂一死(シナム)後無( シ)レ春(トキ)二更着( クコト)人一。婉(マコト)可( シ)三倡[平]-佯(シヤウヤウ)ホコラハシクス、タノシフ一-生[去]意一何須(モテカ)負[去]-持メヤマスヘキ百-年身一。〔醍醐寺本11F、文庫〕
024: 余遂止(トメテ)之曰( ク)既有(アメルヲ)リ好(ヨキ)意一何(イカニシテカ)須( ク)却(カヘリ)入( ル)然後逶聆(井イ)ナコヤカニシテ轉(メクラシ)レ面狐-玉(アタ)ナヲヤカニシテ向前。〔醍醐寺本14E、文庫〕
051:十娘曰五嫂向來(タヽイマ)イマ劇-語(ケキコ)タハフレコトス少府何( ソ)須(シハラク)漫-怕ミタリカハシクヲソル。〔醍醐寺本24D、文庫〕
171:下官詠曰昔時過(ヨキリ)遇*二小-苑[上]一今朝(ケサ)戲( ル)後-園一。兩歳(フタトセ)梅花匝(メクリ)ル三[平軽]-春柳色繁(シケシ)。水明( シテ)魚影浄(キヨク)靜シツカナリ*林翠ニ兎鳥歌(ウタ)喧(カ シ)。何( ソ)須(マタム)モチ井ル二杏-樹[去]嶺( ニシモ)一即是桃-花源(―ナリ)ナラム。〔醍醐寺本53B、文庫〕
190:十娘廻(メ )頭咲曰星留(トヽメラレテ)二織女(タナハタツメニ)一遂ニ處(ヲリ)二人間一月待二恒-娥ツキヒトヲトコヲ一暫歸( ル)二天上(アメノ ヘ)一。少府何( ソ)須(シハラク)苦(子ムコロ)相恠( フ)。〔醍醐寺本59C、文庫〕
017:無-情(アチキナキ)明(アキラカナル)月( ハ)アカツキノ*泥-故子タマシカホニ臨( ク)窓多-事アチキナク イナハナヽルコト春風,時[平]-々ヨリ/\動レ帳。〔醍醐寺本9D、文庫〕※慶安版も「無-情(アチキナキ)ト」「多-事(アチキナキ)ト」〔11オE〕
176:十娘詠曰問( フ)蜂ノ子ホウシ一々々太(ハナハタ)無( シ)レ情( ケ)飛來蹈( ム)人ノ面(カ )欲( ス)レ似タラムト二意相( ヒ)輕(アナツル)一。〔醍醐寺本54F、文庫〕
224:下官拭レ涙而言テ曰犬-馬ノ何ソ識(モノシラム)尚(ナヲ)解(シレリ)サトレリ傷(イタム)添ヲ離( レ)鳥-獸無モレ情( ケ)猶知( レリ)レ怨( ル)レ別( レヲ)。心(ヒト)人非二木-石一豈忘ムヤ二深恩一。〔醍醐寺本71A、文庫〕
とあって、「無事」二例、「何須」六例、「无情」二例の計十例の標記字に「あぢきなし」の訓を記載することになる訣だが、このうち017の「無事」と「無情」の語には「あぢきなし」の訓を記載する。これに対し「何須」の和訓は「何(ナニ)須(モテカ)」「何須(モテカ)」「何(イカニシテカ)須( ク)」「何( ソ)須(シハラク)」「何( ソ)須(マタム)モチ井ル」「何( ソ)須(シハラク)」の如く一例も「なんぞあぢきなく」の訓は見えない。更に17には「多事」の語訓にも「あぢきなし」が用いられているのにもかかわらず、『河海抄』編者は未収載にしていることがこのズレを起こしているのでは無かろうかということが考えられまいか。次に「無事」と「無情」の語が集中していることから17の箇所を以てこの文言箇所を対象にして『遊仙窟抄』第一冊を見るに、
017:元來(モトヨリ)不(マシカハ)レ見(ミ)。他(ヒトモ)自(ワレモ)尋常(ヂンジヤウト)ヨノツ子ナラン無-事(ブジト)アチキナク相(アヒ)逢(アフテ)却(カヘツテ)交(タカヒニ)煩-悩(ハンノウト)ナヤマス。〔一30オB〜C〕
017:無-情(ムジヤウト)アチキナキ明月(アリヤケノツキノミソ)故-々(ココト)子タマシカホニ臨(ノソメリ)レ?(マトニ)。多-事(タジト)アチキナキ春風(ハルノカセハ)時々(ヨリヨリニ)動(ウコカス)レ帳(タレヌノヲ)。〔一29ウF〜30オ@〕
ユ無情(ムシヤウ)ハ。コヽロナシ冫。ナサケナシ冫ヨメバ。ワガタメ無契(アチキナキ)モノナリ。月モト无情ノモノ。サナキダニ子ラレヌニ。コヽロナキ月カナト。故々(ココ)トユエアリガホニ。子タマシク。独(ヒトリ)フセ屋(ヤ)ノ窓(マト)ニノソム。多事(タシ)ハ。ワザヲヽシ冫。カマビスク。ハシタナキ添。我(ワカ)タメ。無安(アシキナキ)モノナリ。風モト多事(アシキ)モノ。マシテイ子ガタキニ。ハルカゼノ。マモナク。ツレナキ閨(子ヤ)ノ戸ヲウコカス。古哥(コカ)ニ。サモコソ。ハヨハノアラシノ。アラカラメ。アナハシタノ。槙(マキ)ノ折(ヲリ)戸ヤ。トヨミシモ通(カヨウ)ヘシ。愁(ウレウ)ル人ト。本文ニアルハ。文成ミヅカライフナリ。カヽル月ト風トニ。タヒシテ。ナニヲモツテカタヘシノフベキ。前(マヘ)ニイフガゴトク。ツルギヲノンテ。寸々(スンスン)ニキレタルゴトクハ。ハラハタヲムナシクカケテ。ヤウ/\。臨終(リンシウノ)イノチヲ。スクヒ玉ヘト。コヒカナシムトナリ。モトヨリ。ソナタ十娘ヲ。一相(イツソウ)シヌナラハ。他(ヒト)モ自(ワレ)モ。ヨノツ子ナルベキニ。無味来(アチキナク)。相逢(アイアフ)テ。カヘツテ。交(タカヒ)ニナヤマズゾトナリ。煩悩(ホンノウ)ハ註ニ。悶悩(モタヘナヤム)テ。コヽロミダルナリ。言(イフコヽロ)ハ迷狂(マヨヒクルフ)ナリト。居(イル)ニイラレス。センカタナキ心ナリ。〔頭書一30ウD〜31オB〕
とあって、「無事」「無情」について右に字音「ブジ」「ムジヤウ」、左に「あぢきなき」の和訓を収載する。
無為アチキナシ 无事同 無端同 不用同 〔前田本下巻阿部畳字門40オA、黒川本下卷33オ@〕
遮莫 アチキナシ/サモアラハアレ〔佛上58@〕
無事 アチキナシ〔佛上80G〕
無情 アチキナシ[平平○○○]〔法中96E〕
無短 アチキナシ[平平濁○○○]〔僧中33@〕
無為 アチキナシ[平平濁○○○]〔佛下末30@〕
無為 アチキナシ[平平濁平○○]〔僧下79F〕
癶 スヽロ アチキナシ/アカラシク〔法中100F〕
跣 スヽロ/アチキナシ〔法中73D〕
跣 アチキナシ〔法中100G〕
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に「無事」「何須」「无情」の標記語は見えるが、その和訓「あぢきなく」の語は「何須」の語については未収載にある。此も『河海抄』編者が目にした写本を今後考察する必要がある。
《回文》支那生地後無事(しなきぢあとあぢきなし) |
そひふし 横陳(ソヒフシ)[○○濁○]〔角川書店本210上C〕
とあって、「そひふし」の語として、「横陳」の標記字を示す。このうち、『遊仙窟』に、
017:雖復贈(ヲクリ)レ蘭解二珮一未甚開( カナハ)情ナツカシ合?(キン)ムツマシク横陳トソヒフシヽカトモ/フセリトモ何(イカソ)イカハカリソ曾( テ)スナハチ諏(カナハム)レ意。 〔醍醐寺本7E、文庫208D〕※眞福寺本「合?( トムツマシク)居隠反横陳(トソヒフシヽカトモ)」※陽明文庫本「合(アハセ)?(ホカキ)トムツマシ横陳(ソヒフシセシ)」〔5オD〕
とあって、「横陳」に「そひふし」の訓を記載する。
『遊仙窟抄』第一冊に、
未(イマタ)ス二甚(ハナハタ)關(カナハ)慢懐(ヲモヒニ)。合?(カウキント)ムツマシク横陳(ワウチント)ソヒフシヽカ冫。禮-記ノ婿-義ニ曰ク。降出テヽ御ス二婦ノ車ヲ一。而兎婿揖兎レ婦ヲ以入テ。共ニ兎レ牢ヲ而食ヒ。合セテレ?ヲ而酳(インス)。所下以ニ合ヒレ醴同ク二尊卑ヲ一以親ンスル満之ヲ。鄭-氏カ三-禮-圖ニ曰ク。?ハ。受二四-升一。取二瓠中破ノ之各一一也。音居-隱ノ反。宋-玉カ風ノ賦ニ曰ク。主-人ノ女又為レ臣歌テ曰ク。?-二タ心一而阻二玉床ニ一。横ニ自陳ス兮君ノ之傍。又云ク。横-陳ハ者。在二身ノ傍一横-臥也。〔一21オ@〜D〕ナ此(コノ)一句(ク)ハ。上ノ両句ヲウケタリ。上ニ云ヒタルゴトクニ。イロ/\風流(フリウ)ヲ弄(モテアソンテ)テ。美(ヒ)女ト契(チキリ)ヲカハセシカドモ。イマダ甚(ハナハダ)ワガヲモヒニカナハズ。ムツマジクソイフセシカ冫。イマダ甚心カナハストナリ。合?(カウキン)ハ註ニ礼記(ライキ)ノ婿義(シヨキ)ヲヒク。畢竟(ヒツキヤウ)ムツマシク。タシムコヽロナリ。?(ヲヨソ)礼ノ法。子(コ)父(チヽ)ノ命(メイ)ヲ承(ウケテ)。女(メ)ヲ迎(ムカウ)。子(コ)降出(クタリイテ)テ。御(キヨス)二婦(フ)ノ車(クルマ)ヲ一。而婿(ムコ)授(サツク)レ綏(スイヲ)。御(キヨ)レ輪(リンヲ)スルコト三周(ミメクリ)。先(マツ)俟(マツ)二子門外(モグワイニ)一。壻(ムコ)揖(イフシテ)レ婦(フヲ)以(モツテ)。入(イツテ)共(トモニ)レ牢(ロウヲ)而食(クラヒ)。牢ハニエナリ。夫婦(フウフ)トモニムツマシキテイナリ。合(アハセ)レ?(キンヲ)而酳(インス)。?ハ酒ノウツハモノ。鄭氏(テイシ)カ三礼図(レイヅ)ニ四升(シヤウ)ヲウク瓠(ヒサコ)ヲ。正中(マンナカ)ヨリワリテ。各(ヲノヲノ)一方ヲモチユルトナリ。居隱(キヨイン)ノ反。ヤイ。カキ。キンノ音ナリ。酳ハスヽグトヨム。日本ニテ昏礼(ヨメイリ)ニ。酌(シヤク)ノ加(クワヘ)ヲスルニ同法(ヲナシハウ)ナリ。ニヱモ酒モフウフ冫ニアハセテ。マコトニシタシキ添ナリ。横陳(ワウチン)ハソヒブシトヨマセタリ。註ニ宋玉(ソウキヨク)賦(フ)ヲヒク。下(シタニ)見タリ。〔頭書一21ウI〜22ウ@〕
とあって、「横陳」について右に字音「ワウチン」左に「そひふし」の和訓を収載する。
横陳 ソヒフス[上上平上]〔法中46A〕
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に見える「横陳」は和訓「そひふす」として収載する。此も『河海抄』編者が目にした写本を見極める意味から今後も考察する必要がある。
《回文》中止び病みの身は身の巾赦な(なかやびやみのみはみのみやびやかな) |
みやひかにて 媚 閑麗也 閑暇文選皃甚― 膃裾(ミヤヒカ)遊仙窟 ヲツトツ なにはこそむかしゐ中といはれけめいまは宮美堵(ミヤヒト)そなはりにけり万葉〔角川書店本334下C〕
とあって、「みやひか」の語として、「媚」「閑暇」「膃裾」の三種の標記字を示す。このうち、『遊仙窟』に、
096: 局( ハム)キヨク至コトトキニ十娘引レ手向( フ)レ前(マ )眼子マナコ/マナコツヽ手(シユ)子タナスエハ膃裾(ヲントツ)ニ■ヤカナリ京カン挑(ク ロウ)□ヤカニシ。一雙臂(ヒチ)腕(タヽムキ)切( ル)二我肝膓一十箇指(ユヒ)頭(スエ)刺(サス)二人心髄一。 膃烏骨反/裾徒骨反 〔醍醐寺本34A、文庫238F〕※陽明文庫「膃裾( トコマヤカ)烏骨反・徒骨反」〔23ウB〕
『遊仙窟抄』第一冊に、
手(シユ)子(シノ)タナスヘハ膃裾(ヲントツト)コマヤカ濱。手白兎而肥テ復索ナリ也。又タ繊効柔滑ノ之状。膃ハ。音烏骨ノ反。裾ハ音徒骨ノ反。/膃(ヲツハ)ハ烏骨反。ヲツ。ノコヱニヨブ。裾ハ徒骨ノ反。トツ。ノコヘ也。〔三19オC〕
とあって、「膃裾」について右に字音「ヲントツ」左に「こまやか也」の和訓を収載する。この左訓が「こまやかなり」であることで、『河海抄』の和訓「みやびか」の訓は示されず、その註記として字音読みの反切を以て記載する。
閑都ミヤヒカナリ 閑雅同 窈窕同 巾赦ミヤヒカニ 稚妙ミヤヒカ 固甍同 泪妓 〔黒川本下卷美部畳字門66オA〕
擽 乎間反 ウルハシ ミヤヒカナリ/シツカナリ〔佛中9C〕
擽 音間/ミヤヒラカリ〔佛中23D〕
従 ミヤヒカナリ[平平上濁○○○]〔佛中23D〕
都 旦胡反 スヘ(フ)テ[上平濁] カツテ ミヤコ ナラフ オク 心ミル ミヤヒカナリ アツク フツニ(ト) ミナ/ツフサニ サカナリ コト/\ク ツ子 ツフニ(ト) ナカク 和ト〔法中36D〕
雅 古延魚瑕反/和ケ/マサシ[平平平] ウルハシ マサカナリ ヒタフト[平平○○] ナヲシ モトヨリ[平平○○]/マコト タクマシ イサヽサニ ヤハラカナ(ニ)リ ミヤヒカナリ[平平上濁平○○] オタヒカナリ[平平濁平平○○]〔僧中135EF〕
閑 下問反 シツカナ(ニ)リ[○上濁○○○] ミヤヒカナ(ニ)リ[平平上濁平○○] ホノカナリ ウヤヒカ(ヤ)ナリ ヒラク トラフ ウルハシ ヲシフ/ナラフ[平平] 闌ヽ正ヽ?ヽ大ヽ庶ヽ牢ヽ フセク[○○上] ノリ[上平]法 ホノメク[○○上平]燈 イタツラ[上上上濁上]/ヒソカニ イトマ[○○平] ナヲシ/ナホナリ 和ケン[平上]〔法下75E〕
巾 奴果反 軍眉 ミヤヒカニ[平平○○○]〔佛中14B〕
固 謔(キヤク)綽二音女病/ウルハシ ミヤヒカニ[平平○○○]〔佛中21C〕
共 ミヤヒカニ[平平○○○]〔佛中24D〕
赦 乎自[去]反/ミヤヒソカニ[平平上濁○○○] 好〔佛中16E〕
女尖抬 ミヤヒカニ[平平○○○]/三俗/苔字〔佛下本56C〕
嫋嫋 二正音疽水名又慈呂反 ヤフル[平平軽濁上]又子盧反/又讖音姓多作互非 トヽム(マル)[上上濁上○] ヤム クツル[平平濁上] ミヤヒカニ/ツヽカル ヤウヤク ウルフ ハヽム[上上濁平]〔法上16E〕
妓 如上漸漢/ミヤヒカニ[平平○○○]〔法上16C〕
閑亭 ミヤヒカナリ[平平上濁平○○]〔法下41D〕
膃 烏滑反 又烏骨反/―箟 肥〔佛中117F〕
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』に「膃裾」は見えるが、その和訓「みやびか」の語は未収載にある。此も『河海抄』編者が目にした写本を今後考察する必要がある。
《回文》中止び病みの身は身の巾赦な(なかやびやみのみはみのみやびやかな) |
たをやき給へるけしき 券宅遊仙窟 偕儷同〔末摘花03-47、角川書店翻刻本269頁上段I〕※龍門文庫本には「偕儷」として「同」の字未記載。
012:花容(カタチ)婀娜(タヲヤカニシテ)天上(アメノ ヘニモ)無( シ)レ儔(タクヒ)玉體(スカタ)逶聆(井イ)コマヤカニシテ人間(ヨノナカニ)小( シ)レ匹(タクヒ)。〔醍醐寺本・文庫205B〕
023:婀娜(タヲヤカナル)腰支(コシハセ)細々許(サヽヤカニナマメキ)ナリ皿鯨(ケムテム)ナツカシキ眼子(マナコ井)長々馨(ミトマメカセリ)。〔醍醐寺本・文庫215B〕 ※「券宅( トタヲヤカ)」〔陽明文庫本9オC〕
023:含ムテレ嬌窈窕(エウテウ)タヲヤカニシテ迎前(スヽミ)出( ツ),忍レ笑(シンセウ)シノンテエミヲ〓(女+營)砂返却廻。〔醍醐寺本文庫216C〕 ※「偕儷( トタヲヤカ)」「詐砂(アウマウトハチシラ)」〔陽明文庫本10オ@〕
華容(ハナノカホ)婀娜(アタト)タヲヤカニシテ 〔39頁、鈔第一冊13オ@〕
曹子建(ヲウシケン)カ洛神(ラクジン)ノ賦(ケ)ニ華容(クワヤウ)券宅(アタ)トツヽケタ。券(ア)ハ音(コヘ)烏可(ウカ)ノ反。カ。アトカヘル。宅(タ)ハ音(コヘ)奴可(ヌカ)ノ反。カ。タトカヘル。此(コノ)カヘシニ。ウタガイアリ。ムカシヨリ。宅(タ)ノ字タノ音ニ用(モチユル)ハ。奴(ヌ)ノ字ニトノ音アルニヨリ。タチツテトノヒヾキニテ。カキクケコヨリ。ヨブトキタノ音トナル。シカルニ奴(ヌ)ノ字ハ。ヌノ音アリ。ヌノ音ノトキハ。ナニヌネノヽヒヾキニテ。カ。ナトカヘル。シカレハナノ音チカク侍(ハベ)ル。イヅレクルシカラズ。今更(イマサラ)券宅(アナ)トヨメバ。コトヤウニキコヘ侍。例(レイ)ニシタカツテ。アタトヨムベシ。券宅ハ。行動(アリキブリ)節度(ホトヨクトヽノヒ)。柔弱(ヨハヨハシキ)之貌(カタチ)。カノ崔女郎ノカホハ。花ノゴトクウツクシク。シナヤカニ侍ルトノブナリ。〔36頁、鈔第一冊11ウJ〕
唸怜(カリヤウト)ウツクシケナル嬌裏面(コビノウチノカホ)可愛(カアイト)ヲモハシキ語中(ゴチウノ)コトハノ聲(コヘ)。婀娜(アタト)タヲヤカナル腰支(ヨウシノ)コシハセ細々(サイサイ)サヽヤカニ許(コト)ナマメカシ皿鯨(ケンテント)ナツカシキ眼子(ガンシノ)マナコハ長々馨(テウテウキヤウト)ミトロマカセリ。〔94頁、鈔第二冊7オF〕
含(フクンテ)レ嬌(コビヲ)窈窕(ヤウテウト)タヲヤカニ迎(ムカヘテ)前(スヽミ)出(イツ)。忍笑(ニンシヤウト)ホヽエミテ詐砂(アウミヤウ)ハチシラアテ返(カヘツテ)却廻(カヘリメクル)。〔鈔第二冊10ウF〕
婀娜(タヲヤカナリ)[上上]。又ヤ{ナ}マメク/美女分/アタ〔前田本下卷・阿部疊字門39オD、黒川本32オG〕
繰々[上濁上濁]。テウ貼/タヲヤカナリ〔前田本下卷・弖部重點門21ウD、黒川本18オD〕
嬋娟(センエン)タヲヤカ濱/又タワム/其木垂條――。糂娜同/上字婀/又甦。窈穰(エウテウ)同/―私云窈窕又貴亨。委聆同/―私云遊仙窟ニ逶聆云云。諸嫋同。荏苒(シムサム)同。美術同/上字好。嬋媛同/又タワム/又ナマメク。〔黒川本中卷多部辞字門11オA〕
嫋タヲヤカニ。嬌同。〔黒川本中卷多部辞字門9オB〕
嬋娟タヲヤカナリ/音禅晃ヨシ/ソヒヤカナリ〔佛中7ウB〕
嬋媛タヲヤカナリ、ウルハシ/ニホフ、オソヨカニ〔佛中7ウC〕
習婉タヲヤカナリ、下於遠反、ウコカス、カサル[上上濁○]/ウルハシ、ヤハラカナリ、シタカフ、ウツクシフ、メクル、マゲテ[上平濁○]〔佛中8ウ@〕
窈窕タヲヤカナリ[平平上上○○]〔法下59E〕
聆迄?移二音、タヲヤカナリ、ナヽメナリ/カタチカイ、シリソク、ナヒカス/ホフル、ヨロコフ、アフル/上シケシ、ナヽメ、ナヒク〔佛上48C〕
逶聆タヲヤカナリ、シタラカ、禾タカマル、呉音威移/上於偽反、アツムル、ツハクム、ナヽメナリ〔佛上48D〕
依々タヲヤカナリ/イタム〔佛上28G〕
阿那タヲヤカニ〔法中38@〕
嫋他鳥反、又溺音 タヲヤカナリ タハム タホヤク/シメヤカナリ、ウコカス〔佛中9ウF〕
嫋奴鳥反、奴的反/タヲヤカナリ/タハム、ヲコカス〔佛中12ウF〕
嬋音禅、ヨシ/タヲヤカナル〔佛中6オC〕
婀烏可反/タヲヤカナリ〔佛中7ウD〕
娜乃可反、マヽハヽ、タヲヤカナリ、婀娜/ヨキカホ、ナマメク〔佛中7ウD〕
媛俗歟、ウルハシ、ナマメイタリ、カホヨシ、ヨキヲムナ、禾サハヒ/ヤサシ、タフロカス、マシロク、タヲヤカニ、伝カミナキ、伝ウツ、タマ〔佛中7オF〕
窕徒了反、フカシ、ヒロシ、カロシ、サヒシ/タヲヤカナリ、勅尭反、クツロク[上上上平濁]〔法下59〕
糂〔法中104〕
{たを-やか-に(たおやか・に)〔副〕〔たをは撓(たわ)む意〕(一)しなやかに。*枕草子、三、三十四段「萩は、いと色深く、枝たをやかに咲きたるが」(二)舉止(たてゐ)あらあらしからず。しなやかに。しとやかに。たをたをと。(婦人に)婀娜。*名義抄「嬋、タヲヤカナリ」阿那、タヲヤカニ」窈窕、タヲヤカナリ」*遊仙窟七「婀娜、タヲヤカナル」窈窕、タヲヤカニシテ」*源氏物語、二、帚木三十一「この方のたをやかならましかばと見ゆかし」〔三302B〕
{たをや・ぐ(たおやぐ)・グ・ゲ・ガ・ギ・ゲ〔自動、四〕【婀娜】たをやかなる状になる。*源氏物語、二、帚木四十一「人がらの、たをやぎたるに、強き心を強ひて加へたれば」*源氏物語、六、末摘花三十四「君もすこしたをやぎ給へるけしきもてつけ給へり」*源氏物語、八、花宴六「女もわかうたをやぎて、強き心もしらぬなるべし」〔三302B〕
たをやけ・し(たおやけ・し)・キ・ケレ・ク・ク〔形、一〕婀娜。加茂保憲女集、序「女郎花、たをやけき野邊に、はなすすき、うちなびく」〔三302B〕
とあって、見出し語を「たをやかに」で、『河海抄』と同様に『遊仙窟』の語を二種採録する。類語として「たをやぐ」と「たをやけし」の語を次に所載する。
たお‐やか[たを:]〔形動〕(「たお」は「たわ(撓)」の変化したものという。「やか」は接尾語)@姿や形などがしなやかなさま。柔らかなさま。たわやか。*枕草子〔一〇C終〕六七・草の花は「萩、いと色ふかう、枝たをやかに咲きたるが、朝露にぬれてなよなよとひろごりふしたる」*名語記〔一二七五〕四「たほたほ、たほやかのたほ、如何。答、たほにはあらす。たは也。たはは、嫋也。たはむ也」*中華若木詩抄〔一五二〇頃〕中「この女の舞ふ、すがた、たをやかにして、楊柳を風の吹きかへすやうなるぞ」*俳諧・常盤屋の句合〔一六八〇〕二二番「韮(にら)の若葉のたをやかなるも、いつしかねぶかの白根がちなる、白髪の老女に見立たるも新し」*面影〔一九六九〕〈芝木好子〉七「優美な線が生きているから、逞しい御身体がたおやかに見えるのだわ」Aものごし、態度などがものやわらかなさま。また、気だてや性質が、しっとりとやさしいさま。おだやかなさま。しとやかで美しいさま。優美なさま。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕帚木「あなうたて、この人のたをやかならましかばと見えたり」*浜松中納言物語〔一一C中〕一「もてなしありさま、物うちの給へるけはひ、日本の人にいささかもたがはずたをやかになつかしう、やはらかになまめき給へるあり様」*今鏡〔一一七〇〕六・花散る庭の面「御みめも心ばへもたをやかに、いと良き人におはしき」*静嘉堂文庫本無名抄〔一二一一頃〕「心あらん人に見せばや津の国の難波わたりの春の景色を 是は始めの歌のやうに限なくとをしろくなどはあらねど、優(いふ)深くたをやか也」*平家物語〔一三C前〕二・西光被斬「ないきよげなる布衣たをやかにきなし、あざやかなる車にのり」*孔雀船〔一九〇六〕〈伊良子清白〉夏日孔雀賦「雌鳥を見れば嬌(タヲ)やかに 柔和の性は具ふれど」Bあだめいているさま。*浮世草子・男色大鑑〔一六八七〕一・五「此人七才の時より、形さだまって嬋娟(タヲヤカ)に、一笑百媚の風情」【語源説】@タヲヤカ(撓)の義〔日本語源=賀茂百樹〕。タワヤカ(撓彌)の義〔言元梯〕。Aタホはタハ(嫋)で、タハム意〔名語記〕。Bタワミヨハカタ(撓弱方)の義〔名言通〕。Cタヨヤカの転。また手折りたいの意も含むか〔本朝辞源=宇田甘冥〕。【発音】<標ア>[オ]〈史ア〉 平安○○●○ 〈京ア〉[ヤ]【辞書】色葉・名義・和玉・文明・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【嬋娟】色葉・名義・饅頭・易林・書言【嫋】色葉・名義・和玉・書言【嬋】名義・和玉・文明【嬋媛】色葉・名義【嬌】色葉・和玉【嫋娜】色葉・易林【婀娜】色葉・書言【婀・娜・媛】名義・和玉【窕】名義・文明【窈窕】名義・ヘボン【窈・娟】和玉・文明【娥】文明・黒本【委聆・窈穰・諸嫋・美術・荏苒・糂娜・繰々】色葉【逶聆・習婉・依々・阿那・糂・聆】名義【技】和玉【泪・踵】文明【猗儺・柔従・柔撓・孅弱・要紹・霊液・嬌施】書言
〈参考HP〉
《回文》券宅な人花に名は問ひ名が八百他(たをやかなひとはなになはとひなかやをた) |
にらミきこえ給 式(ニラム) 鬼―/文選 斜眼 同遊仙窟 耶睨 日本紀 睚眦 新猿楽記〔第十・明石06-041、角川書店翻刻本326頁下段K〕※翻刻本(底本は天理図書館蔵、文禄五年書冩)の語排列が下記典拠資料に付けた番号の順に成っている。
056: 十娘則斜眼(ニランテ)佯(イツハリ)瑰(ハラタ)曰「少府初到レリ此間,五嫂會(アハシラヘ)シラヒ些(イカム)頻(シキリニ)々(シハ々)相( ヒ)弄(モテアソハム)ソフ」〔醍醐寺本25F〕 ※「斜眼( トニラン)」〔陽明文庫本17ウD〕
099:張郎不レ須(モチ井)二斜眼(ミカタムルニ)一。〔醍醐寺本35A〕 ※「斜眼( トアカラメ)」〔陽明文庫本24オD〕
十娘(シヤウ)則(スナハチ)斜眼(シヤガント)ニラミ佯歙(ヨウシント)イカリハラタチテ曰(イハク)「少府(シヤウフハ)初(ハシメテ)到(イタレリ)此(コヽニ)間。五嫂(ゴソウ)會(アヘシラヘ)些(イカン)。 〔148頁、鈔第三冊2ウ@〕
張郎(チヤウロウ)不(サレ)レ須(モチヒ)二斜眼(シヤガント)ミカタムル添ヲ一。〔鈔第三冊20オC〕
坂ニラム睚眦 〔前田本上人事37ウD、黒川本30オE〕
睚眦ニラム/ガイサイ〔前田本上畳字107ウD、黒川本88オB〕
睚眦ニラム 白眼同 〔前田本上畳字40ウA、黒川本32オG〕
とあって、「坂」「睚眦」「白眼」の三語を収載する。
室町時代の易林本『節用集』に、
斜眼(ニラム) 白眼 〔仁部言辭門28C〕
とし、江戸時代の『書言字考節用集』に、
白眼(ニラム) 斜眼(同) 又作二一邪睨一 睚眦(同) 出レ加 〔巻八669、14オA〕
とあって、典拠は未記載のままにして「斜眼」の語を収載する。
にら・む・ム・マ・ミ・エ〔他動四〕【睨・瞰・白眼】〔にらみるの轉〕(一){眼を怒らかして見る。鋭き眼して斎る。ねむ。疾斎。*字鏡十二「盻、邪見也、與己目爾彌留、又爾良牟」*靈異記、中、三縁「眦、ニラム」*遊仙窟「斜眼、ニラム」*用明紀二年四月「引豊國法師入於内裏物部守屋大連邪睨(ニラミテ)大怒」*古今著聞集、六、術道「ナホアシゲニ思ヒテ、にらみければ」(二)見込をつける。見當をつける。目ぼしをつく。〔四725-3〕
にら・む【睨】〔他マ五(四)〕@目をいからして見つめる。するどい目つきでじっと見る。じっと注視する。にらまえる。にらめる。*日本書紀〔七二〇〕用明二年四月(図書寮本訓)「物部守屋大連、邪睨(ニラム)て大きに怒る」*霊異記〔八一〇〜八二四〕中・五「非人、悪しき眼に睚眦(ニラミ)逼めて言はく、急かに往けといふ。〈国会図書館本訓釈 睚眥 二合ニラミ〉」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕明石「院の御門御まへのみはしのもとにたたせ給て御けしきいとあしうてにらみきこえさせ給を」*日葡辞書〔一六〇三〜〇四〕「ベンケイ トガシヲ チャウド nirode(ニラウデ)〈訳〉ベンケイは大きく眼をあけてその人を見て〔富樫の舞〕」*談義本・当世下手談義〔一七五二〕二・八王子の臍翁、座敷談義の事「朝夕熟読して、倍(ますます)後悔の眼(まなこ)に酒屋を白眼(ニラミ)ぬ」*談義本・根無草〔一七六三〜六九〕前・二「三歳の小児も団十郎といへば、にらむことと心得」*浮雲〔一八八七〜八九〕〈二葉亭四迷〉二・九「また憤然として文三の貌(かほ)を疾視(ニラ)んで」A見当をつける。めぼしをつける。*浄瑠璃・神霊矢口渡〔一七七〇〕二「必定今度の御出陣は、討死との御覚悟と、睨(ニラン)だ眼(まなこ)に違ひは有(あら)じ」*歌舞伎・小袖曾我薊色縫(十六夜清心)〔一八五九〕序幕「此封金があったからにゃア、目ぐしは抜ねへ大どろぼう。白眼(にらん)だ事ア五分でもすかねへ」*ハッピネス〔一九七三〕〈小島信夫〉三「大分手がこんでいるのだ、とぼくは睨んでいます」B(多く受身の助動詞を付けて用いる)特に、注意を要する人物と考えて警戒する。*やみ夜〔一八九五〕〈樋口一葉〉三「田地持ちに睨(ニラ)まれたるぞ最期」*社会百面相〔一九〇二〕〈内田魯庵〉投機・六「伯父さんから睨まれる、今大平子爵や外の役員からも信用されなくなる」C前もって考慮に入れる。計算に入れる。「総選挙をにらんでの発言」【語誌】(1)@の挙例の「書紀」の「邪睨(ニラム)」は、単独でニラムと訓じる「睨」字に「邪」を付すことで怒りを伴った邪視というべき強さを含んでおり、次の「霊異記」の例にも敵意に近い感情が認められる。(2)「源氏物語」には目に関わる種々の表現が見られるが、同じく視線を向ける「見おこす」「見やる」より強くて呪的な行為にもなっている。明石では朱雀帝が桐壺帝の亡霊ににらまれて眼病を患う場面がある。また、若菜下巻の「うち見る」行為は、見られた若者が死を迎えたことによって、「無名草子」では「にらみ殺す」と言いかえられている。(3)「にらむ」は仏像や芸能においても、一つの型として継承され、歌舞伎の見得の所作に結実する。特に市川家の「にらみ」は、邪気を払う行為として正月あるいは襲名の吉例に演じられている。【語源説】(1)ネイカリニガム(性怒苦見)の義。またニクウラミル(悪恨見)の義〔日本語原学=林甕臣〕。(2)ニクラメ(悪眼)の義〔言元梯〕。(3)ニの音を発する時、怒ったさまに似るところから〔国語溯原=大矢透〕。(4)ニコアルメ(和有目)の義〔名言通〕。(5)ネイリアム(根入編)の約〔国語本義〕。(6)ニラは青い意、ムは無。青くない眼、つまり白眼の意から〔和語私臆鈔〕。(7)ニクムランの義か〔和句解〕。【発音】〈なまり〉ニラブ〔栃木〕ヌラム〔岩手〕ネラム〔岩手・栃木・千葉・富山県・福井大飯・岐阜・飛騨・愛知・南知多・京言葉・大阪・淡路・大和・紀州・和歌山県・和歌山・鳥取・島根・岡山・広島県・周防大島・徳島・讚岐・愛媛周桑・伊予・土佐・長崎・対馬・熊本南部・豊後・大分・鹿児島方言〕〈標ア〉[ラ]〈史ア〉平安○○◎ 室町・江戸●○○〈京ア〉[0]【辞書】字鏡・色葉・名義・下学・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【白眼】色葉・文明・伊京・明応・天正・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【睨】色葉・名義・和玉・文明・伊京・明応・天正【瞰】色葉・名義・和玉・言海【睥】下学・文明・伊京・黒本【孔】字鏡・名義・和玉【睚・眥】色葉・名義・和玉【睚眦】色葉・名義・書言【瞋】色葉・饅頭・黒本【盻】字鏡・色葉【眦】色葉・名義【子】名義・和玉【斜眼】易林・書言【捌】字鏡【帙】色葉【居・軽・供】名義【妬・唆・慧・寿・眺】和玉【睇】天正【邪睨・睥睨】書言【同訓異字】にらむ【睨・京・盻・睚・裟・睥】@【睨】(ゲイ)じっとにらむ。うかがいにらむ。また、流し目でにらむ。「一睨」「睥睨」《古にらむ・みる》A【京】(ク)目をみはってにらむ。目をいからしてにらむ。「衡」B【盻】(ケイ)うらみ見る。うらみを込めてにらむ。「盻恨」《古にらむ》C【睚】(ガイ)目のきわ。まなじり。転じて、上目でにらむ。うらみ見上げる。「睚眥」《古にらむ・うらむ》D【裟】(ケイ)目をそむけにらむ。目を見張ってにらむ。「乖」《古そむく》E【睥】(ヘイ)じっとにらみみる。にらみつける。「睥睨」
《回文》村にてお金の行方追え悔ゆの寢顔で斜眼む(むらにておかねのゆくえをえくゆのねかおてにらむ) |
まかはいたくくろミおちいりて 師説云懸(マカハ) 或マカフラ 文選云懸(カウキヤウトマカフラタカク)
一説眼皮也。まかは 遊仙窟云 眼皮(マユメ)香(カユカル) 今案云眼皮も有其謂歟。老者としよ{なれ}れはとてまかふらのお{を}ちいる事ハなき歟。目の上の皮ハとしよれはくろミおちいる也。其時まかふら弥立かゝるへき歟〔四・紅葉賀04-017、角川書店翻刻本275頁〕
※下線部の表記字が龍門文庫本では異なり表記となっている。「懸」の訓「マカフラカタリ」、「眼皮」の訓「マメス」と表記する。波線部の語句は未収載。
下官曰昨夜眼_皮(メノフチ)詩(カユカリ)ヒヽラク今_朝見二好人一〔醍醐寺本23、岩波文庫226B〕
下官カ曰。昨ノ夜眼_皮(メノフチ)詩(カユカリテ)ハタラキ詩ハ。動也。音如純ノ反。言人眼皮有二自動一。名之曰レ詩。詩則見二好人一。兼テ得二美食一。亦如二人道レ我則豊一相似。此並ニ人間少少ノ識候也。〔慶安五年版本24オD〜F〕
古辞書では三卷本『色葉字類抄』に、
匡(マカフラタカ) 誇張分/カウク井ヤウ。〔前田本上卷加部畳字門109オ@〕
匡(マカフタカ) 誇張分/カウク井ヨ(ヤ)ウ。〔黒川本89オ@〕
匡 マカフラタカ。〔黒川本中卷麻部人躰門90ウB〕
眼皮 マヒキ/マナコ井。〔黒川本中卷万部人躰門90ウ@〕
懸(ク井ヤウ) マナカフラ/―。〔黒川本中卷万部人躰門90ウA〕
詩 同(マシロク)。〔黒川本中卷万部人躰門90ウA〕
とあって、一通りの語を収載する。更に観智院本『類聚名義抄』には、
匡 マカフラタカ[平上上濁上上上]〔佛上62F〕
懸 音匡〓俗/マナカフラ 懸去王切/眼懸 罫俗〔佛中68F〕
ま‐びき【目引】〔名〕目の様子。目つき。また、目で合図をすること。めくばせ。*十巻本和名抄〔九三四頃〕二「眼 眼皮附 〈略〉遊仙窟云眼皮〈師説万比 一説万奈古井〉」*色葉字類抄〔一一七七〜八一〕「眼皮 マヒキ マナコヰ」*愚管抄〔一二二〇〕六・後鳥羽「成経・実教など云諸大夫の家、宰相中将になりたる、とどめなんどせられし事は、皆頼朝に云あはせつつ、かのま引にてこそありと」*古今著聞集〔一二五四〕八・三一九「女房どもも、みな御前のまびきにしたがひて、さしいづる人もなかりければ」【補注】「和名抄」に引く「遊仙窟」は、恐らく「昨夜眼皮詩、今朝見好人」とある部分で、「醍醐寺本遊仙窟康永三年点」には「眼皮詩(メノフチカユカリ)」の訓があり、「温故知新書」にも「眼皮詩(マユネカユシ)」とあるので、古くは、まぶた、もしくは目のふちをさしていたと考えられる。【方言】目をしばたたくこと。まばたき。《まびき》九州「まびきもせず(臆せず)戦う」†001【発音】〈標ア〉[キ]【辞書】和名・色葉・名義・和玉・日葡・言海【表記】【眼皮】和名・色葉・名義【眼尾】色葉【経】和玉
ま‐かわ[:かは]【眼皮】〔名〕眼をおおう皮。眼のふちの皮。まぶた。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕紅葉賀「見かへりたるまみ、いたう見のべたれど、まかはらいたく黒み落ちいりて」【発音】〈標ア〉[0]
[関連語補遺] ※典拠である『遊仙窟』として、醍醐寺本・慶安五年版本には上記の如く此の語を収載するが金剛寺本には「まかは 遊仙窟云 眼皮(マユメ)香(カユカル)」のところは未収載にある。『河海抄』の編者が用いた写本資料と更に古辞書類が連鎖していることを茲に考察してみた。
《回文》石亀眼懸睨ぶか艶めかしい(いしかめまなかぶらにらぶかなまめかしい) |
ものゝけいきすたま(生霊)なといふ物 遊仙窟云 窮-鬼故調レ人(イキスタマノマコトニナヤマス也)ヲ 注云魂(タマシイ)与(ト)鬼通を云怨霊ナト云事ナリ。〔巻五・葵、角川書店翻刻本288頁〕
窮鬼(キウキ)イキスタマ故(コトサラニ)調(ナヤマスヤト)レ人(ヒトヲ)。人夢-魂與レ鬼通。言ハ我カ心-中正ニ憶二此ノ十-娘ヲ一。忽即夢ニ見レ憎。忽此ノ鬼作夢ニ誑一レ我。故ニ罵テ之曰窮-鬼也。〔二4オF〕
※醍醐寺本「窮鬼(イキスカタ)」〔213E〕※金剛寺本「窮鬼(イキスカタ)イキスタマ」〔25C〕※陽明文庫本「窮_鬼(イキスタマ)」〔8オE〕
コレハタヽシ。窮鬼(キウキ)ノイキスダマノ添サラニ。キタツテワレヲナヤマスナラントナリ。注ニ人ノ夢ハ鬼(キ)ト通スト。鬼ハ陰(イン)ニ兎ヨルヲツカサトル。変(ヘンシテハ)ハアヤシキコトヲナス。註ノコヽロ。窮鬼トイヒシハ。ニクミノヽシリテ云ナリ。イカニトナレバ。十娘ガユメノウチニ。ワレヲニクムヤウナリ。タチマチ此(コノ)鬼(キ)キタリテ。ワレヲタブラカスト思ユヘニ。キウセルキトノヽシルナリ。窮(キウ)ハ困窮(コンキウ)。クルシミキワマルコヽロナリ。
窮鬼(キウ ) イキスタマ。生靈 同。〔前田本・上卷伊部人倫付鬼神類6オ@、黒川本上4ウG〕
窮鬼 イキスタマ[平・平・平濁・平]。〔僧下47G〕
[関連語補遺] 小学館『日本国語大辞典』第二版
いき‐すだま【生霊・窮鬼】〔名〕いきりょう(生霊)」に同じ。*十巻本和名抄〔九三四頃〕一「窮鬼 遊仙窟云窮鬼〈師説伊岐須太万〉」*落窪物語〔一〇C後〕二「いかでかいきすだまにも入りにしかな」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕葵「物のけ、いきすだまなどいふもの多く出で来て、さまざまの名のりする中に」*観智院本名義抄〔一二四一〕「窮鬼 イキズタマ」【発音】〈音史〉古くは「いきずたま」「いきすたま」か。〈標ア〉[ス]〈ア史〉平安「いきずたま」○○●○○〈京ア〉[0]【辞書】和名・色葉・名義・易林・書言・ヘボン・言海【表記】【窮鬼】和名・色葉・名義・易林・書言【生霊】色葉・ヘボン
※ただし、「いき‐すがた【生霊・窮鬼】〔名〕」の語は未収載。
《回文》待たず行き交うか窮鬼(またずいきかうかいきずたま) |
たゝいま 向来 遊仙窟〔巻・頁〕
向来(タヽイマ)ムカヒキタルコト見(ミル)二桂心(ケイシン)カ談説(モノカタリ)スルヲ一
向来ハ。タヽイマトヨマセタリ。サキコロ冫ヨム。イマノサキゴロ。桂(ケイ)心ガ談説(モンカタリ)スルヲミルニ。其方(ソノハウ)十娘ハ。天(テン)ノ上(ウヘ)ニモナラビナク。人間(ヒトノウチ)ニモタヽヒトリノミデ。アランホドナル美婦人(ビフシン)トウケタマハルトナリ。〔『遊仙窟抄』上・一24オF、勉誠社文庫97-61〕
向_来(イマシ)劇戯(ゲキゲ)タハフレト相_弄(アイモチアソヘル)添。
向来(イマシ)トハ。タヽイマスナハチト云ニヲナシ。〔『遊仙窟抄』上・一31オJ、勉誠社文庫97-75〕
とあって、「向来」の語訓として、「ただいま」「さきごろ」「いまし」の和訓を用いる。
古字書では観智院本『類聚名義抄』に、
向来 イマシ/タヽイマ[平・平濁・○・○]〔法下40E〕
向来 イマシ[平・上・平]/タヽイマ[平・平濁・平・平]〔僧下81B〕
とあって、「いまし」と「ただいま」即ち『遊仙窟』の二つの訓をもって茲に記載することが明らかとなった。
《回文》蒔いた田を縞色濃き先頃今鹽只今(まいたたをしまいろこきさきごろいましをただいま) |
うなつく 點頭(ウナツク) 或(同)頷{鎭}状漢書 顔許淮南子 頷(同){鎭}許遊仙窟
領許(カンキヨ) ウナツク 點額 同〔黒川本・中54オA〕
領許 ウナツク 〔佛下本13ウC〕
[関連語補遺]
※上記にも記載したことだが、典拠である古写本(醍醐寺本=岩波文庫『遊仙窟』影印付載)及び流布本『遊仙窟』に「領許」乃至「頷許」の語は未収載にある。『河海抄』(龍門文庫蔵)編者の見た写本を考察する必要がある。
〈参考HP〉
《回文》靴綯うに人問ひに頷く(くつなうにひととひにうなつく) |