2001.10.10

「名文」と「明文」

 「明文」は、毎日書き継がれる“新聞”の記事が、そのお手本ともいえます。熟達した記者にとって、原稿の締め切り、文意の新鮮さ、そして、限られた文字数というハードルをすべてクリアしていく。常に緊迫感に満ちた書き手の新鮮な真摯な姿勢がそこにはあり、その内容はまさに大衆社会の人々に読まれることもあってか、多くの読者を想定した一番の「明文」のお手本といえましょう。これに対し、鋭敏な感性の世界にあり、これを紡ぐかのように構想着想し、研ぎ澄まされた端麗流暢な文体を駆使し、練り上げたその筆を粮とする作家の書くものの世界は、まさに「名文」と名のつくものといえましょう。

†「名文」の特徴とは

    1. 文の長さ
    2. ことばの使い方
    3. 豊富な語彙
    4. 書き手の個性
    5. リズミカルな表現
    6. 格調の高さと品位さ
    7. 誰にも分かる楽しみ
    8. 読みやすい
    9. 内容の充実度

名文

明文

明文素稿

1、 文の長さ

長い

長くはない

短い

2、 ことばの使い方

難しい

難しくない

易しい

3、 豊富な語彙

多い

多くはない

少ない

4、 書き手の個性

ある

多少ある

ない

5、 リズミカルな表現

ある

多少ある

ない

6、 格調の高さと品位さ

高い

高くはない

低い

7、 誰にも分かる楽しみ

疑問

判りやすい

判りやすい

8、 読みやすい

疑問

読みやすい

稍読み難い

9、 内容の充実度

優る

疑問

疑問

 

†「名文」の魅力

「名文」の最大の魅力は、何かと問われたとき、それは「読み終えた時の心底から湧き出づる心の安らぎ、満足感」でありましょうか……。その書き手という担い手が放つ、「ことばの使い方」「リズミカルな表現」とこの文章は、密接な関係を持っています。たとえ、「難解で読みきったと言えない作品」であっても、「読み終えた後の心の安らぎ感はあなたにはありませんか……」。地下を悠久な時をへて、伏流水が湧き上がるかのように長い道のりを経て勢いよく湧きだすような「名文」もあります。ところで、

1、「名文」といわれる文章の「一文」の長さ〔文字数はどの程度〕?

2、「名文」を探しだす旅にあなた自身も出よう!

例文:その1

 僕は腕を組んで話しのつづきを待った。

「九月になって、僕は学校の図書館でばったり彼女と出会いました。《中略》「久しぶりね」と彼女は言いました。『みんな心配していたのよ、ずっとあなたが姿を見せないから』。それで僕は『ちょっと病気してたんだ。でももう大丈夫』と言いました。《中略》それ以来彼女とほとんど顔をあわせませんでした」

 彼は新しい煙草に火をつけ、美味しそうに煙を吐いた。〔村上春樹野球場』〕

例文:その2

 この一年、本をよく読んだ。「殺された者の親族に、殺人者を殺す権利が与えられる」というイスラム教の教えがあったが、自分は、新聞記者だから「殺す権利」を「捜す権利」に置き換えることにする。人間として、記者として、事件の取材班に加わり、犯人を見きわめたい。しかし、いまは、一年間の空白で、体力が、記者としての能力が、あるいは精神力が弱っている。仕事の上でもリハビリが必要なのだ。努力して立ち直る。そのためには、全く白紙の、新しい土地で試練を受けるのが妥当だと考えている。悩んだあげくの結論だ。〔朝日新聞一九八八年五月三日付「朝日新聞阪神支局襲撃事件被害者犬飼兵衛記者『小尻、一緒に行こう』」より〕

 

みなさん! それぞれが「名文」&「明文」と思われる文章を捜して、下記に記述してみてください。