村島 研二

『社会的ジレンマにおける解決行動』

−戦略と社会的動機との関連性−

key word: ジレンマ・ゲーム 協力・非協力の選択 社会的動機 


【問題】


 「社会的ジレンマ」とは、「囚人のジレンマ」(PD)に基づく概念である。PDとは『二者が互いに”協力”、”非協力”の選択を行う際、相手の選択に関わらず、「協力」よりは「非協力」の選択がより大きな利益をもたらすが、双方が「非協力」を選択すると、双方が「協力」を選択した場合に比べて得られる利益が少ない状況』を言う。このPD状況が3者以上の集団に拡張された状況を「社会的ジレンマ」と呼ぶ。

 本研究の目的は、社会的ジレンマにおかれた社会成員の戦略行動に社会条件から生じるであろう社会的動機がどのように作用するかを明らかにする事にある。


【方法】


 被験者:大学生40名(男子学生20名、女子学生20名)に特定の社会条件下でジレンマ・ゲームを行った。

 ジレンマ・ゲーム: 被験者を4人づつのグループに分け、被験者全員に30枚のメダルを配布する。そして、各被験者に同じグループの他の成員一人一人に対し2枚のメダルを寄付するかどうかを選択させる。選択の結果、相互寄付が成立した場合、それぞれに+1枚され両者は三枚のメダルを得る。片方が非協力で相互寄付が成立しなかった場合、寄付されたものに2枚のメダルが残る。互いに非協力だった場合には両者−1枚される。選択5回を1試行とする。

 社会条件: その1 社会的動機が存在しない場合

        その2 社会的動機が存在する場合

        @グループの成員が男女2名づつ A全員同性 B自分以外異性 C一人のみ異性

        D社会成員の情報(氏名、顔)が判明している

実験後に向社会的行動尺度と社会態度尺度に関する質問紙を実施した。


【結果と考察】


 全体の傾向として協力選択の回数は社会内の異性の数に比例し、非協力選択回数は反比例した。また、成員判明条件は他のどの条件よりも協力選択の回数が多く非協力選択の回数が少なかった。このことから、成員の顔が判明している方がより協力的な行動を取る傾向にあると言える。よって相互協力は社会における異性の割合が多いほど、そして社会成員に関する情報が多いほど、発生しやすいと言える。相互非協力は条件別には明確な傾向が見られなかったが、試行回数の少ない初めの試行や徹底戦略の被験者がいる試行に集中していた。また、一方的搾取は応報戦略が用いられた試行に多く見られた。

 社会的動機・戦略・選択傾向を総合して本研究の問題を考察すると、戦略と社会的動機とは密接に関わり合っていると言える。戦略行動(選択)は社会的動機によってしばしば変更され、社会的動機は時に戦略行動によって生じる。この相互関係は選択を行う個人の社会的特性に左右されると思われる。

 向社会的行動尺度に関する結果を見ると、男女を比較すると女子学生の方が高く、向社会的行動尺度の高い方が勝率が良いと言える。

 社会態度尺度に関する結果を見ると全体、男女ともに上から順に「合理的態度」「革新指向的態度」「娯楽指向的態度」「伝統指向的態度」「無気力的態度」となっており、下位の二つのみ勝率が1未満だった。


【参考文献】


 山岸俊男  「社会的ジレンマ研究の主要な理論的アプローチ」 心理学評論 1989 Vol32 262−294

 三井宏隆  「実験室場面における社会的ジレンマ研究について」

         実験心理学研究 1983 第23巻 第1号 53−59