BACK(「言葉の泉」へ)
MAIN MENU(情報言語学研究室へ)
ことばの溜め池
ふだん何氣なく思っている「ことば」を、池の中にポチャンと投げ込んでいきます。ふと立ち寄ってお氣づきのことがございましたらご連絡ください。
御けはひ 氣(ケハヒ)日本紀 形勢(同)新猿樂記。〔角川書店刊265上KS〕
とあって、「けはひ」の語として、『日本書紀』に「氣」の標記字を示す。
庚申(かのえさるのひ)に、天(あめ)の暖(あたたか)なること春(はる)の氣(しるし)の如(ごと)し。〈原文〉庚申、天暖如春氣。辛酉、雨下。壬戌、天暖如春氣。〔卷第廿四・皇極天皇、大系下243頁〕
現代の国語辞書である小学館『日本国語大辞典』第二版に、
け‐わい[:はひ]〔名〕(「け」は「気」か。現代では「気配」の字を当てて「けはい」という)@音、匂いなどによって感じられる物事の様子。*宇津保物語〔九七〇〜九九九頃〕俊蔭「『おぼろけにては、かく参り来なんや』などの給へば、けはひなつかしう」*枕草子〔一〇C終〕二〇一・心にくきもの「心にくきもの、ものへだてて聞くに女房とはおぼえぬ手のしのびやかにをかしげに聞えたるに、こたへわかやかにして、うちそよめきてまゐるけはひ」*紫式部日記〔一〇一〇頃か〕寛弘五年一一月二八日「上達部も舞人の君たちもこもりて、夜一よ細殿わたりいとものさはがしきけはひしたり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕空蝉「かかるけはひのいとかうばしくうち匂ふに」*和英語林集成(初版)〔一八六七〕「Kewai ケハイ」*浮雲〔一八八七〜八九〕〈二葉亭四迷〉三・一九「奥座敷へ入って聞いてゐると〈略〉ちょいと立留った光景(ケハヒ)で、『お待遠うさま』といふ声が聞えた」*多情多恨〔一八九六〕〈尾崎紅葉〉後・一〇「次の間に跫音がして彼地此地(あちこち)と絶えず徘徊する気勢(ケハヒ)である」A漠然と全体の感覚によって感じられる物事の様子。雰囲気(ふんいき)。*紫式部日記〔一〇一〇頃か〕寛弘五年秋「秋のけはひ入立つままに土御門殿のありさま、言はむかたなくをかし」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕桐壺「命婦かしこにまうでつきて、門引き入るるよりけはひあはれなり」*太平記〔一四C後〕四〇・中殿御会事「霞立つ気幸(ケワイ)も最(いと)艷(えん)なるに」*暮笛集〔一八九九〕〈薄田泣菫〉尼が紅「うるむ眼のちからなく 空の容子(ケハヒ)を窺(うかが)へば」B人の言葉や態度、ものごしから感じられる品格。人柄。*能因本枕草子〔一〇C終〕一〇〇・ねたき物「受領などの家にしもめなどのきてなめげに物いひ、さりとて我をばいかがおもひたるけはひにいひ出たるいとねたげなり」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕帚木「大方の気色・人のけはひもけざやかに気高く」*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕空蝉「ありしけはひよりは、ものものしくおぼゆれど」*狭衣物語〔一〇六九〜七七頃か〕二「せきもやらぬ涙に、『〈略〉いとど恐ろしうわりなし』と、思して、うち泣き給へるけわひなどの近まさりする」*今昔物語集〔一一二〇頃か〕二四・三一「気(け)はひ気高く、愛敬(あいぎやう)付て故(ゆゑ)有り」C実体がなくなったあとに残された雰囲気。なくなった人を思い出させるような名残。面影。*源氏物語〔一〇〇一〜一四頃〕帚木「過ぎにし親の御けはひとまれる古里ながら」【語源説】(1)ケは気、ハヒは延の義〔和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健・大言海〕。(2)ケハヒ(気色)の義。有るがごとくにして定かならざることを気というところから〔国語溯原=大矢透〕。(3)キアヒ(気合)の義〔名言通〕。(4)ケアヒ(気間)の義〔言元梯〕。【発音】〈標ア〉[ワ][0]〈京ア〉[ケ]【辞書】色葉・名義・書言・ヘボン・言海【表記】【形勢】色葉・書言【藝】色葉【気】名義【気幸・景勢】書言【気色】言海[子見出し]けわいをかく
け‐はい【気配】〔名〕(「けわい」の歴史的仮名づかい「けはひ」の当て字「気配」にひかれたよみ)@漠然と感覚によってとらえられる物事の様子。そぶり。ようす。→けわい。*或る女〔一九一九〕〈有島武郎〉後・三五「玄関から人の這入って来る気配(ケハヒ)がした」*抱擁家族〔一九六五〕〈小島信夫〉三「占領した電話機をなかなかはなす気配がなかった」A市場の景気や相場の状態。また、実際の取引はできてないが、大体この見当だろうという値段。気配値。きはい。【発音】〈なまり〉キハイ〔徳島〕キヘア〔岩手〕ケワイ〔鳥取〕〈標ア〉@は[ハ][0][ケ] Aは[ハ][0]〈京ア〉@は[ケ]
とあって、『河海抄』が示す『日本書紀』の「氣」は院政時代の観智院本『類聚名義抄』に収載され、『新猿楽記』の「形勢」は院政時代の古辞書『色葉字類抄』と江戸時代の『書言字考節用集』に所載する。
[関連語補遺]
〈参考HP〉
《回文》(けわい▼いわけ) |