佐坂 美紀

『青年期における生役割認知』

〜母−娘における性役割期待感について〜

key word: 青年期 性役割 養育態度 職経歴 


【問題】


 柏木(1967)は「性役割とは社会(文化)から性に応じて期待される一連のパーソナリティ特性、つまり性に対する社会的役割期待である」と定義づけており、幼少期から性役割モデルである両親との同一化や性別しつけにより期待されている役割特性を認知し、習得していく。その中でも青年期は周囲からの役割期待を認知し、なおかつ実行して行く事は発達課題の重要な1つである。本研究では@性役割における男女間の差異、A女子青年における職経歴選択との関連、B両親の養育態度やしつけの期待の相違、を検討した。


【方法】


 調査T: 性役割に関する調査

 駒澤大学および都内の大学に在籍する男子学生45名、女子学生59名、計104名。

 調査内容: M−H−Fscale (伊藤、1978)を用いた。これは4つの評価次元−個人・社会・男性・女性−について計30項目の形容語から重要だと思うものから順に6項目ずつ選択させる強制選択法をとった。(5段階評定)。

 調査U: 養育態度に関する調査

 上記女子学生とその父母で回収された有効調査数は娘59名、父親41名、母親45名で父母が離・死別および回収不能者を除く40組(娘とその両親)

 調査内容: 50項目からなる養育態度質問項目(伊藤・堀、1974)と「全くそう思う」から「全くそう思わない」までの5件法で行った。さらに娘の大学卒業後に期待する職経歴を含めた。娘には上記の養育態度質問項目、大学卒業後に希望する職経歴、児童期・青年期における両親のしつけの状況を尋ねる調査を行った。


【結果と考察】


 @男女間における性役割の認知について

 個人評価・社会評価においてMスケール値と同様Hスケール値が高く、Fスケール値は低かった。男性評価ではMスケール値、女性評価ではFスケール値が高いのは予想通りであった。4つの評価次元で各スケールと性差を要因とした2×3の分散分析を行ったところ、全てに5%水準にて有意差が見られた。(個人 F=21.3 社会 F=79.7 男性 F=22.2 女性 F=19.0)また評価次元ごとにおける尺度間のχ二乗検定をおこなったところ社会・男性評価のM−F間、女性評価のM−F間を除くスケールに有意差が見られた。男性が男性役割を肯定的に捉える一方、女性は女性役割を否定的に捉える傾向があり、かわりに中間的要素であるHスケールを重視しているようである。

 A職経歴としつけ態度との関連について

 大学卒業後に希望する職経歴は圧倒的に「職業型」が多く、従来の性役割型によって必ずしも分類されないことが分かった。両親の期待する職経歴とも有意差は見られなかった。しつけは「家事手伝い」「行儀作法」「女の子・しつけ」「言葉遣い」「女らしさ」の5つのめんで質問し、「女らしさ」を除く全てに有意差が見られた。やはり母親の方が父親よりはしつけに対する期待が大きいようである。

 B両親の養育態度および娘の養育態度志向

 50項目のうち因子分析を行うにあたり適当でない9項目を除外した41項目について主因子分析を行い5因子解を抽出し、それぞれ「経済的自立を含む社会参加」「伝統的役割分業」「家父長型」「家庭第一主義」「結婚至上主義」と命名した。バリマクス回転後の各項目の因子負荷量については表1に表す。因子ごとの分散分析をおこなったところ「経済的自立を含む社会参加」(F=4.65)、「伝統的役割分業」(F=8.74)、「家父長型」(F=5.13)にて有意差が見られた。「経済的自立を含む社会参加」では娘のほうがより肯定的に捉えており、「伝統的役割分業」「家父長型」においては父親の方が肯定的に捉えていると言える。しかし女性の社会進出や経済的自立の促進化が進んでいるとはいえ、いまだ性役割という根強い規定は男女共通に持たれていることが分かった。


【参考文献】


 伊藤 裕子  1980 「女子青年の性役割観と父母の養育態度−大学の職経歴選択を中心に−」

          教育心理学研究 28巻 1号 67−71

 伊藤裕子 秋津慶子  1983 「青年期における性役割観および性役割認知」

          教育心理学研究 15巻 4号 193−202

 柏木 恵子  1974 「青年期における性役割認知(V)−女子学生青年を中心として−」

          教育心理学研究 22巻 4号 205−215