駒澤大学 シラバス照会

 履修コード/科目名称  217901 / 法学・憲法
 開講年度・期  2020年 通年  開講曜日・時限  水曜日 4時限
 単位数  4
 付記  ◎予・〔法と権利〕
 主担当教員氏名(カナ)  河嶋 春菜(カワシマ ハルナ)
 副担当教員氏名(カナ)  
 授業概要 日本国憲法の下で、裁判所は、個人と個人との紛争である民事事件、罪を犯した者の罪責を争う刑事事件、国及び公共団体の違法な行為に対して個人が提訴する行政事件を取り扱う。さらに、裁判所は、民事・刑事・行政事件の中で憲法違反の問題が提起される憲法事件をも扱う。本講義では、これらの事件が、現代社会においていかなる場面で問題となり、裁判の場でどのように解決されるのかを、判例を題材にしながら理解する。これを通じて、それぞれの事件でいかなる憲法問題が提起され、解決が図られているのかを検討する。
なおシラバスの予定に関わらず、履修生の理解等に合わせて柔軟に授業予定を変更する可能性がある。
 到達目標(ねらい) 憲法に照らし、人権保障や適正な統治機構のあり方を理解し、そのために裁判が果たしてきた役割を理解する。それを法律用語をつかって説明できるようになる。
 授業スケジュール
第 1 回
授業の計画・内容 オリエンテーション
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所を読み、疑問点をメモしておく 60分
第 2 回
授業の計画・内容 どのような法規範があるか。憲法、法律などの法形式と、いかなる主体間の関係を定めるルールが存在するかを学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所を通読する。該当箇所は前回の授業で指定する。 60分
第 3 回
授業の計画・内容 裁判とは何か(1)。そもそも裁判・訴訟とは何か、政治上の紛争とは何が違うのかを理解する。そのうえで、日本国憲法の下での裁判のあり方に関するルールを学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所を通読する。該当箇所は前回の授業で指定する。 60分
第 4 回
授業の計画・内容 裁判とは何か(2)。日本国憲法における裁判組織と裁判制度を理解し、民事・刑事・行政・憲法事件の内容と意義を学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 5 回
授業の計画・内容 民事事件:プライバシー侵害とは何か(1)
憲法上のプライバシー権について学んだうえで、それが民事上も保護される利益であることの意義を学ぶ。具体的には、わが国の裁判例において初めて「プライバシー」という言葉が用いられた「宴のあと事件」を題材に、表現者による特定個人のプライバシー侵害はどのようにして起こるかを理解し、現代社会におけるプライバシーの重要性を認識する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 6 回
授業の計画・内容 民事事件:プライバシーとは何か(2)
インターネット上では様々な情報が溢れ、特定の人の名前を入れれば多くの検索結果が提示される。逮捕履歴が検索結果として出る人物がグーグルに検索結果の削除を求め、最高裁が検索結果の削除を認めなかった事例(最判平成29年2月1日)を題材に、検索結果を削除要求する権利の意義を理解し、それが認められるべきかを考察し、現代的なプライバシー侵害の救済の方法について検討する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 7 回
授業の計画・内容 民事事件における憲法問題(1)
憲法の人権規定は国家が順守すべきものであるため、個人と個人との紛争である民事事件において憲法が問題となることは少ない。強い個人(会社)と弱い個人(労働者)との間で争われた「三菱樹脂事件」を題材に、私人間における憲法の意義を学び、この事件での解決方法を理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 8 回
授業の計画・内容 民事事件における憲法問題(2)
治療を拒否することは、憲法上、自己決定権として説明されることがあるが、これが憲法上の権利として確立しているかどうかについては、議論がある。一方、民事上は、患者の権利として保護される。このように、ある法益が憲法上の権利としては保護されない場合にも、民事上は保護される場合がある。「エホバの証人輸血拒否事件」を題材に、裁判所による民事上の権利保護の意義を学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 9 回
授業の計画・内容 民事事件における憲法問題(3)
婚姻関係にある親から生まれた子(嫡出子)と、婚姻していない親から生まれた子(非嫡出子)との間で、父親の死に伴い生じる相続額に差異を設ける民法の規定は、憲法の定める平等に反するといえるだろうか。この規定は、「非嫡出子相続分事件」において、裁判所により違憲と判断されたことがきっかけとなって改正された。本判決を題材に、憲法における平等の考え方と、民法規定が平等違反とされた論理を理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 10 回
授業の計画・内容 民事事件まとめ
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
第 11 回
授業の計画・内容 刑事事件(1)
わが国には、安楽死を適法に行うことのできる条件を定めた法律はない。したがって、終末期にある患者が「安楽死」を望んでも、医師が自殺幇助・同意殺人によって刑事罰を科せられる覚悟をもってしか、医師は安楽死行為を行いえない。医師の安楽死行為が正当化される要件を示した「東海大学事件」や、治療の中止が問題になった「川崎協同病院事件」を題材に、自殺幇助・同意殺人と医師の安楽死行為とはどのように異なるかを考察する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 12 回
授業の計画・内容 刑事事件(2)
犯罪のほとんどは「何かをすること」(作為)によって成立するが、「何もしないこと」(不作為)によって犯罪が成立することもある。覚せい剤によって錯乱状態に陥った女性に対して、直ちに被告人が救急医療をしていれば救命が可能であったにもかかわらずそれをしなかったことが保護責任者遺棄致死罪になるとした判例(最判平成元年12月15日)を題材に、作為犯と不作為犯の違いを学び、判例の解決方法を理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 13 回
授業の計画・内容 刑事事件における憲法問題(1)
公務員が自己に関連する職務に関して金銭を授受した場合、受託収賄罪が成立する。内閣総理大臣がR社から航空機購入に関して金銭を授受したことが受託収賄にあたるとした「ロッキード事件」を題材に、受託収賄がどのように成立するかを学ぶとともに、内閣総理大臣の法的地位とこの事件におけるその「自己に関連する職務」とは何であったかを理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 14 回
授業の計画・内容 刑事事件における憲法問題(2)
刑事事件において被告人は、違憲無効の法律によって処罰されないように、自己に適用される法律の憲法違反を主張することがある。被告人に適用される法律の規定が違憲とされた「尊属殺重罰規定事件」を題材に、刑事事件における防御手段としての憲法の意義を学び、この事件での解決方法を理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 15 回
授業の計画・内容 刑事事件まとめ
前期まとめ
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
第 16 回
授業の計画・内容 前期復習
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
第 17 回
授業の計画・内容 行政事件(1)
現在の日本には多くの外国人がいるが、外国人の出入国管理は行政によって行われている。外国人の在留更新は行政の裁量に委ねられ、憲法上の権利を行使したことを消極的な事情として斟酌してもよいとした「マクリーン事件」を題材に、行政裁量とは何かを学んだ上で、在留更新は行政の自由な裁量に委ねられるべきかどうかを検討する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 18 回
授業の計画・内容 行政事件(2)
大学では単位認定行為・卒業認定行為が行われている。国立大学での単位認定行為は裁判所の審査対象とはならないとした「富山大学事件」を題材に、大学という「特殊な部分社会」の性質を理解し、判例の「部分社会論」を学んだ上で、単位認定行為がいかなる場合にも裁判所の審査対象とはならないのか、卒業認定行為の場合と比較しながら考察する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 19 回
授業の計画・内容 行政事件(3)
かつては、公務員は国・公共団体と特別な関係にあるために、国・公共団体に対し、権利を主張することができないという考え方があった。しかし、現在ではそのような考え方はとられていない。公立学校の教師が、職務命令によって国歌の起立斉唱を義務付けられた事件をはじめ、公務員の人権が問題になった事例を題材に、国・公共団体と公務員との関係について考える。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 20 回
授業の計画・内容 行政事件(4)
国民は、行政が行ったこと(作為)だけでなく、行政が何もしないこと(不作為)によって権利利益が侵害されたり、増大したりする場合がある。薬害や公害が発生しているにも関わらず、行政が適切な対応を行わなかったために被害が増大したケースにおいて、裁判所はどのような条件で行政側の違法を認め、被害者を救済しただろうか。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 21 回
授業の計画・内容 行政事件における憲法問題(1)
多くの憲法事件は行政事件である。行政の違法性を主張する際に憲法違反を
主張できるからである。「在外邦人選挙権制限事件」を題材に、どのような憲法違反が主張され、裁判所はどのような判断をしたかを学ぶことを通じ、行政事件における憲法違反主張の多様性を理解し、行政事件における攻撃手段としての憲法の意義を学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 22 回
授業の計画・内容 行政事件における憲法問題(2)
民主主義を掲げる憲法の下では、国民が国政について考え、国政に参加するために、行政情報を取得できることが重要である。これを憲法上の権利として構成すべく、表現の自由から知る権利が導かれてきた。そして、とくに行政情報を知る権利を具体化するために、行政情報公開制度が整備されている。本制度に関する判例を題材に、民主主義と知る権利の意義と関係、および本制度における具体的な知る権利の保障とプライバシーとの衝突について理解する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 23 回
授業の計画・内容 行政事件における憲法問題(3)
裁判所が取り扱うことができるのは、原則として、「誰かの権利利益」が侵害された場合であり、典型的には、行政によって国民の権利が侵害された場合である。一方、憲法は、国民の権利だけではなく、権利に対応する一定の制度を定めている(「制度的保障」)。では、行政が制度的保障を侵す場合には、国民は裁判所に訴えて、解決を求めることはできるのだろうか。制度的保障違反の場合に用いることができる裁判の手段として、行政訴訟の一類型である「住民訴訟」がある。制度的保障として「政教分離」を取り上げ、住民訴訟の意義と限界を学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 24 回
授業の計画・内容 行政訴訟における憲法問題(4)
憲法は、国家賠償請求と損失補償という二つの制度を設けて、行政行為によって国民に生じた被害を、金銭で埋め合わせることを予定している。例えば、行政が行う予防接種によって国民に健康被害が生じたとき、この国民(=被害者)は裁判所に訴えて、行政側にお金で被害を埋め合わせさせたいと思うだろう。しかし、予防接種健康被害の補償については、国家賠償制度の枠組みにも、損失補償の枠組みにも当てはまらないという問題が生じた。このケースを題材に、国家賠償と損失補償の内容と限界を理解した上で、裁判所が予防接種による健康被害者をどのように救済したかを学ぶ。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 25 回
授業の計画・内容 行政事件まとめ
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
第 26 回
授業の計画・内容 民事事件と刑事事件の交錯(1)
特定の法益は、民事上でも刑事上でも保護される。典型例は名誉である。名誉毀損行為は、民事上では不法行為となり、刑事上では名誉毀損罪となる。名誉毀損に関する「民事事件」の諸判例と「刑事事件」の諸判例を題材に、名誉が民事と刑事事件においてどのように保護されているかを理解し、敷衍して特定の法益の民事上の保護と刑事上の保護の異同を考察する。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 27 回
授業の計画・内容 民事事件と刑事事件の交錯(2)
前回のつづき。名誉を毀損された者に対する、裁判による民事上の救済と刑事上の救済との違いも考える
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 28 回
授業の計画・内容 行政事件と刑事事件の交錯
法定の税金を払っていなかった場合、行政上の責任として追加の課税(追徴税)が課されるとともに、場合によっては、刑事上の責任として罰金刑に処される可能性がある。このように同一の行為について、刑事罰を科されることに加え、それ以外の不利益を課されることを、併科という。一方、憲法は、刑罰を重ねて科すことを禁止している。本ケースのような併科は憲法違反になるだろうか。判例を題材に、刑事上の責任と行政上の責任との異同について考える。
準備学習
(予習・復習等)
教科書の該当箇所および判決を読み、疑問点をメモしておく。 60分
第 29 回
授業の計画・内容 民事事件、刑事事件、行政事件および憲法事件の交錯まとめ
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
第 30 回
授業の計画・内容 授業のまとめ
準備学習
(予習・復習等)
これまでの復習 60分
 履修上の留意点等 ときどき小テストを行い、成績評価で加味します。
 成績評価の方法
70 % 試験
レポート
小テスト
30 % 平常点





 教科書/テキスト
書籍名 憲法概説
著者名 松浦一夫=奥村公輔 出版年 2017 価格 3,000円
出版社 成文堂 ISBN 978-4-7923-0620-5
備考
 参考書
 図書館蔵書検索 図書館蔵書検索
齋藤一久=堀口悟郎『図録 日本国憲法』(弘文堂、2018年)
 学生による授業アンケート結果等による授業内容・方法の改善について アンケート結果を加味して、適宜授業の改善を図ります。
 関連リンク
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 アクティブラーニング型の授業科目