ER3209 原 啓之 2004年7月20日作成
西垣通『IT革命』岩波新書、2001年
第1章 IT革命とは何か
産業革命後の工業社会において、物質は広く一般に行き渡ったが、情報は基本的にメインフレームを独占した大組織などの中枢にいる一部の人々に握られていた。そのために我々一般市民が受け取れる情報は少なく、自由に情報を編集したり広く社会に向けて発信することは難しかった。
一般人が情報を得るルートは、第一に私的な生活空間で直接かわす対話などの「一対一」のコミュニケーションと、第二に公的な生活空間で見うける文書などによる「一対多」のコミュニケーション(これはピラミッド型の階層組織の頂点から末端に向けて流れるもの)と、「想像の共同体」である近代国家の成立を可能とした、マスメディアを通す「一対多」であるにもかかわらず「一対一」のコミュニケーションのごとく作用する、二重性をもつ第三のルートである。現代では第一、第二に比較して第三のルートが圧倒的な影響力を持っている。
現代でもっとも太い情報ルートである、第三ルートのマスメディアの支配を根本的に変容させ、その体制を崩壊させるものが「メディア・ビックバン」である。これは「放送と通信とが融合すること」即ち、情報の中身はともかくとして、物理的に三つのルートを「統合」することである。そのためには、一般人にできなかったこと「誰でも情報の発信・伝達設備を持てる」ことが大前提となり、そしてそれを実現するのがマイクロプロセッサーとインターネットという技術であり、その変容がIT革命である。
メインフレームからマイクロプロセッサーへ、即ち、大型コンピュータによる集中処理から小型コンピュータによる分散処理への変革により、大衆のなかの個々人に「権力=情報処理能力」が与えられ、「公=生産者側」のみ情報化されていた情報社会から、「公私」にわたる情報化、特に「私=消費者側」が情報化されるネット社会へと移ることになった。
この変革により、今まで受動的に受け取ってきたものから、ITを活用することにより能動的に情報、物質を受け取れるようになる。IT革命とは、生産者側の効率向上よりむしろ消費者側の生活革命で、インターネットによる取引コスト削減といったような経済的次元にとどまらないものであり、マスメディアにかわる情報発信装置が一般の人々の間に生まれることである。そして我々、生命にとって意味するもの、価値あるものである物質と情報両者の、不可分的側面を分けて一般人の生活や価値観を変えていく、少なくとも二十一世紀前半の三十〜五十年にわたるであろう長期的な文明史的事件である。
意見、感想
l IT革命とはブロードバンドの発達などにより、ネット取引とかでビジネスや情報のやり取りをするもので、既にほぼ終わったものと思っていたので、西垣氏の言うIT革命について読み、違っていたのだなと思いました。
l 情報が氾濫しているといわれる現在、産業革命後の受動的な情報受け取り、発信しかできなかった頃は考えられないなと思います。