小嶺 孝之

『スチューデント・アパシーについて』

key word: スチューデント・アパシー 意欲減退 社会情勢


【問題】


 アパシーの意味は時代や研究者によって多少異なるが、今日では無気力な若者の事をアパシーと呼ぶのが一般化している。現在のわが国においてはその症例が次々と報告されており、これを日本の学生に特有の現象と指摘する人もいる。今回の研究ではアパシー症例のひとつである社会生活拒否型(モラトリアム型)アパシーに注目する。近年、社会人になる自信が無く、社会に対する恐怖や不安を抱えているうちにずるずるとアパシーになって行く例が急増している。このような状況において一般学生の意欲減退や無気力の実態を明らかにすることは意義があると考えられる。そこで今回の研究では1974年に行われた調査データと比較し、この25年間大学生の意欲減退の質と内容がどのように変化しているかを検討した。


【方法】


 調査対象: 大学生82名(男34名 女48名)

 調査期間: 1999年の10月〜11月

 装置および材料: 意欲減退度を測定するため、上地(1974)らの「意欲減退度診断調査」と、意欲減退の変化の内容を調査するため独自に製作した「質問紙U」を実施した。各質問事項に対する回答は「はい」を2点、「どちらでもない」を1点、「いいえ」を0点と採点した。なお得点が低いほど意欲減退があるとみなされる。


【結果と考察】


 表1は意欲減退度得点の平均値を主体的要因、大学環境要因、社会環境要因に分け男女別に示したものである。

 主体的要因においても、社会環境要因においても平均得点は1点を超えており意欲減退が顕著であるとは考えにくい。しかし社会環境要因においては特に女子において得点が低かった。表2は過去の結果と比較したものである。

 表2からは大きな差は見られなかった。しかし「質問紙マークU」ともあわせ、項目別に見て行くと社会への無関心や不信感がうかがえ、25年前よりもアパシーを生み出しやすい社会環境にある事が明らかになった。スチューデント・アパシーの問題は日本社会が抱える問題をとてもよく反映しているといえる。


【参考文献】


稲村 博  1989 若者・アパシーの時代〜急増する無気力とその背景  NHKブックス

上地 安昭  1974 大学生の意欲減退の実態  厚生補導

下山 晴彦  1997 スチューデント・アパシーに関する臨床心理学的研究  博士論文(東京大学)