2005年04月01日から04月30日迄

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ことばの溜め池

ふだん何氣なく思っている「ことば」を、池の中にポチャンと投げ込んでいきます。ふと立ち寄ってお氣づきのことがございましたらご連絡ください。

 

 

 
 
 
 
2005年4月30日(土)晴れ。東京→大阪(兵庫武庫川)
搗栗(かちくり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「賀」部に、

勝栗(カチグリ)搗栗(同) 擣之字同〔元亀二年本95三〕

勝栗(カチクリ)搗栗(同) 擣之字同〔静嘉堂本118五〕

勝栗(カチクリ)搗栗(同)〔天正十七年本上58オ七〕

とあって、標記語「搗栗」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

隨躰可引之時以後之菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔至徳三年本〕

隨躰可引之時以後菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔宝徳三年本〕

隨躰可引之齋以後菓子者生栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔建部傳内本〕

之可時以後菓子者生栗(ナマクリ)搗栗(カチ  )串柿熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子枝椎(  シイ)(ヒシ)田烏子(クワイ)覆盆子(イチコ)百合草(ユリ )野老(トコロ)零陵子(ヌカコ)テ‖御自愛( アイ)〔山田俊雄藏本〕

之可(ヒク)時以後菓子者()生栗(ナマクリ)搗栗(カチ  )串柿(クシカキ)熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(エタシイ)(ヒシ)田烏子(クワイ)覆盆子(イチコ)百合草隨御自愛ニ|意之〔経覺筆本〕

之可(トキ)以後菓子(クワシ)()生栗(ナマクリ)搗栗(カチクリ)串柿(クシカキ)熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子( ナシ)枝椎(エタシ井)(ヒシ)田烏(クワ井)覆盆子(イチコ)百合草(ユリ )テ‖御自愛(コジアイ)ニ|可用之〔文明四年本〕

と見え、建部傳内本は此の語を未収載にし、至徳三年本・宝徳三年本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本には「搗栗」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本に「(かち)くり」、文明四年本に「かちくり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

栗黄カチクリ/式云――年。搗栗 同/俗用之。〔黒川本・飲食門〕

栗黄カチクリ/式云――年。搗栗 同/俗用之。〔卷第三・飲食門206六〕

とあって、標記語「搗栗」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

搗栗(カチクリ) 搗与擣同字也。〔飲食門100七〕

標記語「搗栗」の語を収載し、語注記に「「搗」と「擣」は同字なり」と記載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

搗栗(カチクリ/タウリツ)[上・入] 搗與同字。作勝栗(カチクリ)。〔飲食門267二〕

とあって、標記語「搗栗」の語を収載し、語注記前半部は『下學集』を継承する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

搗栗(カチグリ) 。〔・草木門76八〕

勝栗(カチクリ) 搗栗。搗与同。〔・食物門83四〕〔・飲食門89五〕

勝栗(カチクリ) 搗栗(同)。―与同。〔・食物門82二〕

勝栗(カチグリ) 搗栗。〔・食物門74六〕

とあって、標記語「搗栗」「勝栗」の両語を収載する。また、易林本節用集』に、

搗栗(カチクリ) 搗与擣同。〔食服門74五〕

とあって、標記語「搗栗」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「搗栗」と「「勝栗」」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本は標記語「搗栗」で収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

696隨之可之時以後之菓子者生栗(イケクリ)搗栗(カチ―)串柿熟柿(―クシ)干棗(―ナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(ヱタシイ)胡桃(クルミ) 生北土。今陜洛間、多有之。大株厚葉多陰、實亦外有皮包之。胡桃乃核中桃為胡桃内秋冬熟時採之。外青皮染髪及帛黒、其樹皮可褐也云々。〔謙堂文庫蔵五九右E〕

とあって、標記語「搗栗」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

之菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎胡桃汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「搗栗の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

搗栗(かちぐり)搗栗 平煎餅(ひらせんへい)のことく打ひしきたる栗なり。〔91ウ八〜92オ一〕

とあって、この標記語「搗栗」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(とき)以後(いご)の菓子(くハし)()生栗(なまぐり)檮栗(かちぐり)串柿(くしがき)熟柿(じゆくし)干棗(ほしなつめ)花梨子(はななし)枝椎(えだしい)(ひし)田烏子(くハゐ)覆盆子(いちご)百合草(ゆり)零陵子(むかご)御自愛(ごじあい)(したがつ)(これ)(もち)()齋以後菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎田烏子覆盆子百合草御自愛〔67オ五〜八〕

(とき)以後(いごの)菓子(くハし)()生栗(なまぐり)檮栗(かちぐり)串柿(くしがき)熟柿(じゆくし)干棗(ほ なつめ)花梨子(はななし)枝椎(えだしひ)(ひし)田烏子(くわゐ)覆盆子(いちご)百合草(ゆり)零陵子(むかご)(したがつて)御自愛(ごじあいに)(べし)(もちふ)(これを)〔120ウ六〕

とあって、標記語「搗栗」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Cachiguri.カチクリ(搗栗) 臼で搗いて殻を取り去った栗,または,日に干して干からびた栗.〔邦訳73r〕

とあって、標記語「搗栗」の語の意味は「臼で搗いて殻を取り去った栗,または,日に干して干からびた栗」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

かち-ぐり〔名〕【搗栗】ほしぐり。栗の實を、殻のままにて乾して、肉の皴みたるとき、杵にて搗(か)ちて、殻と渋皮とを去れるもの。味更に甘美となる、勝栗の義として、出陣の祝儀の酒肴に、打鮑、昆布と三種を用ゐ、打ち勝ちてよろこぶの名詮とす。字類抄「栗黄、搗栗、カチグリ」〔385-2〕

とあって、標記語「かち-ぐり〔名〕【搗栗】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「かち-くり搗栗勝栗】[一]〔名〕@栗の実を干して臼(うす)で軽く搗(つ)き、殻と渋皮とを取り去ったもの。搗(かち)は勝と音が通ずるので、出陣、勝利の祝いや、正月の祝儀などにも用いた。[二](勝栗)狂言。和泉・鷺流。大和と摂津の二人の百姓が上頭に年貢として柿、搗栗などを納め、それぞれ年貢によそえた和歌をよむ」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
搗栗壱斛《『東寺百合文書・に』「丹波大山荘文書案」文永三年十二月十四日の条、2-1・1/865
 
 
2005年4月29日(金)晴れ。東京→新宿
生栗(なまぐり・いけぐり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「伊」部と「奈」部に、標記語「生栗」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

隨躰可引之時以後之菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔至徳三年本〕

隨躰可引之時以後菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔宝徳三年本〕

隨躰可引之齋以後菓子者生栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎菱田烏子覆盆子百合草隨御自愛可用之〔建部傳内本〕

之可時以後菓子生栗(ナマクリ)搗栗(カチ  )串柿熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子枝椎(  シイ)(ヒシ)田烏子(クワイ)覆盆子(イチコ)百合草(ユリ )野老(トコロ)零陵子(ヌカコ)テ‖御自愛( アイ)〔山田俊雄藏本〕

之可(ヒク)時以後菓子者()生栗(ナマクリ)搗栗(カチ  )串柿(クシカキ)熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(エタシイ)(ヒシ)田烏子(クワイ)覆盆子(イチコ)百合草隨御自愛ニ|意之〔経覺筆本〕

之可(トキ)以後菓子(クワシ)()生栗(ナマクリ)搗栗(カチクリ)串柿(クシカキ)熟柿(シユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子( ナシ)枝椎(エタシ井)(ヒシ)田烏(クワ井)覆盆子(イチコ)百合草(ユリ )テ‖御自愛(コジアイ)ニ|可用之〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「生栗」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本に「なまくり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「生栗」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「生栗」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「生栗」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

696隨之可之時以後之菓子者生栗(イケクリ)搗栗(カチ―)串柿熟柿(―クシ)干棗(―ナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(ヱタシイ)胡桃(クルミ) 生北土。今陜洛間、多有之。大株厚葉多陰、實亦外有皮包之。胡桃乃核中桃為胡桃内秋冬熟時採之。外青皮染髪及帛黒、其樹皮可褐也云々。〔謙堂文庫蔵五九右E〕

とあって、標記語「生栗」の語を収載し訓みを「いけくり」とし、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

菓子(クワシ)()生栗(ナマクリ)搗栗(カチグリ)串柿(クシガキ)熟柿(ジユクシ)干棗(ホシナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(エダシイ)(ヒシ)田烏子(クワイ)覆盆子(イチコ)百合草(ユリ )(シタカツ)御自愛ハ具(ツフサ)ニ記ス処ナシ。〔下36オ一〜三〕

とあって、標記語「生栗の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

生栗(なまくり)生栗 生にて食すれハ瘡を生す。乾たるも同し。煮て食すれハ氣をふさぐ。多く食ふへからす。〔91オ三・四〕

とあって、この標記語「生栗」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(とき)以後(いご)の菓子(くハし)()生栗(なまぐり)檮栗(かちぐり)串柿(くしがき)熟柿(じゆくし)干棗(ほしなつめ)花梨子(はななし)枝椎(えだしい)(ひし)田烏子(くハゐ)覆盆子(いちご)百合草(ゆり)零陵子(むかご)御自愛(ごじあい)(したがつ)(これ)(もち)()齋以後菓子者生栗搗栗串柿熟柿干棗花梨子枝椎田烏子覆盆子百合草御自愛〔67オ五〜八〕

(とき)以後(いごの)菓子(くハし)()生栗(なまぐり)檮栗(かちぐり)串柿(くしがき)熟柿(じゆくし)干棗(ほ なつめ)花梨子(はななし)枝椎(えだしひ)(ひし)田烏子(くわゐ)覆盆子(いちご)百合草(ゆり)零陵子(むかご)(したがつて)御自愛(ごじあいに)(べし)(もちふ)(これを)〔120ウ六〕

とあって、標記語「生栗」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

IIen.イケクリ・ナマクリ(生栗) .〔邦訳r〕

とあって、標記語「生栗」の語の意味は「前に」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、標記語「なま-くりいけ-くり〔名〕【生栗】」の語は未収載にする。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「いけ-ぐり生栗】〔名〕(「いけ」は生かしておく意の「いける」から)なまのままの栗。なまぐり」と標記語「なま-ぐり生栗】〔名〕生のままの栗の実。ゆでたり、焼いたり、干したりしていない栗の実」とあって、後者に『庭訓徃來』のこの語用例を記載する。
[ことばの実際]
生栗三斗 串柿十連《『東寺百合文書・に文永三年十二月十四日の条・2-1・1/865
 
 
時=齋(とき)」は、ことばの溜池「大齋」(2004.08.27)を参照。
菓子(クワシ)」は、ことばの溜池(2005.02.06)を参照。
 
2005年4月28日(木)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
隨躰(テイにしたがふ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「天」部に、標記語「隨躰」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は「隨躰」と表記し、記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

テイ。四支/亦乍躰見/太部。〔黒川本・人躰門〕

テイ。四支/亦乍躰見/太部 。〔卷第七・人躰門230二〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「隨躰」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「隨躰」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

696之可之時以後之菓子者生栗(イケクリ)搗栗(カチ―)串柿熟柿(―クシ)干棗(―ナツメ)花梨子(ハナナシ)枝椎(ヱタシイ)胡桃(クルミ) 生北土。今陜洛間、多有之。大株厚葉多陰、實亦外有皮包之。胡桃乃核中桃為胡桃内秋冬熟時採之。外青皮染髪及帛黒、其樹皮可褐也云々。〔謙堂文庫蔵五九右E〕

とあって、標記語「隨躰」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「隨躰の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(てい)に隨(したがつ)(これ)を引(ひく)(へし) 躰に隨ふとハ時宜(しぎ)によるなり。こゝにて齋の菜は全終りたり。〔91オ一〜二〕

とあって、この標記語「隨躰」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「隨躰」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「隨躰」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

てい〔名〕【】〔タイの呉音〕かたち。すがた。ありさま。やうす。ふり。字類抄「體、テイ、四支」保元物語、一、新院御所各門門固事「兜をば郎等に持せて歩み出たる體、樊?も斯やと覺えて、由由しかりき」狂言記、どぶかッちり「イヤ、座頭が酒を飲むていでござる」先哲叢談、三、熊澤蕃山「嘗至某候、及入見一士人威儀特秀、骨體非常、相與張目注観良久、遂不交一言」「體ヲ變ヘテ」事ナキ體ニ」〔1343-2〕

とあって、標記語「てい〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「てい】〔名〕@物の形。また、物事の有様。樣子。たい。A(接尾語的に用いて)そのようなもの。そのような樣子。風(ふう)。風体。ふぜい」とあって、その小見出し「ていに隨(したが)う」は未収載にする。依って『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月27日(水)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
雁煎(かりいり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「賀」部に、標記語「雁煎」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「雁煎」と表記し、訓みは経覺筆本に「(かり)いり」、文明四年本に「かりいり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「雁煎」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「雁煎」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「雁煎」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「雁煎」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「雁煎の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)平茸雁煎平茸ハ人の指乃ならへるか如く重りて生す。毒なふして味も又よし。にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。雁煎ハ其煮方によりて味雁に似たる故名つく雉焼鴫焼といふの類ひなり〔91ウ八〜92オ一〕

とあって、この標記語「雁煎」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「雁煎」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「雁煎」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』、現代の『日本国語大辞典』第二版には、標記語「かり-いり〔名〕【雁煎】」の語は未収載にする。よって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月26日(火)曇り一時雨。東京→世田谷(駒沢)
平茸(ひらたけ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「比」部に、

平茸(ヒラタケ)〔元亀二年本342七〕〔静嘉堂本410八〕

とあって、標記語「平茸」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、宝徳三年本は此の語を脱し、至徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「平茸」と表記し、訓みは経覺筆本に「ひら(たけ)」、文明四年本に「ひらたけ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

平茸 ヒラタケ。〔黒川本・植物門〕

菌茸 ヒラケタリ。〔卷第十・植物門325六〕

とあって、標記語「平茸」「菌茸」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「平茸」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

平茸(ヒラタケヘイシヨウ・タイラカ、シゲル)[平・平] 或云菌茸。〔草木門1031一〕

とあって、標記語「平茸」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

平茸(ヒラタケ) 或云菌茸。〔・草木門251三〕

平茸(ヒラタケ) 。〔・草木門215四〕〔・草木門200七〕

とあって、標記語「平茸」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

平耳(ヒラタケ) 。〔草木門224四〕

とあって、標記語「平耳」の語を以て収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「平茸」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「平茸」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「平茸の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)平茸雁煎等 平茸ハ人の指乃ならへるか如く重りて生す。毒なふして味も又よし。にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。雁煎ハ其煮方によりて味雁に似たる故名つく雉焼鴫焼といふの類ひなり。〔91ウ八〜92オ一〕

とあって、この標記語「平茸」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「平茸」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Firataqe.ヒラタケ(平茸) 木の根元に生える茸.〔邦訳242r〕

とあって、標記語「平茸」の語の意味は「木の根元に生える茸」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

ひら-たけ〔名〕【平茸】菌(きのこ)の一種。山林中の闊葉樹の枯木に生ず。又、人工的にも生ぜしむ。柄は短く、蓋は貝殻状をなし、大きさ二三寸、灰色、又は、茶褐色を呈し、漸次に褪色す。蓋の上皮を剥ぎ、柔かき内部を食用とす。一名、むきたけ。又、あはびたけ。林逸節用集、草木類「平茸、ヒラタケ」今昔物語集、廿八、第三十八語「片手には平茸を三總許持て上給へり」宇治拾遺物語、一、第二條「年頃、平茸やるかたもなく多かりけり」古今著聞集、十八、飲食「觀知僧都、九條の太政大臣の許へ平茸をおくるとて添へ侍りける、たひらかに、たひらのきゃうに、住む人は、ひらたけをこそ、食ふべかりけれ、かへし、平茸は、よき武者にこそ、似たりけれ、おそろしながら、さすが見まほし」〔1709-5〕

とあって、標記語「ひら-たけ〔名〕【平茸】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「ひら-たけ平茸】〔名〕担子菌類ヒラタケ科のキノコ。春から秋にかけ、各地の広葉樹林の朽木の幹に重なりあって生じる。傘は直径五〜一五センチbの半円形、灰色またはネズミ色で片側に柄がある。ひだは柄に長く垂生し、白色またはクリーム色。食用。人口栽培もされ、若いうちはシメジに似た形をしているので「しめじ」と称して販売される。あわびたけ。かきたけ。学名はPleurotus ostreatus《季・秋》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月25日(月)晴れ一時雨。東京→世田谷(駒沢)
松茸(まつたけ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「末」部に、

松茸(マツダケ)〔元亀二年本206五〕〔静嘉堂本234四〕

松茸(マツタケ)〔天正十七年本中46ウ四〕

とあって、標記語「松茸」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「松茸」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本に「わかめ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「松茸」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「松茸」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

松茸(マツダケせウシヨウ・シケシ・クサビラ)[平・去] 。〔草木門567六〕

とあって、標記語「松茸」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

松茸(マツダケ) 。〔草木門168七〕〔草木門138五〕

松茸(マツタケ) 。〔草木門137五〕

とあって、標記語「松茸」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

松蕈(マツダケ) 。〔草木門140六〕

とあって、標記語「松蕈」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「松茸」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、広本節用集』の語注記は、大いに異なっている。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「松茸」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「松茸の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)甘苔塩苔酒煎松茸 性平にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。西国ハ牡松多く牝松少きゆへ茯苓多く松茸少しといえり。〔91ウ六〜八〕

とあって、この標記語「松茸」の語を収載し、語注記未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「松茸」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Matcudaqe.マツダケ(松茸) 茸の一種.〔邦訳388r〕

とあって、標記語「松茸」の語の意味は「茸の一種」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

まつ-だけ〔名〕【松茸】(一)菌(きのこ)の名。山中、雌松(あかまつ)多き地に生ず、秋の半より末を時とす。低きは一二寸、高きは尺に至る。蓋の上は紫Kにして、裏は白くして、刻みあり、莖の皮は淡褐なり。全體脆くして、肉白く、裂け易く、香氣最も高し。炙り、又、煮て食ふ。菌の中の最とす。松蕈。まッたけ。(關西にて)運歩色葉集松茸林逸節用集、草木「松茸、マツダケ」(二)陰莖の異名。宇治拾遺物語、一、第六條「毛の中より松茸の大きやかなるものの、ふらふらと出で來て」〔0456-5〕

とあって、標記語「まつ-だけ〔名〕【松茸】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「まつ-たけ松茸】〔名〕(「まつだけ」とも)」@担子菌類キシメジ科のキノコ。秋に、各地の主としてアカマツの林の地上に発生する。高さ一〇〜二〇センチb。傘は淡褐色の鱗皮におおわれ、初め半球状だが、次第に扁平に開き径一〇〜二〇センチbになる。裏面のひだは密で白い。柄には綿毛状のつばがあり上下ともほぼ同じ太さ。芳香と風味があり食用。学名はTricholoma matsutake《季・秋》A(@に形が似ているところから)陰茎の異称」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
可令存知給候也、兼又、例進松茸事、九月中可備進之由、乍進置請文、于今遲々、何樣事候乎 《『東寺百合文書・と』(延慶三年)十月五日の条、104-1・3/623
 
 
2005年4月24日(日)晴れ。東京→世田谷(二子玉川→駒沢)
酒煎(さかいり)(さかいり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「左」部に、標記語「酒煎」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、宝徳三年本は此の語を未収載とし、至徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本には「酒煎」と表記し、訓みは経覺筆本に「(さか)いり」、山田俊雄藏本・文明四年本に「さかいり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「酒煎」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、標記語「酒煎」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

酒熬(サカイリ) ―直()。〔食服門178三〕

とあって、標記語「酒熬」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「酒煎」の語では未収載にあって、これを古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「酒煎」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「酒煎の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)甘苔塩苔酒煎松茸 性平にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。西国ハ牡松多く牝松少きゆへ茯苓多く松茸少しといえり。〔91ウ六〜八〕

とあって、この標記語「酒煎」の語を収載し、語注記未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「酒煎」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「酒煎」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

さか-いり〔名〕【酒煎】〔酢煎(すいり)と云ふもあり〕肉、菜の汁に、酒を加へて煎ること。さかびて。さかしほ。庭訓往來、十月「御齋之汁者、云云、酒煎、松茸、平茸、鴈煎、等、隨體可之」易林本節用集(慶長)食服「酒煎(サカイリ)合類節用集(元禄)六、服食門「櫻熬(サクライリ)酒熬(サカイリ)」〔776-5〕

とあって、標記語「さか-いり〔名〕【酒煎】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「さか-いり酒煎】〔名〕肉や野菜などを鍋で煎り、しょうゆや塩の他に酒で味つけをすること。また、そのもの」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例を記載する。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月23日(土)晴れ。東京→秋葉原・神田→世田谷(駒沢)
塩苔(しほのり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「志」部に、標記語「塩苔」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、宝徳三年本は未収載とし、至徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「塩苔」と表記し、訓みは経覺筆本に「(しほ)のり」、文明四年本に「しほのり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「塩苔」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「塩苔」の語を未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「塩苔」の語は未収載にあって、これを古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「塩苔」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「塩苔の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)甘苔塩苔酒煎松茸 性平にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。西国ハ牡松多く牝松少きゆへ茯苓多く松茸少しといえり。〔91ウ六〜八〕

とあって、この標記語「塩苔」の語を収載し、語注記未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。▲塩苔未考。〔66ウ四、67オ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲塩苔未〔119ウ四、120オ四〕

とあって、標記語「塩苔」の語をもって収載し、その語注記は「塩苔、未だ考へず」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「塩苔」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には標記語「しほ-のり〔名〕【塩苔】」の語は未収載にする。また、現代の『日本国語大辞典』第二版においても標記語「しお-のり塩苔】〔名〕」の語は未収載にする。これに依って、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載とする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月22日(金)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
甘苔(あまのり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「阿」部に、

甘苔(アマノリ)紫菜() 醫云。海帯()〔元亀二年本260六〕

甘苔(アマノリ)紫菜() 醫書。海帶() 同。〔静嘉堂本295三〕

とあって、標記語「甘苔」「紫菜」「海帯」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「甘苔」と表記し、訓みは経覺筆本に「(あま)のり」、山田俊雄藏本・文明四年本に「あまのり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

神仙(シンせン) アマノリ甘苔 同/俗用之紫菜 。〔黒川本・植物門下22オ六・七〕

神仙菜 アマノリ紫菜甘苔 同/俗用之。〔卷第八・植物門275三・四〕

とあって、標記語「甘苔」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

紫菜(アマノリ) 。〔草木門129七〕

とあって、標記語「紫菜」の語を以て収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

紫菜(アマノリ/・ムラサキ、サイ・ナ)[上・去] 。〔草木門745五〕

とあって、標記語「紫菜」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、標記語「甘苔」「紫菜」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

甘苔(アマノリ) 。〔草木門169七〕

神仙菜(アマノリ) 。〔草木門170一〕

とあって、標記語「甘苔」「神仙菜」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「甘苔」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、広本節用集』の語注記は、大いに異なっている。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「甘苔」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「甘苔の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)甘苔塩苔酒煎松茸 性平にして味甘く毒なし。木蕈(たけ)の第一也。牝松(めまつ)にあらされハ生せす。京都には牝松多く牡松(をまつ)少きゆへ松茸多く茯苓(ふくれう)少し。西国ハ牡松多く牝松少きゆへ茯苓多く松茸少しといえり。〔91ウ六〜八〕

とあって、この標記語「甘苔」の語を収載し、語注記未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲甘苔ハ本字紫菜(しさい)と書。〔66ウ四、67オ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲甘苔ハ本字紫菜(しさい)と書。〔119ウ四、120ウ四〕

とあって、標記語「甘苔」の語をもって収載し、その語注記は「甘苔は、本字紫菜(しさい)と書く」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Amanori.アマノリ(甘苔) 海藻の一種.〔邦訳22l〕

とあって、標記語「甘苔」の語の意味は「海藻の一種」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

あま-のり〔名〕【甘海苔】海苔の一種。冬、海中の石に付きて生ず、生なるは緑Kにして、乾けば紫Kなり、或は、生は緑にして、乾けば紫なるは、食ふに下品なり。此種に、あさくさのりあり。最上品とす。一名、むらさきのり。紫菜内膳寮式、新嘗祭供御料「紫菜」倭名抄、十七9「紫菜、阿末乃里、俗用甘苔名義抄「紫菜、ムラサキノリ、アマノリ」吾妻鏡、六、文治二年二月十九日「供御甘海苔、自伊豆國、到來于鎌倉、彼國土産也」〔0085-5〕

とあって、標記語「あま-のり〔名〕【甘苔】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「あま-のり甘苔】〔名〕紅藻類ウシケノリ科の海藻の属名。小柄を持ち、岩、貝殻などにつく。体は紙状で種類や環境によって線形、長楕円形、円形など。黒紫色、赤紫色で、アサクサノリ、ツクシアマノリなどの多くの種類を含む。学名はPorphyra《季・春》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
供御甘苔十合、令進上京都給是伊豆國乃貢也。《訓み下し》供御ノ甘苔十合、京都ニ進上セシメ給フ。是レ伊豆ノ国ノ乃貢ナリ。《『吾妻鏡文治五年十一月一日の条》
 
 
2005年4月21日(木)晴れ一時雨。東京→世田谷(駒沢)
曳干(ひきぼし)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「飛」部に、標記語「曳干」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「曳干」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「ひき(ほし)」、経覺筆本・文明四年本に「ひきほし」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

曳干 ヒキホシ。〔黒川本・飲食門下〕

曳干 ヒキホシ。〔卷第十・飲食門341一〕

とあって、標記語「曳干」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「曳干」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(ヒキボシ/インカン・ヲカス)[去・平] 。〔飲食門1034六〕

とあって、標記語「」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、標記語「曳干」「」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

曳干(ヒキボシ) 。〔食服門225一〕

とあって、標記語「曳干」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」「曳干」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本は後者の「曳干」の語を以て収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「曳干」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「曳干の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

神馬藻(じんばそう)曳干(ひきぼし)神馬藻曳干 神馬藻ハ神功皇后三韓(さんかん)を討玉ふ時舟中にて馬にかひ玉ひしによりて名付くほたハらの事なり。〔90ウ四〜六〕

とあって、この標記語「曳干」の語を収載し、語注記未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「曳干」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「曳干」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

ひき-ぼし〔名〕【曳干】海藻を引干したるもの。干()したる海藻。字類抄、「曳干、ヒキボシ」宇津保物語、國讓、上8「色色の折敷、四つして、曳干、果物などして」蜻蛉日記、上、下12「海松の曳干のみじかくちぎりたるを」源氏物語、五十三、夢浮橋11「畫、あなた(僧都)にひきぼし奉れたりつる返事に」〔1653-4〕

とあって、標記語「ひき-ぼし〔名〕【曳干】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「ひき-ぼし引干】〔名〕(ひき張って干したものの意)海草などを日光でかわかしたもの」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
~馬藻(ジンバサウ)」はことばの溜池(2000.08.19)を参照。
《補遺》江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)神馬藻曳干 神馬藻ハ神功皇后三韓(さんかん)を討玉ふ時舟中にて馬にかひ玉ひしによりて名付くほたハらの事なり。〔90ウ四〜六〕

とあって、この標記語「神馬藻」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲神馬藻ハ莫鳴菜(ななりそ)なり。俗に穂俵(ほたハら)といふハ正月蓬?盤(ほうらいばん)の飾(かさり)に用る形(かたち)の名也。〔66ウ四、67オ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲神馬藻ハ莫鳴菜(ななりそ)なり。俗に穂俵(ほだハら)といふハ正月蓬?盤(ほうらいばん)の飾(かざり)に用る形(かたち)の名也。〔119ウ四、120オ三・四〕

とあって、標記語「神馬藻」の語をもって収載し、その語注記は「神馬藻は、莫鳴菜(ななりそ)なり。俗に穂俵(ほだハら)といふは、正月蓬?盤(ほうらいばん)の飾(かざり)に用る形(かたち)の名なり」と記載する。
 
2005年4月20日(水)雨。東京→世田谷(駒沢)
青苔(あをのり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「阿」部に、

青苔(アヲノリ)渉厘() 〔元亀二年本260三〕

青茄(アヲノリ)青苔()渉厘() 〔静嘉堂本294七〕

とあって、標記語「青苔」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「青苔」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本に「(あを)のり」、文明四年本に「あをのり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

陟釐(チヨクテン)リ アヲノリ/音離。青苔 同/俗用之。〔黒川本・植物門下22オ七〕

陟釐 アヲノリ。青海菜青苔陟厘楊玄操音也/又音勅。水中苔河中側梨水中麁苔已上二名。出蘇敬注石衣已上出/崔禹。水衣兼名苑水落新録方/已上アヲノリ。〔卷第八・植物門279六〜280四〕

とあって、標記語「青苔」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

青海苔(アヲノリ) 。〔草木門129七〕

とあって、標記語「青海苔」の語を収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

青海苔(アヲノリせイ・アヲシ、カイ・ウミ、タイ・コケ)[平・上・平] 又作青渉厘海藻。〔草木門745六〕

とあって、標記語「青海苔」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

青海苔(アヲノリ) 。〔・草木門202五〕〔・草木門167八〕〔・草木門156八〕

とあって、標記語「青苔」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

青苔(アヲノリ) 。〔草木門170三〕

とあって、標記語「青苔」の語を以て収載するに留まる。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「青海苔」と「青苔」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本は後者の「青苔」の語で収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「青苔」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「青苔の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)差酢和布青苔 茶を飲(のミ)て腹鳴を治す。〔90ウ四〕

とあって、この標記語「青苔」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲青苔ハ本字乾苔(かんたい)と書。〔66ウ四、67オ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲青苔ハ本字乾苔(かんたい)と書。〔119ウ四、120オ三〕

とあって、標記語「青苔」の語をもって収載し、その語注記は「青苔は、本字乾苔(かんたい)と書く」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Auonori.アヲノリ(青海苔) 食用になる緑色をした海藻の一種.〔邦訳40r〕

とあって、標記語「青海苔」の語の意味は「食用になる緑色をした海藻の一種」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

あを-のり〔名〕【青海苔】海苔の一種。海中に生ず、甚だ細そくして、絲の如くにて緑なり、長さ二三寸より、一尺に及ぶ、干して食用とす。倭名抄、十七9海菜類「陟釐、阿乎乃利、俗用青苔」(陟釐は、かはあをのりなり)大膳職式、下「正月修太元帥法料、青苔五百八十條」下學集(文安)下、草木「青(アヲ)海苔(ノリ)〔123-1〕

とあって、標記語「あを-のり〔名〕【青海苔】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「あお-のり青苔】〔名〕緑藻類アオサ科アオノリ属の海藻の総称。各地の浅海や川口付近の岩石に着生する。主にボウアオノリ、スジアオノリ、ヒラアオノリ、ウスバアオノリなどが含まれる。黄緑色か鮮や緑色で、管状または扁平。食用とするほか、ふすま紙などにすき入れる。あおば。苔菜。緑苔(りょくたい)。学名はEnterromorpha《季・春》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
陟釐青乃利。《『新撰字鏡』卷十二、786三》
渉厘(アヲノリ) 本草云―音一本釐阿乎乃利俗用青苔。《十卷本『倭名類聚抄』卷第九7オH・421頁》
 
 
2005年4月19日(火)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
和布(わかめ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「和」部に、

和布()〔元亀二年本87六〕〔静嘉堂本107七〕〔天正十七年本上53オ七〕

若和布(ワカメ)〔元亀二年本89八〕〔静嘉堂本110六〕〔天正十七年本上54ウ二〕

若和布(ワカメ)(カルハ)〔元亀二年本90一〕

若和布(ワカメ)(カル)〔静嘉堂本110八〕

若和布(ワカメ)〔天正十七年本上54ウ四〕

とあって、標記語「和布」と「若和布」の語を収載し、後者の語に「わかめ」の訓を添えている。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「和布」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本に「わかめ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「和布」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「和布」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

和布(ワカメ/クハ・ヤワラク、シク・ヌノ)[平去・去] 海藻。〔草木門235二〕

とあって、標記語「和布」の語を収載し、語注記に「海藻」と記載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

和布(ワカメ) 海藻。〔・草木門70六〕

和布(ワフ)ワカメ 海藻。〔・草木門76二〕

とあって、弘治二年本両足院本標記語に「和布」の語を収載し、語注記に「海藻」と記載する。また、易林本節用集』に、

若和布() 。〔草木門66二〕

とあって、標記語「若和布」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「和布」の語を収載し、これを古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「和布」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「和布の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)差酢和布青苔 茶を飲(のミ)て腹鳴を治す。〔90ウ四〕

とあって、この標記語「和布」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲和布ハ本字石蓴(せきじゆん)と云。〔66ウ四、67オ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲和布ハ本字石蓴(せきじゆん)と云。〔119ウ四、120オ三〕

とあって、標記語「和布」の語をもって収載し、その語注記は「和布は、本字石蓴(せきじゆん)と云ふ」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Vacame.ワカメ(和布) 新しくて柔らかな,葉の大きな或る海藻.〔邦訳675l〕

とあって、標記語「和布」の語の意味は「新しくて柔らかな,葉の大きな或る海藻」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

わか-〔名〕【若布稚和布】〔わかきめの略、又、わけめの轉かとも云ふ、め(海布)、竝にこんぶ(昆布)の條を見よ、荒布に對する名〕古名、和布(にぎめ)。褐色の海藻の名。淺き海中の石上に生ず。形、略、昆布に似て、羽状に分裂し、薄く狹く、長さ一二尺、色青し。食用とす。裙帶菜萬葉集、十六27「角島(つぬしま)の瀬戸(せと)の稚和藻(わかめ)は、人のむた、荒かりしかど、吾がむたは和海藻(にぎめ)」(古義の訓)大膳職式、下「稚和藻(わかめ)三兩」〔2162-4〕

とあって、標記語「わか-〔名〕【若布稚和布】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「わか-和布】[一]〔名〕@褐藻類コンブ科の海藻。北海道南部から九州の沿岸の干潮線下五bほどの海底に生える。近年では養殖も盛んに行なわれている。葉状体は卵形で不規則に羽状に深裂、全長一b、幅五〇センチbに達する。茎状部の左右に翼状の和布蕪(めかぶ)があり胞子嚢(ほうしのう)を生ずる。生食するほか、乾燥させて食用とする。めのは。にきめ。めき。学名はUndaria pinnatifida《季・春》A袴(はかま)をいう、盗人仲間の隠語。〔隠語輯覧(1915)〕[二](若和布)狂言。和泉流。住持にに酒のさかなにする若布を買ってこいと言われた新発意(しんぼち)が、詐欺師にだまされて若い女を買って帰り、住持に叱られる。二人は夫婦になる約束をし、本堂へ行って杯をかわし謡い舞ううち、騒ぎを聞きつけてやってきた住持に追い出される」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月18日(月)曇り薄晴れ。東京→世田谷(駒沢)
差酢(さしす)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「左」部に、標記語「差酢」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「差酢」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「さし(す)」、経覺筆本・文明四年本に「さしす」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「差酢」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「差酢」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「差酢」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、語注記は見えない。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「差酢」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「差酢の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)差酢和布青苔 茶を飲(のミ)て腹鳴を治す。〔90ウ四〕

とあって、この標記語「差酢」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「差酢」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「差酢」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、標記語「さし-〔名〕【差酢】」の語は未収載にする。また、これを現代の『日本国語大辞典』第二版においても未収載であり、依って『庭訓徃來』のこの語用例は未記載となっている。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月17日(日)晴れ。東京→世田谷(二子玉川→駒沢)
(なずな)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草花名」部に、

(ナヅナ)〔元亀二年本381五〕〔静嘉堂本459八〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは経覺筆本に「なつな」、山田俊雄藏本・文明四年本に「なづな」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

(サイ) ナツナ。〔黒川本・植物門中32ウ六〕

ナツナ靡草薺實也燕薺小苦竈薺竈食其葉故以名之胡薺葉央長大薺葉細老薺已上五名出狗薺音典。已上出兼名苑/已上七名ナツナ本草。〔卷第・植物門007三〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

(ナヅナ) 。〔草木門128四〕

とあって、標記語「」の語を収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(ナヅナせイ)[上] 。〔草木門435一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

(ナヅナ) 。〔・草木門137八〕〔・草木門110三〕〔・草木門100七〕

(せイ/ナツナ) 。〔・草木門122七〕

とあって、標記語「」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

(ナヅナ) 。〔草木門110一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、広本節用集』の語注記は、大いに異なっている。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(なづな) あつものにして食(しよく)すれハ又臓を利す。〔90ウ三・四〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲薺ハ俗に三味線草(さミせんくさ)といふ。〔66ウ四、67オ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲薺ハ俗に三味線草(さミせんくさ)といふ。〔119ウ四、120ウ三〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「薺は、俗に三味線草(さミせんくさ)といふ」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Nazzuna.ナヅナ() この名で呼ばれる草.→次条.〔邦訳455r〕

†Nazzuna.ナヅナ() 苣(ちしや),または,野芥子(のげし)の類.※原文はAlmeira~o,ou serralha.〔邦訳455r〕

とあって、標記語「」の語の意味は「この名で呼ばれる草→苣(ちしや),または,野芥子(のげし)の類」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

なづ-〔名〕【】〔撫菜(なでな)の義にて、愛づる意かと云ふ〕草の名。所在の地に叢生し、初生は蔬()とし、又、春の七草の一となす。莖の高さ七八寸、葉は、たんぽぽに似て、岐あり。春の初、莖を出し、四辨の小白花を開く、穗長し。後に、細小なる莢を結ぶ。形、三味線の撥(ばち)に似たれば、さみせんぐさ、又ぺんぺんぐさの名もあり。倭名抄、十七12、野菜類「、奈都那」本草和名、下35「、奈都奈」字鏡55「、奈豆奈」古今六帖、四「今はとて、人のかれはて、淺茅生に、さればなづなの、花ぞ咲きける」曽丹集「みそのふの、なづなのくきも、立ちにけり、今朝の朝なに、何をつままし」散木集、一「君がため、夜ごしにつめる、なな草の、なづなの花を、見てしのびませ」〔1460-2〕

とあって、標記語「なづ-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「なず-】〔名〕アブラナ科の二年草。各地の路傍、原野などにふつうに見られる。高さ三〇センチbぐらい。葉は羽状に深裂し根ぎわに密生する。春から初夏にかけ、茎頂に総状に多数密集した小さな白い四弁花を開く。果実は扁平で三味線の撥(ばち)に似た倒三角形。春の七草の一つで、早春、若葉をゆでて食べる。漢名、薺。ぺんぺんぐさ。学名はCapsella bursa-pastoris.《季・新年》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
(ナツナ) 禹食經云―辞啓反上声之重奈豆奈烝煮之。《十卷本倭名類聚抄』卷九12オ二・国立歴史民俗博物館所蔵431頁》
 
 
2005年4月16日(土)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
(せり)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草花名」部に、

(せリ)〔元亀二年本381五〕〔静嘉堂本464一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは「せり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

(キン) せリ/巨斤反水芹 水英 。〔黒川本・植物門下101ウ六〕

せリ水荷水芙仁謂正乍/芹音勤水英仁謂音/出陶景注水勒出釋藥性楚葵出兼名苑已上せリ。〔卷第・植物門007三〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

(せリ) 。〔草木門128四〕

とあって、標記語「」の語を収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(せリキン)[去] 。〔草木門1080八〕

とあって、標記語「」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

(せリ) 。〔・草木門262六〕〔・草木門223八〕

(せリ) 古河。〔・草木門210六〕

とあって、標記語「」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

(せリ) 。〔草木門234七〕                  

とあって、標記語「」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(せり) 頭中の風熱を去り酒後の熱をさます。酢に和してくらへハ歯を損す。〔90ウ三〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔69ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「芹は、」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Xeri.セリ() 芹.※原文はRabacas.オランダぜりの類.〔邦訳755r〕

とあって、標記語「」の語の意味は「」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

せり-〔名〕【】〔一處に競()りて生ふれば云ふと云ふ〕草の名、水中にて生ず、葉、冬を經て枯れず、三出複葉をなして、互生す、夏最も茂る、莖を出すこと一二尺、枝の頭毎に、小白花、數十、傘のして、り開く。一名、川芹(かはぜり)。ねじろぐさ。つかつみ。田に植ゑて、專ら、莖葉を食用とすれば、田芹(たぜり)の名あり。其陸生のものを、畠芹(はたけぜり)、野芹(のぜり)と云ふ。旱芹。本草和名、下38「水、世利」倭名抄、十七9藻類「芹、勢利」天治字鏡、七30「芹、世利」天智紀、十年十二月、童謡「水葱(ナギ)ノモト、制利ノモト」〔1135-5〕

とあって、標記語「せり-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「せり-【】〔名〕セリ科の多年草。日本の各地および朝鮮、台湾などの湿地や溝に生える。高さ三〇〜六〇センチb。全体に無毛で、一種の芳香がある。茎には稜があり、下部は長く地を這う。根生葉には長い柄があり、基部はやや小さくて互いに重なる。茎葉は有柄で互生し、基部は茎を抱く。葉は二回羽状複葉。各小葉は狭卵形または披針形で両端は尖り、縁に粗い鋸歯(きょし)がある。夏、葉に対生して長い花茎を伸ばし、先端にごく小さな白い五弁花を球状に密集してつける。春の七草の一つで、若い葉と茎を食用とする。漢名、水。しろねぐさ。学名はOenanthe javanica《季・春》▼せりの花《季・夏》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
《『名語記』の条》
 
 
2005年4月15日(金)晴れ。東京→世田谷(駒沢)
薗豆(ヱントウ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草花名」部に、

(ヱンヅウ)〔元亀二年本378五〕

(ヱントウ)〔静嘉堂本462一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「薗豆」と表記し、訓みは「ヱンドウ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

園豆(ヱントウ) 。〔黒川本・植物門下84ウ二〕〔卷第十・植物門296三〕

とあって、標記語「園豆」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「薗豆園豆」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

薗豆(ヱンドウ―、マメ)[○・○] 或作苑豆(ヱントウ)福田方十二卷(ヱンドウ)。〔態藝門699二〕55七

とあって、標記語「薗豆」の語を収載し、語注記に「或は苑豆(ヱントウ)と作す。『福田方』十二卷に在り。(ヱンドウ)」と記載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

(ヱンドウ) 薗豆()。〔・草木門193二〕

(ヱンドウ) 。〔・草木門159五〕

(ヱントウ) 。〔・草木門148五〕

とあって、標記語「豆」と弘治二年本注記に「薗豆」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

(ヱンドウ) 。〔草木門162二〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、広本節用集』に標記語「薗豆」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、広本節用集』には典拠用例を有する語注記を収載する。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「薗豆」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「薗豆の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

園豆(ゑんとう)園豆 味蠶豆(そらまめ)の如し。〔90ウ二・三〕

とあって、この標記語「園豆」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔69ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「園豆」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「薗豆園豆」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

ゑん-どう〔名〕【】〔のらまめ(野豆)の條を見合はすべし〕のらまめ。のまめ。(まめ)科の二年生蔓草。高さ四五尺、秋、種を下して、翌年夏、實熟す。葉は羽状に排列して、藤に似て、小葉は圓く、白みを帶ぶ。葉の頭毎に、細そき鬚あり、春、白、又は、紫色の蝶形花を開く、ふぢまめ(藤豆)の花に似て大なり。花後、果を結ぶ。豆はしろまめ(白豆)の大きさにて、略、方形にて、K褐色なり。又、白花なるは、豆、圓くして白く、を併せて食ふべし、さやゑんどう(莢)と云ふ。又、烏のゑんどう、雀のゑんどう、野ゑんどう、濱ゑんどう、などあり。文豆。字類抄「園豆、ヱントウ」倭名抄、十七3豆類「野豆、本草蔬云、豆、一名野豆、乃良末女倭爾雅、六、米穀門「豆、ヱントウ、ノラマメ、胡豆、戎穀、囘豆、畢豆、青小豆、青班豆並同、或云野豆物類稱呼、三、生殖「豆、ゑんどう、畿内にて、のらまめと云、東國にて、ゑんどうと云、伊勢にて、ぶんどうと云、上總にて、ゑんづといふ」〔2194-3〕

とあって、標記語「ゑん-どう〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「えん-どう】〔名〕@マメ科の二年草または一年草。ヨーロッパ原産で、古くから栽培されており、品種が多い。多くはつる性で高さ一b内外。葉は一〜三対の卵形の小葉をもった羽状複葉で、先端は分岐した卷ひげとなる。托葉は半切した心臓形で小葉より大きい。春、葉腋から長い花茎を出し一〜五個の紫色または白色の蝶形の花をつける。豆果は線状長楕円形、種子は褐色、白色または緑色。種子と若いさやを食用とする。のらまめ。ぶんとう。学名はPisum sativum《季・夏》▼えんどうの花《季・春》A「そらまめ(空豆)」の異名」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月14日(木)小雨。東京→世田谷(駒沢)
(ちしや)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草花名」部に、

(チシヤ)〔元亀二年本378八〕〔静嘉堂本462五〕

(チシヤ)()。〔元亀二年本381一〕〔静嘉堂本459五〕

とあって、標記語「」と「苣・」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは「あさみ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

(チシヤ) 。〔草木門128五〕

とあって、標記語「」の語を収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(チシヤ)[○] 。〔草木門158二〕

とあって、標記語「」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

(チシヤ) 又作苣菖。〔・草木門48六〕

(チシヤ)(チシヤ)。〔・草木門49九〕

(チシヤ) 又―菖/地甘屮。〔・草木門45七〕

(チシヤ) 又苣菖/地甘草(チシヤ)。〔・草木門53七〕

とあって、標記語「」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

(チシヤ) 。〔草木門49六〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ豆煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕※「煎豆」と「苣」との中間に古写本・他註釈そして、「荼」の語が見えていて、また他の真名注諸本には「茶苣(チシヤ)」(天理本・国会図書館左貫註本など)と収載する。

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(ちさ) 目をあきらかにし乳汁()を益()し歯()をしろくす。〔90オ七・八〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲苣ハ正字(くハきよ)と書く。〔66ウ一、67オ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲苣ハ正字(くわきよ)と書く。〔119ウ四、120ウ二〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「苣は、正字(くわきよ)と書く」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Chixa.チシヤ() 苣(ちしや).¶Chixauo caqu.(苣を掻く)苣の葉を摘み取る〔邦訳124r〕

とあって、標記語「」の語の意味は「苣(ちしや)」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

-〔名〕【】〔ちハ、莖葉を斷つ時は、乳汁の如きもの出づるより云ふ〕菜の名。苗の高さ三四尺、初め地に布きて四散し、長ずれば薹を起す。葉は芥(からし)に似て、厚く軟(やはらか)にして、皴あり、互生す。生食、又は煮食すべし。又、鹽に漬けても食ふ。春の末、梢に多く淡黄花を開く、小菊花の如し。訛して、ちしゃ。倭名抄、十七11「園菜類「苣、知散」本草和名、下40「白苣、知佐」字鏡、53「、知佐」同56「、知左」〔1266-1〕

とあって、標記語「-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「-しゃ】〔名〕(「ちさ()」の変化した語)@キク科の一年草または二年草。レタス、サラダ菜、カキチシャ、タチジシャなどに大別される代表的な蔬菜。ヨーロッパ原産で、古くから栽培されている。全体に白粉を帯び、切ると白い乳液が出る。根生葉は楕円形で大きく、茎葉は茎を抱く。夏、枝先に舌状花だけからなる淡黄色の花が咲く。漢名、苣・千層菜。ちさ。学名はLactuca sativa《季・春》▼ちしゃの花《季・夏》A植物「えごのき」の異名」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
《『名語記』の条》
 
 
(おほとち)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「於」部に、

〔元亀二年本224一〕〔天正十七年本中57ウ一〕

〔静嘉堂本256五〕

とあって、標記語「」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは「おほとち」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語は未収載にあって、これを古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(おほとぢ)にかななり。〔90ウ二〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲荼ハ苦菜(にがな)也。俗にケシナグサといふ。〔66ウ三、67オ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲荼ハ苦菜(にがな)也。俗にケシナグサといふ。〔119ウ四、120ウ二〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「荼は、苦菜(にがな)なり。俗にケシナグサといふ」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

おほ-とち〔名〕【】草の名。けしあざみの古名。ニガナ。おほつち(敗醤)を併せ見よ。字鏡52「、於保土知」倭名抄、十七12「苦菜之可食也、於保都知」〔0315-3〕

とあって、標記語「おほ-とち〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「おお-どち】〔名〕植物「おとこえし(男郎花)」の古名」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 宅加反平緑()/也。於保知也。《『新撰字鏡』卷七18オ一》
 
 
2005年4月13日(水)小雨。東京→世田谷(駒沢)
煎豆(いりまめ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「伊」部に、標記語「煎豆」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「煎豆」と表記し、訓みは「いりまめ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「煎豆」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「煎豆」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

煎豆(イリマメせントウ)[平去・去] 。〔飲食門9五〕

とあって、標記語「煎豆」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

煎豆(イリマメ) 。〔・食物門7四〕〔・食物門4八〕〔・食物門5四〕〔・食物門6四〕

とあって、標記語「煎豆」の語を収載する。また、易林本節用集』に、標記語「煎豆」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「煎豆」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「煎豆」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「煎豆の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)納豆煎豆 座禅豆の類ひ也。〔90ウ一〕

とあって、この標記語「煎豆」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等〔66ウ四〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ四〕

とあって、標記語「煎豆」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Irimame.イリマメ(炒豆) 炒った大豆.※原文はGrao~s.〔Mame(豆)の注〕〔邦訳340r〕

とあって、標記語「煎豆」の語の意味は「炒った大豆」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

いり-まめ〔名〕【炒豆】(一)大豆を、炒りたるもの。厨事類記、「かちぐり、いりまめ、うつくしくつきふるひて」(二)まめいり。〔0218-4〕

とあって、標記語「いり-まめ〔名〕【炒豆】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「いり-まめ煎豆】〔名〕@煎った大豆。節分の豆まきにも用いる。A大豆を煎って、砂糖をまぶしたもの。三月の節句の雛(ひな)などにも供える。まめいり」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月12日(火)小雨。東京→世田谷(駒沢)
納豆(ナットウ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「那」部に、

納豆(トウ)〔元亀二年本165八〕〔静嘉堂本184一〕

納豆(ナツトウ)〔天正十七年本中23オ二〕

とあって、標記語「納豆」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「納豆」と表記し、訓みは経覺筆本・文明四年本に「ナツトウ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「納豆」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「納豆」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

納豆(ナツトウヲサム、マメ)[入・去] 。〔飲食門436八〕

とあって、標記語「納豆」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

納豆(ナツトウ) 。〔・食物門138八〕〔・食物門111五〕〔・食物門102三〕〔・食物門124八〕

とあって、標記語「納豆」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

納豆(ナツトウ) 。〔食服門110二〕

とあって、標記語「納豆」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「納豆」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆苣(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「納豆」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「納豆の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)納豆煎豆 座禅豆の類ひ也。〔90ウ一〕

とあって、この標記語「納豆」の語を収載し、語注記は上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ〕

とあって、標記語「納豆」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Natto>.ナツタウ(納豆) 大豆を少し煮てから室(むろ)の中に入れて作る食物の一種.¶Natto>jiru.(納豆汁)この大豆を材料として作った汁(Xiru).※原文はgra~os.〔Mame(豆)の注〕〔邦訳453r〕

とあって、標記語「納豆」の語の意味は「大豆を少し煮てから室(むろ)の中に入れて作る食物の一種」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

なッ-とう〔名〕【納豆】〔寺納豆に起り、納所の僧の豆の義かと云ふ、いかが〕(一)古製なるは、即ち、濱名(ハマナ)納豆(ナツトウ)。(其條を見よ)。(二)今、常に稱するものは、白大豆を煮て麹とし、粘泥を生ずるを窺ひ、藁に包みて貯へて成る。豆黄。まめなっとう(豆納豆)と云ふは、大豆を一日程、水に浸し、やはらかに煮て、新藁のにつつみ、更に筵をかぶせ、箱などに入れ、湯、又は、炭火にてあたため、或は温室(むろ)などに入れて、一晝夜を經れば、ばくてりあ?酵(ハツカウ)を起して、白花を生じ、絲を引く。簡なるは、煮たる大豆を重箱に入れ、新藁を刻みて、それに載せ、蓋をして、炬燵の中に、一晝夜入れおけば成る。いとひきなっとう(絲引納豆)は、又、汁納豆(しるナツトウ)とも云ふ。近江國、粟田郡、蘆浦の觀音寺なるを初とす。粘甚しく、絲を引くこと強し。たたきなっとう(敲納豆)と云ふは、豆を庖丁などにて、敲きくだきたるもの。直に納豆汁になるやうにしたるものなり。又、京の大コ寺眞珠庵の一休納豆などあり。何れも飯の菜(さい)などとして食ふ。運歩色葉集、ナツトウ」庭訓往來、十月「菜者、胡瓜甘漬、納豆、煎豆、荼苣、園豆」書言字考節用集、六、服食門「豆、ナツトウ、納豆、同」浮世風呂(文化、三馬)四編、下「何事も氣の早い事さ、納豆を見なせぇ、わしらは、冬でなくて食はねぇもんだと心得てるに、近頃は八月の初から納豆汁だ、云云、霜月頃に食べたいと思っても、もはや納豆納豆の聲もしませぬ」〔1460-1〕

とあって、標記語「なッ-とう〔名〕【納豆】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「なっ-とう納豆】〔名〕」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月11日(月)雨。東京→世田谷(駒沢)
甘漬(あまづけ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「阿」部に、標記語「甘漬」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「甘漬」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「あまづけ」、経覺筆本・文明四年本「あまつけ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

甘漬アマツケ 。〔黒川本・飲食門下26オ四〕

甘漬アマツケ/或云瓜―絮嘗已上同/アマツケ。〔巻第八・飲食門四〕

とあって、標記語「甘漬」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「甘漬」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「甘漬」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「甘漬」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「甘漬の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

茹物(ゆでもの)ハ茄子(なすひ)酢菜(すさい)ハ胡瓜(きうり)甘漬(あまつけ)茹物茄子酢菜胡瓜甘漬 胡瓜毒(どく)あり。寒熱(かんねつ)を動(うこか)し瘡を生ず。〔90オ八〜91ウ一〕

とあって、この標記語「甘漬」の語を収載し、語注記は未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ三〕

とあって、標記語「甘漬」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「甘漬」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

あま-づけ〔名〕【味漬】〔淡漬(あまづけ)の義か、淡しの條を見よ〕(一){漬物(つけもの)の名。古く云へるは、あま鹽に漬けたるものなるべし。内膳司式「味漬」字類抄「味漬、アマヅケ」(二)香物(かうのもの)の名。淺漬大根の類。本朝食鑑(元禄)二、穀、香物、甘漬「九十月用好肥蘿蔔句根百箇、洗淨略乾、用舂粳飯八升、麹八升、白鹽一升六合拌憧、一重蘿蔔、一重板、麹、鹽、漬填于一レ桶、壓蓋除水、過三十日餘而熟」〔0082-3〕

とあって、標記語「あま-づけ〔名〕【味漬】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「あま-づけ甘漬】〔名〕@塩けを薄くして漬けた漬物。甘塩の漬物。A大根を軽く干し、薄塩とこうじで漬けたもの。あさづけだいこん」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月10日(日)晴れ。東京(八王子)→南大沢
胡瓜(キウリ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草名花」部に、

胡瓜(キウリ)〔元亀二年本379三〕〔静嘉堂本462六〕

とあって、標記語「胡瓜」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「胡瓜」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本に「きうり」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

黄瓜同。白〓(瓜+専)同。()キウリ/又ソハウリ 。〔黒川本・植物門下45ウ八〕

黄瓜キウリ。蒲田反/黄瓜名也。〃――。白〓(瓜+専)同。形似蓋者也。胡瓜已上同。キウリ。亦フタハウリ/多食發瘧病云々。〔巻第八・植物門 五・六〕

とあって、標記語「胡瓜」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

胡瓜(キウリ) 。〔植物門129二〕

とあって、標記語「胡瓜」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

胡瓜(キウリコクワ・ヱビス、―)[○・平] 。〔草木門811五〕

とあって、標記語「胡瓜」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本節用集』には、

胡瓜(キウリ) 。〔・草木門217四〕〔・草木門181四〕〔・草木門171一〕

とあって、標記語「胡瓜」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

胡瓜(キフリ) 。〔草木門下26ウ二〕

とあって、標記語「胡瓜」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「胡瓜」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「胡瓜」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「胡瓜の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

茹物(ゆでもの)ハ茄子(なすひ)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)の甘漬(あまつけ)茹物茄子酢菜胡瓜甘漬 胡瓜毒(どく)あり。寒熱(かんねつ)を動(うこか)し瘡を生ず。〔90オ八〜91ウ一〕

とあって、この標記語「胡瓜」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ三〕

とあって、標記語「胡瓜」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Qiuri.キウリ(胡瓜) 胡瓜.〔邦訳512l〕

とあって、標記語「胡瓜」の語の意味は「胡瓜」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

-うり〔名〕【胡瓜】〔黄瓜の義、熟すれば、黄なり、黄烏瓜(きからすうり)、同意〕古名、からすうり。そばうり。瓜の一種。春、苗を生じて、蔓延す、葉は冬瓜(トウグワ)の如くにして、亦、毛刺あり、初夏に五瓣の黄花を開く、瓜の類の、最も早く熟するものにて、瓜の形、圓く長く緑にして、刺あることなまこの肌の如し、熟すれば黄なり、生にても食ふべく、又、鹽漬にす。倭名抄、十七6「胡瓜、木宇利」胡瓜〔0454-3〕

とあって、標記語「-うり〔名〕【胡瓜】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「-うり黄瓜胡瓜】〔名〕植物「きゅうり(胡瓜)」の異名」→標記語「きゅう-黄瓜胡瓜】〔名〕@ウリ科のつる性一年草。原産地は東インドといわれ、古くから世界各地で栽培されている。茎は細長く、葉腋に巻ひげがあり、他の物にからんで上に伸びる。全体に刺(とげ)状の毛を密布する。葉は長い柄をもち互生する。心臓形で掌状に三〜五浅裂し、初夏、葉腋に黄色の五弁花が咲く。果実は長円柱形で刺をもち、黄熟する。重要な野菜として生食され、多数の品種がある。きうり。そばうり。学名はCucumis sativus《季・夏》A(形が似ているところから)ナマコをいう、盗人仲間の隠語。〔特殊語百科辞典(1931)〕」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月9日(土)晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
酢菜(スサイ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「須」部に、標記語「酢菜」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「酢菜」と表記し、訓みは経覺筆本・文明四年本に「すさい」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「酢菜」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、標記語「酢菜」の語は未収載にする。そして、易林本節用集』には、

酢菜(スサイ) ―漬(ヅケ)。―薑(キヤウ)。〔食服門239六〕

とあって、標記語「酢菜」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、易林本節用集』に標記語「酢菜」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

695酢菜ニハ胡瓜(キウリ)ノ甘漬(―ツケ)(ナツ)ノ煎豆(チシヤ)薗豆(トウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)和布青苔(―ノリ)神馬藻曳干(ヒキ―)甘苔(アマノリ)塩苔酒煎松茸(―タケ)平茸雁煎(カンイリ)等 神馬藻神宮皇后自異国退治始也。舩中。取海中藻馬。故云。〔謙堂文庫藏五九右B〕

とあって、標記語「酢菜」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)何(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)雪(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「酢菜の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

茹物(ゆでもの)ハ茄子(なすひ)酢菜(すさい)ハ胡瓜(きうり)の甘漬(あまつけ)茹物茄子酢菜胡瓜甘漬 胡瓜毒(どく)あり。寒熱(かんねつ)を動(うこか)し瘡を生ず。〔90オ八〜91ウ一〕

とあって、この標記語「酢菜」の語を収載し、語注記は未記載にする。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)の牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)の(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)の茗荷(めうが)(こも)乃子()の蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)の酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)の和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)の松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)の雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲酢菜ハ軒(さしミ)やうのものなるべし。〔66ウ三、67オ二〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲酢菜ハ軒(さしミ)やうのものなるべし。〔11ウ一、120オ三〕

とあって、標記語「酢菜」の語をもって収載し、その語注記は「酢菜は、軒(さしミ)やうのものなるべし」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

†Susai.スサイ(酢菜) 一般に大根と酢とで作るサラダ.〔邦訳591l〕

とあって、標記語「酢菜」の語の意味は「一般に大根と酢とで作るサラダ」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、標記語「-さい〔名〕【酢菜】」の語は未収載にする。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「-さい酢菜】〔名〕酢にひたした野菜。酢であえた蔬菜。塵芥(1510-50頃)下「酢菜 スサイ」*日葡辞書(1603-04)「Susai(スサイ)<訳>一般に大根と酢とで作るサラダ」*虎明本狂言・岡太夫(室町末−近世初)「もしかゆのすさひに、とつさかのりばしまいったか」」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
八文 酢菜大根醋共《『大コ寺文書』(年月日未詳)の条、1256・3/218
 
 
茄子(なすび)」は、ことばの溜池(2000.08.16)を参照。
 
2005年4月8日(金)晴れ。東京(八王子)→新宿
茹物(ゆでもの)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「遊」部に、

茹物(ユデモノ) 。〔元亀二年本293四〕〔静嘉堂本340八〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「茹物」と表記し、訓みは経覺筆本に「ゆてもの」、山田俊雄藏本・文明四年本に「ゆて(もの)」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

(シヨ) 人怒反/ユテモノ/又ニラキ。〔黒川本・飲食門下55オ五〕

ユテモノ/ニラキ。菜也。〔卷第九・飲食門10四〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

茹物(ユテモノ) 。〔飲食門103一〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

茹物(ユデモノシヨフツ・ムサボル、―)[去・入] 。〔飲食門860七〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

茹物(ユデモノ) 湯ニテ。〔・食物門226五〕

茹物(ユデモノ)ユツル/―。〔・食物門188六〕

茹物(ユテモノ) 。〔・食物門178二〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

茹物(ユデモノ) 。〔食服門194一〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「茹物」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

694蒸物(ムシ―)茹物(ユテ―)茄子落蘇。又名崑崙瓜也。〔謙堂文庫藏五九右A〕

とあって、標記語「茹物」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)何(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)雪(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「茹物の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

茹物(ゆでもの)ハ茄子(なすひ)の酢菜(すさい)ハ胡瓜(きうり)の甘漬(あまつけ)/茹物茄子酢菜胡瓜甘漬 胡瓜毒(どく)あり。寒熱(かんねつ)を動(うこか)し瘡を生ず。〔90オ八〜91ウ一〕

とあって、この標記語「茹物」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)の牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)の(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)の茗荷(めうが)(こも)乃子()の蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)の酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)の和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)の松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)の雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ三〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)。〔119ウ三〕

とあって、標記語「茹物」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Yudemono.ユデモノ(茹物) 何であれ煮た物.〔邦訳834l〕

とあって、標記語「茹物」の語の意味は「何であれ煮た物」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

ゆで-もの〔名〕【茹物でたる食物の名。又、菜などをでたるもの。今、ひたしもの。倭名抄、十六17、菜羮類「茹、由天毛乃」庭訓往來、十月「菜者繊蘿蔔、煮染牛房、昆布搗布烏頭布荒布K煮蕗、莇、蕪酢漬、茗荷、薦子蒸物、茹物茄子〔2071-1〕

とあって、標記語「ゆで-もの〔名〕【茹物】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「ゆで-もの茹物】〔名〕茹でた物。野菜、果実などを茹でたもの。うでもの」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例を記載する。
[ことばの実際]
《HP参考資料》「用語集(食事・おかず編)」
 
 
2005年4月7日(木)晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
蒸物(むしもの)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「牟」部に、標記語「蒸物」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「蒸物」と表記し、訓みは「あさみ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

(シヨウ)ムス/ムシモノ茹歟}同。〔飲食門中44オ二〕

ムス/ムシモノ已上同/亦乍〓。〔卷第五・飲食門六〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「蒸物」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「蒸物」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

694蒸物(ムシ―)茹物(ユテ―)茄子落蘇。又名崑崙瓜也。〔謙堂文庫藏五九右A〕

とあって、標記語「蒸物」の語を収載し、語注記は未記載にする。

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)何(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)雪(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「蒸物の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(こも)の子()の蒸物(むしもの)/蒸物 菰の実ハ菰米の事也。又薦子(こもミ)と書たる本も有。〔90オ七・八〕

とあって、この標記語「蒸物」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)の牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)の(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)の茗荷(めうが)(こも)乃子()の蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)の酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)の和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)の松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)の雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ一〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)。〔119ウ六〕

とあって、標記語「蒸物」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「蒸物」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

むし-もの〔名〕【蒸物】(一){蔬菜類など、蒸したるもの。倭名抄、十六16菜羮類「、無之毛乃、蒸也」名義抄、ムシモノ」大和物語、下「廣き庭に生ひたる菜をつみて、むしものと云ふ物にして、ちゃわんに盛りて」盛衰記、三、殿下乘會(参考盛衰記)、乘舊訛作事、今改之)「土器に蔓菜を高杯にもりて折敷にすへ、云云、其造物こそ、むし物にあひて腰がらみと云事よ」(二)今、饅頭など、蒸し作る菓子の稱。蒸菓子。〔4-548@〕

とあって、標記語「むし-もの〔名〕【蒸物】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「むし-もの蒸物】〔名〕@蒸したもの。特に、野菜や魚介などを蒸した料理。A蒸し菓子のこと」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月6日(水)晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
薦子(こものね)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「古」部に、標記語「薦子」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「薦子」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「こもの(こ)」、経覺筆本・文明四年本に「こものこ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

菰首 味甘冷也/コモノコ/コモツノ/コモフツロ。同。同。(ホウ)コモノネ/又云ナ。〔黒川本・植物門下二オ六〕

菰首 コモノコ/コモツノ。味甘冷也。コモノコ。菰首 コッモノネ/出七卷食經。コモノコ/見本草。〔卷第七・植物門110一・二〕

とあって、標記語「菰首」以下の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「薦子」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「薦子」の語は未収載にあって、これを古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

693薦子(コモノネ) 或云茅白根非也。只如字心也。〔謙堂文庫藏五九右@〕

とあって、標記語「薦子」の語を収載し、語注記は、「或は茅白根と云ふは非なり。只、如の字の心なり」と記載する。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「薦子の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(こも)の子()蒸物(むしもの)蒸物 菰の実ハ菰米の事也。又薦子(こもミ)と書たる本も有。〔90オ七・八〕

とあって、この標記語「薦子」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲薦子ハ菰(まこも)の子()也。皮(かハ)黒褐色(くろきいろ)にして内(うち)の子()(はなはだ)(しろ)く滑(なめらか)(あぶらつ)けり。是を沙孤米(さんごべい)といふ。薦(せん)の字ハ其葉()を取て蓆(むしろ)に織(をり)たるの名()也。〔66ウ二、67オ二〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲薦子ハ菰(まこも)の子()也。皮(かハ)黒褐色(くろきいろ)にして内(うち)の子()(はなはだ)(しろ)く滑(なめらか)(あぶらつ)けり。是を沙孤米(さんごべい)といふ。薦(せん)の字ハ其葉()を取て蓆(むしろ)に織(おり)たるの名也。〔119ウ二、120オ六〜ウ一〕

とあって、標記語「薦子」の語をもって収載し、その語注記は「薦の子は、菰(まこも)の子()なり。皮(かハ)黒褐色(くろきいろ)にして内(うち)の子()(はなはだ)(しろ)く滑(なめらか)(あぶらつ)けり。是を沙孤米(さんごべい)といふ。薦(せん)の字は、其の葉()を取て蓆(むしろ)に織(おり)たるの名なり」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「薦子」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

こも--〔名〕【菰子】〔竹の子、木の子、同趣〕菰角(こもつの)に同じ。菰(こも)の初生(めばえ)。食ふべし。菰菜。本草和名、下53「?蒻、古毛乃古」韻會「?、乾之曰?」廣雅「菰、正シクハ作?」説文「蒻、蒲子」除曰、根上初生」古今著聞集、十八、飲食「左京大夫顯輔卿の許に、盃酌ありけるに、畳布(たたみめ)に、こものこを、肴にしたりけるを見て、主人(あるじ)「たたみめに、しく肴こそ、なかりけれ」(敷くに、如くをかけたり)前にありける青侍の、附け侍ける「こものこのさしまさるらむ」(畳を刺すにかけたり)庭訓往来、十月「蒸物」(菰の借字)〔2−383B〕

とあって、標記語「こも--〔名〕【菰子】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「こも】〔名〕」の小見出し「こもの子(こ) こもづの(菰角)に同じ」「こもの根(ね) こもづの(菰角)に同じ」」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
茗荷(ミヤウガ)」は、ことばの溜池(2000.11.04)を参照。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「茗荷」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「メウガ」、経覺筆本に「ミヤウガ」、文明四年本に「ミヤウカ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』に、

メカ/又ミヤウカ〔黒川本・植物門下57ウ五・六〕

メカ/ミヤウカ〔巻第九・植物門六・一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布K煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「茗荷」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「茗荷の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

酢漬(すづけ)茗荷(めうが)酢漬茗荷 名多くくらへは足の病を生す。〔90オ七〕

とあって、この標記語「茗荷」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ一、66ウ七〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔11ウ一、120オ三〕

とあって、標記語「茗荷」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Mio<ga.ミヤウガ(茗荷) 生姜のような葉をもった或る草.〔邦訳408l〕

とあって、標記語「茗荷」の語の意味は「生姜のような葉をもった或る草」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

みやう-〔名〕【茗荷】めうが()の誤。〔4-520@〕

めう-〔名〕【茗荷】〔めかの音便、俗、茗荷は當字(あてじ)、茗は茶なり〕(一)古名、めか。荷科の多年生草本の名。山谷、或は、竹木の林中に生じ、常に畠にも植ゑて菜とす。春、宿根より苗を生ず、めうがだけと云ふ、形、略、生薑の苗に似たり。長じて高さ二三尺、根の旁に黄なる花を生ず、めうがのこと云ふ、形、筍の如くにして、二三寸、めうがだけと共に、採りて食用とす。康頼本草、下11「白荷、ミヤウガ、女加」狂言記、鈍根草(ドコンサウ)「めうがと蓼とが御座りまする」(二)俗に、ぎゃうえふ(杏葉)の異稱。(三)愚なる人の異稱。(荷を多く食へば、愚鈍になると云ふ俗説に因るか)柳樽「大門を、はいるめうがに出る生薑」〔4−576@〕

とあって、標記語「みやう-〔名〕【茗荷】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「みやう-茗荷】〔名〕(「茗荷」はあて字)@ショウガ科の多年草。アジア熱帯地方の原産で、本州・四国・九州の山野に生え、野菜としても栽培される。高さ〇.五〜一b。地下茎は円柱形であまり肥大しない。葉は広披針形で長さ二〇〜三〇センチb。八〜一〇月、卵状楕円形で赤紫色の包片を多数たけのこ状につけ、その間に径五センチbぐらいの白い不整斉花を数個開く。まだ花の出ない苞(ほう)を「はなみょうが」、茎の若いものを「みょうがたけ」といい、ともに芳香に富み、食用にする。漢名、荷。学名はZingiber mioga▼みょうがの花《季・秋》A愚鈍な人。愚かな人。@を多く食べると物忘れするという俗説からいう。B紋所の名。@芽や花を図案化したもの。花抱き茗荷、抱き茗荷。違い茗荷。抱き茗荷菱などの種類がある」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例を記載する。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月5日(火)晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
酢漬(すづけ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「須」部に、標記語「酢漬」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「酢漬」と表記し、訓みは山田俊雄藏本に「すゝけ」、経覺筆本・文明四年本に「すつけ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「酢漬」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、標記語「酢漬」の語は未収載にする。また、易林本節用集』に、

酢菜(スサイ) ―漬(ヅケ)。―薑(キヤウ)。〔食服門下52ウE〕

とあって、標記語「酢菜」の熟語群の語として「酢漬」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、易林本節用集』に注記熟語群「酢漬」の語を収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布K煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「酢漬」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)何(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)雪(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「酢漬の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

酢漬(すづけ)茗荷(めうが)酢漬茗荷 名多くくらへは足の病を生す。〔90オ七〕

とあって、この標記語「酢漬」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ二〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ二〕

とあって、標記語「酢漬」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「酢漬」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

-づけ〔名〕【酢漬】食物を、酢に漬ぅること。又、其食物。酢藏易林本節用集(慶長)食服門「酢漬、スヅケ」〔2-909A〕

とあって、標記語「-づけ〔名〕【酢漬】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「-づけ酢漬】〔名〕食物を酢に漬けておくこと。また、酢に漬けた食物」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月4日(月)雨のち晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
(かぶら)」→「東山蕪」(2001.11.23)参照
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草名」部に、標記語「」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは「あさみ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

カフラ。〔黒川本・植物門上75オ三〕

カフラ或用已上同/見毛詩。〔卷第三・植物門149一〜三〕         

とあって、標記語「」「」「」の語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、標記語「」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(カブラ・アルヽ)[平] 蔓草根也。〔草木門258三〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記に「蔓草の根なり」と記載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本節用集』には、

(カフラ) 。〔草木門76六〕

(カブラ) 。〔草木門76二〕〔草木門69一〕

とあって、標記語「」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

(カブラ) 。〔草木門73四〕

とあって、標記語「」の語を収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。但し、広本節用集』の語注記は、大いに異なっている。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布K煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(かぶら) 常にくらへハ身肥(こへ)る。〔90オ六・七〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲蕪ハ根()をいふ也。正字蕪(ぶせい)と書く。〔66ウ二、67オ一〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲蕪ハ根()をいふ也。正字蕪(ぶせい)と書く。〔119ウ二、120オ六〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「蕪は、根()をいふなり。正字蕪(ぶせい)と書く」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Cabu.カブラ() かぶらの根,または,かぶら.これは婦人語である.Cabura(蕪)と言う方がまさる.〔邦訳71l〕

とあって、標記語「」の語の意味は「かぶらの根,または,かぶら.これは婦人語である」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

かぶ-〔名〕【】かぶらなの略。其條を見よ。〔0408-4〕

かぶら-〔名〕【蕪菜】〔根莖菜(かぶらな)の義、かぶら(根莖)の條を見よ〕常に略して、かぶら、又、かぶと云ふ。菜の名。葉はあぶらなに似て大きく、根はだいこんに似て太く短し、種類多く、形、扁(ひらた)きあり、圓きあり、長きありて、皆、大小あり、近江蕪、最も大なり。煮、又は、鹽漬にして食ふ、かぶな。かぶだいこん。康頼本草、下6「蕪、加布良奈」倭名抄、十七10「蕪、蔓、加布良」宇津保物語、國讓、下18「生、漬けたるかぶら、堅鹽(かたいしほ)ばかりして、云云、參りたり」和玉篇「蕪、カブ、カブナ」〔0408-5〕

かぶ-〔名〕【根莖】〔かぶは、頭(かぶ)の義、植物は根を頭とす、らは意なき辭、らの條を見よ〕株の古言。植物の根の脹れたる處の稱。倭名抄、十七10「蔓根、蔓曰、、毛詩云(詩經、風、北風篇)采采菲、無以下體、下體、根莖也、加布良」〔0408-4〕

とあって、標記語「かぶ-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「かぶ-】〔名〕@「かぶ(蕪)@」の異名。《季・冬》A江戸時代、遊里で初心者をいう。郭の遊びにまだなれていない者」→「かぶ-】〔名〕(「かぶら」の女房詞「おかぶ」から変化した語か。類例に「なすび」の女房詞「おなす」から「なす」ができた例がある)@アブラナ科の一年草または二年草。ヨーロッパ原産で、日本へは中国から渡来したとみられる。高さ約九〇センチbになるものもある。葉は初め叢生(そうせい)し、長楕円形で縁は不規則に切れ込む。春枝先に十字状の黄色小花を密につける。重要な野菜として栽培され、肥大して円錐形や球形となる根を食用にする。多くの品種があり、大形のものは家畜の飼料にもなる。かぶら。かぶな。かぶらな。うきな。すずな。学名はBrassica rapa《季・冬》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
※江戸時代の注釈書には、茲に(ところ)」の語が増補され、庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に味にかし。腰(こし)脊背(せなか)痛によし」〔90オ六〕とその功能を記載する。
 
2005年4月3日(日)晴れ後夜雨。東京(八王子)→河津
(あざみ)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草名」部に、

(アザミ)(同)(同)〔元亀二年本381五〕

(アザミ)(同)〔静嘉堂本464一〕

とあって、標記語「」「薊」「」≠「」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮蕗(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは「あさみ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

(ケイ)アサミ(同)。〔黒川本植物門下21ウ八〕

アサミ。―菜亦乍節。〔卷第七植物門271二〕

とあって、標記語「「」」「」の二語を収載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

薊菜。〔草木門128五〕

とあって、標記語「薊菜」の語を収載し、語注記に「或はの字に作す」と記載する。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(アザミ)[○](同カイ)[○](同)[○]〔草木門745二〕

とあって、標記語「」「」「」の三種の表記を収載する。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

(アザミ)(同)(同)。〔草木門202三・四〕

(アザミ) 薊/薊菜。〔草木門167八〕

(アザミ) 薊/菜。気(アザミ)力屮。〔草木門156八〕 續断子(アサミ)。〔草木門157二〕

とあって、標記語「」「」の語を収載する。但し永祿二年本尭空本は「」の字を標記語としている。また、易林本節用集』に、

薊菜(アザミ)()() 。〔草木門170二・三〕

とあって、標記語「薊菜」「」「」の三語を以て収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布K煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

(あざミ) 本名を大薊(だいれい)と云。吐血(とけつ)衂血(ちくけつ)をとめる能あなり。〔90オ六〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等ハ薊(あざミ)と書べし。おにあざミをいふ也。〔66ウ一、66ウ八〜67オ一〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)ハ薊(あさミ)と書(かく)べし。おにあざミをいふ也。〔119ウ二、120オ四〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「莇は、薊(あさミ)と書(かく)べし。おにあざミをいふなり」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Azami.アザミ() 和物(Ayemono)にして食べる草.¶Voniazami.(鬼薊)野生のcardo〔アザミ類の総称〕のような草.〔邦訳44r〕

とあって、標記語「」の語の意味は「和物(Ayemono)にして食べる草」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

あざみ-〔名〕【】〔あざみ草と云ふが成語にて、刺(とげ)多きをあざむ()意にてもあるか〕草の名。春の初、芽を出す、葉は、地に就きて生じて、刻ありて、刺(とげ)多し、春の末、三四尺の莖を出す、亦、刺あり、秋、花を開く、形、眉刷毛(まゆはけ)に似て、(うてな)にも刺あり、て、色、紫なり。人家に植うるものは、はなあざみ、まゆはきあざみなど云ひて、花、紅、白、紫、黄、等、種種あり。又、山薊、鬼薊、野薊、狐薊等あり、各條に註す。字鏡34「薊、阿佐彌」倭名抄、十七11「薊、葉多刺、阿佐美」〔0032-2〕

とあって、標記語「あざみ-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「あざみ-【】〔名〕キク科のアザミ属の多年草の総称。高さ〇・六〜二b。葉は概して大形で羽状に裂け、縁に切れ込みがあり、刺(とげ)が多い。花は通常紅紫色で、小さな管状花が集まった半球形の頭状花となり、横または下向きに咲くものが多い。北半球に約二百種。日本には約六十種ある。最もふつうに見られるのはノアザミで、フジアザミ、ドイツアザミなど。スコットランドの国花。学名はCirsium《季・春》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月2日(土)晴れ。東京(八王子)→世田谷(駒沢)
(ふき)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の補遺「草名」部に、

(フキ)(フキ)} 。〔元亀二年本381三〕

(フキ)〔静嘉堂本459七〕

とあって、標記語「」の語を収載する。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)煮黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「」と表記し、訓みは山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本に「フキ」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、

フヽキ 。〔黒川本・植物門中101ウ二〕

フウキ 莖菜蕗伏〔卷第七・植物門42三〕

とあって、標記語「」の語を収載し、訓みを「ふふき」「ふうき」と記載する。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))には、

款冬(クワンドウ/フキ) 枳莖(キキヤウ/フキ)菜(サイ)ナリ也。本草ニ云ク款冬十二月有リ花。其ノ色黄(キ)或ハ紫(ムラサキ)。其味イ苦(ニカシ)也。三躰詩([サン]テイシ)ニ云ク僧房([ソウ]バウ)ニ逢著(ブチヤク)ス款冬花([クワンドウ]クワ)。出テテ寺ヲ吟行スレハ日已(ステ)ニ斜ナリ。十二街中(カイ[チユウ])春雪遍(アマネシ)馬蹄([バ]テイ)。今ニ去テ入ラン誰(タレ)カ家ニカ。按(アン)スルニ此詩ヲ十二月之花至ル暮春雪時分ニ也。然ルニ我カ朝ノ朗詠集ニ清愼公詩ニ云ク款冬誤(アヤマツ)テ綻(ホコロフ)暮春風ニ。何ンソヤ哉所詮([シヨ]セン)日本之俗皆以テ山吹(―フキ)ヲ謂フ款冬ト。山吹ハ即チ鴿(ドビ)ナリ也。其色ロ黄(キ)ニシテ而如シ緑酒(リヨク[シユ])也。清愼公之作モ亦タ誤テカ鴿ヲ謂フ款冬ト也。其意ニ云ク此レ花名也。若(モシ)是レ款冬ナラハ何(ナン)ソ綻(ホコロビン)暮春風ニヤ乎。咎(トカメ)テ款冬而云フ尓(シカ)ノミ耳。詩意ロ雖トモ工(タクミ)ニ用ユト故事(コジ)誤リ矣。可シ辨(ベン)ス。〔草木門123六〕

とあって標記語「」の語は未収載にする。次に広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)に、

(フキ)[○] 。〔草木門619六〕

款冬(フキノタウ/クワントウ・タヽク、フユ)[○○] 倭俗――二字山吹(フキ)。大誤也。〔草木門619六〕

とあって、標記語「」の語を収載する。また『下學集』の「款冬」の語をここでは「フキノタウ」と訓んでいる。印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』には、

款冬(フキノタウ/クワンドウ) 倭俗云山吹。(フキ) 。〔・草木門179四〕

(フキ) 。〔・草木門147二〕 款冬(フキノタウ/クワンドウ) 倭俗云山吹。《以下省略》。〔・草木門147二〕

(フキ) 。〔・草木門137一〕 款冬 倭俗云山吹。《以下省略》。〔・草木門137三〕

とあって、標記語「」の語を収載する。また、易林本節用集』に、

莖菜(フキ)() 。〔草木門149四〕                      

とあって、標記語「莖菜」「」の二語を以て収載する。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「」の語を以て収載し、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布K煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)K煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

煮染(にしめ)牛房(ごぼう)昆布(こんぶ)烏頭布(うどめ)(かちめ)荒布(あらめ)黒煮(くろに)(ふき)煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 和名集にハふゝきと訓す。ふきといふハ畧語(りやくご)なり。〔90オ四〜六〕

とあって、この標記語「」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布K煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等▲蕗ハ和名(わミやう)フヽキといふ。〔66ウ二、66ウ八〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)▲蕗ハ和名(わミやう)フヽキといふ。〔11ウ二、120オ五〕

とあって、標記語「」の語をもって収載し、その語注記は「蕗は、和名(わミやう)フヽキといふ」と記載する。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、

Fuqi.フキ() 大きな葉をもった草の一種で,食用になるもの.〔邦訳279l〕

とあって、標記語「」の語の意味は「大きな葉をもった草の一種で,食用になるもの」と記載する。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、

ふき-〔名〕【】〔ふふきの約〕(一)古くは、ふふき。菊科の多年草本の名。山野に自生すれども、又畠に植ゑて蔬菜とす。冬春の交、宿根より、先づ花莖を生ず、初生は、大きさ大指の如く、薄青し、蕗の薹(たう)、と云ひ、(款冬花)食用として賞す、苦味あり。春、高さ四五寸、梢に黄白花を開く。別に莖を出すこと一二尺、葉の初生は、ところ(野老)に似て、叉劣なく、大なるは牛蒡の葉に似て圓し。莖、青白に紫を帶ぶ、若莖の皮を剥ぎて煮て食ふ、亦、苦味あり。款冬氏冬爾雅、釋草編「菟、顆凍」注「款凍也」(款冬ナリ)倭名抄、十七10園菜類「蕗、崔禹錫食經云、蕗、音路、和名布布木、葉似葵而圓廣、其莖煮可之」字鏡60「蕗、不不支、同」名義抄「蕗、フキ」和玉篇、フキ」林逸節用集、六、生植門「蕗、フキ、款冬、フキノタウ」書言字考節用集、六、生植門「款冬、フキ、菟、ヅキ、蕗、フキ」(二)ふきぐみ(蕗組)の略。〔1727-1〕

とあって、標記語「ふき-〔名〕【】」の語を収載する。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「ふき-【款冬水斗】〔名〕キク科の多年草。本州・四国・九州の山野に生え、食用にするため栽培されることも多く、ミズブキ、アイチブキ、アカブキ、などが知られる。高さ三〇〜七〇センチb。細い地下茎で繁殖する。茎は短く地上に出ない。葉は長柄をもち根生し灰白色の綿毛を密布する。葉身は幅一五〜三〇センチbの円状腎臓形で縁に不規則な鋸歯(きょし)がある。雌雄異株。春、葉に先だって大形の葉に包まれた花茎を生じ、細かい管状花から成る球状の頭花をつける。花茎は「蕗の薹(とう)」と呼ばれ葉柄とともに食用にされる。漢名は蜂斗葉で、蕗、款冬を用いることもあるが誤用。ふふき。学名はPetasites 《季・夏》」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
2005年4月1日(金)晴れ。イタリア(ローマ)→日本〔東京・成田〕
黒煮(くろに)
 室町時代の古辞書である『運歩色葉集』(1548年)の「久」部に、標記語「黒煮」の語は未収載にする。
 古写本『庭訓徃來』十月日の状に、

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔至徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏[頭]布荒布黒煮蕗蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣薗豆芹薺差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔雁煎等隨躰可引之〔宝徳三年本〕

菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布烏頭布荒布黒煮蕪酢漬茗荷薦子蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆荼苣園豆芹薺差酢和布青苔神馬草曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等隨躰可引之〔建部傳内本〕

者繊蘿蔔(せンロフ)蒟蒻(コンニヤク)煮染(ニシメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スヽケ)茗荷(メウガ)(コモノ)子蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜胡瓜(キウリ)甘漬(アマヅケ)納豆煎豆(イリマメ)(ヲホヂ)(チシヤ)園豆(エン  )(せリ)(ナヅナ)差酢(サシ )若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)海雲(モツク)曳干(ヒキ  )甘苔(アマノリ)塩苔酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)滑茸(ナメスヽキ)平茸雁煎等隨躰可〔山田俊雄藏本〕

(サイ)()繊蘿蔔(サンロフ)煮染(ニジメ)牛房昆布(コフ)烏頭布(ウトメ)荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテモノ)茄子酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆荼(ヲヽトチ)(チシヤ)薗豆(エントウ)(セリ)(ナツナ)差酢(サシス)若布(ワカメ)青苔(  ノリ)神馬藻(   サウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(  ノリ)塩苔(  ノリ)酒煎(  イリ)松茸(  ダケ)平茸(ヒラ  )雁煎(  イリ)鴨煎等隨躰可(ヒク)〔経覺筆本〕

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニシメ)牛房(コハウ)昆布(コ )(クロ)カチ()荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウカ)薦子(コモノコ)蒸物(ムシ  )茹物(ユテ  )茄子(ナスヒ)酢菜(スサイ)胡瓜(キウリ)甘漬(アマツケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)(ヲヽトチ)(チシヤ)園豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(シムハサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(  タケ)平茸(ヒラタケ)()雁煎(カンイリ)等隨躰可〔文明四年本〕

と見え、至徳三年本・宝徳三年本・建部傳内本・山田俊雄藏本・経覺筆本・文明四年本は、「黒煮」と表記し、訓みは、経覺筆本・文明四年本に「くろに」と記載する。

 古辞書では、鎌倉時代の三卷本色葉字類抄』(1177-81年)と十巻本伊呂波字類抄』には、標記語「黒煮」の語は、未収載にする。
 室町時代の古写本『下學集』(1444年成立・元和本(1617年))・広本節用集』(1476(文明六)年頃成立)・印度本系統の弘治二年本永祿二年本尭空本両足院本節用集』・易林本節用集』には、標記語「黒煮」の語は未収載にする。

 このように、上記当代の古辞書においては、標記語「黒煮」の語は未収載にあって、これを、古写本『庭訓徃來』及び、下記真字本が収載しているのである。

 さて、真字本『庭訓往来註』十月三日の状には、

692昆布荒布黒煮烏頭布(カチメ)(フキ)(アサミ)(カフラ)酢漬(スツケ)ノ茗荷(ミヤウカ) 茗非也。求名菩薩ヨリ始也。故求名鈍而書我名也。死シテ々何也。即号鈍根草也。是即求名菩薩釈迦如来時之弥勒佛是也。〔謙堂文庫蔵五八左G〕

とあって、標記語「黒煮」の語を収載し、語注記は未記載にする。

 古版庭訓徃来註』では、

(サイ)()繊蘿蔔(せンロフ)煮染(ニゾメ)牛房(ゴバウ)昆布(コブ)烏頭布(ウドメ)荒布(アラメ)黒煮(クロニ)(フキ)(アサミ)(カブラ)酢漬(スツケ)茗荷(ミヤウガ)(コモ)子蒸物(ムシモノ)(ユテ)物茄子(ナスビ)酢菜(スサイ)胡瓜(キフリ)甘漬(アマヅケ)納豆(ナツトウ)煎豆(イリマメ)荼苣(オホトチヰ)薗豆(エントウ)(せリ)(ナヅナ)差酢(サシス)和布(ワカメ)青苔(アヲノリ)神馬藻(ジンバサウ)曳干(ヒキホシ)甘苔(アマノリ)塩苔(シホノリ)酒煎(サカイリ)松茸(マツタケ)平茸(ヒラタケ)雁煎(ガンイリ)等隨之時已()汁菜(シルサイ)(イツ)レモ雪林菜(せツリンサイ)(ユキ)アヘトテ有(アン)也。食事(シヨクジ)ハ皆人ノ御存(ゴゾンシ)也。〔下35ウ四〜36オ一〕

とあって、標記語「黒煮の語を収載する。時代は降って、江戸時代の庭訓徃來捷注』(寛政十二年版)に、

煮染(にしめ)牛房(ごぼう)昆布(こんぶ)烏頭布(うどめ)(かちめ)荒布(あらめ)黒煮(くろに)(ふき)煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布黒煮 和名集にハふゝきと訓す。ふきといふハ畧語(りやくご)なり。〔90オ四〜六〕

とあって、この標記語「黒煮」の語を収載し、語注記は、上記の如く記載する。これを頭書訓読庭訓徃來精注鈔』『庭訓徃來講釈』には、

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめ)牛房(ごほう)昆布(こんふ)(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろに)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけ)茗荷(めうが)(こも)乃子()蒸物(むしもの)茹物(うで  )ハ茄子(なすび)酢菜(すさい)胡瓜(きうり)乃甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばそう)乃曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)鹽苔(しほのり)酒煎(さかいり)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(てい)に隨(したがつ)て之(これ)を引()く可()菜者繊蘿蔔煮染牛房昆布搗布烏頭布荒布黒煮 酢漬茗荷蒸物茹物茄子酢菜胡瓜甘漬納豆煎豆園豆差酢和布青苔神馬藻曳干甘苔塩苔酒煎松茸平茸雁煎等。〔66ウ一・二〕

(さい)()繊蘿蔔(せんらふ)煮染(にしめの)牛房(ごばう)昆布(こんぶ)搗布(かちめ)烏頭布(うどめ)荒布(あらめ)K煮(くろにの)(ふき)(あざミ)(ところ)(かぶら)酢漬(すづけの)茗荷(ミやうが)(こもの)(この)蒸物(むしもの)茹物(うでものハ)茄子(なすびの)酢菜(すさい)胡瓜(きうりの)甘漬(あまづけ)納豆(なつとう)煎豆(いりまめ)(おほとぢ)(ちさ)園豆(ゑんとう)(せり)(なづな)差酢(さしす)和布(わかめ)青苔(あをのり)神馬藻(じんばざうの)曳干(ひきぼし)甘苔(あまのり)塩苔(しほのり)酒煎(さかいりの)松茸(まつたけ)平茸(ひらたけの)雁煎(がんいり)(とう)(したかつて)(ていに)(べし)(ひく)(これを)〔119ウ二〕

とあって、標記語「黒煮」の語をもって収載し、その語注記は未記載にする。
 当代の『日葡辞書』(1603-04年成立)に、標記語「黒煮」の語は未収載にする。明治から大正・昭和時代の大槻文彦編『大言海』には、標記語「くろ-〔名〕【黒煮】」の語は未収載にする。これを現代の『日本国語大辞典』第二版に、標記語「くろ-黒煮】〔名〕@鮑(あわび)を海藻の搗布(かじめ)と一緒に薄味の味噌で煮たもの。搗布の色からいう。大草殿より相伝之聞書(16C中か)「一、くろにの事。まづくろ物の内にかぢめを敷て、其上にあふびを入て、又其上にかぢめふたにして、すみそめにていかにもよく煮候ふ。かぢめなき時はをこひじきにてもあれ、かぢめの名代に入るる也」A蛸(たこ)醤油・酢などで似た料理。料理物語(1643)一二「たこのするが煮 たこをよくあらひ、そのままだしたまりにすをくはへ、いぼのぬくるまでよくに申候。くろにとも云也」」とあって、『庭訓徃來』のこの語用例は未記載にする。
[ことばの実際]
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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