数学特論7

単体的複体の埋め込み

講義概要:
この授業では、トポロジーの一分野である「単体的複体とその埋め込み理論」を扱います。具体的には、単体的複体の基礎的な定義から始まり、埋め込み可能性の判定、ホモロジー理論の応用、クラトフスキーの定理や臨界的複体の構造について学びます。また、3次元球面やユークリッド空間への埋め込みの幾何学的性質や制約を議論し、埋め込み理論の現代的な研究課題に触れることで、理論と応用の両面から理解を深めます。最終的に、埋め込み理論のトピックを統合的に理解し、関連する数学的な議論を行えるようになることを目指します。
授業の到達目標:
1. 単体的複体と埋め込みの基本的な定義と性質を理解する
・単体、複体、重心細分、埋め込みなどの基本概念を正確に説明できる。
・ジョルダン曲線定理やクラトフスキーの定理を理解し、それらを適用できる。
2. 単体的複体の埋め込み可能性の理論を習得する
・単体的複体が特定の空間に埋め込める条件を判定するための基本的な手法を習得する。
・ユークリッド空間への埋め込み可能性やその制約について議論できる。
3. 埋め込みとホモロジー理論の関係を理解する
・単体的複体のホモロジー群の計算が埋め込み可能性や幾何学的構造の理解にどのように役立つかを説明できる。
4. 臨界的複体や多重分岐曲面の性質を分析できる
・臨界的な複体や正則多重分岐曲面に関連する現代的な研究課題について議論できる。
・これらの構造がどのように埋め込み理論に影響を与えるかを理解する。
5. 埋め込み理論の概念を用いて独自の議論を展開できる
・学んだ内容を基に、新しい問題設定や応用例を考察し、簡潔かつ論理的に説明できる。
事前・事後学習の内容:
事前学習: 各回のテーマに沿って教科書を読み、定義や基本的な例を理解する。特に重要な定理や性質については、その背景や適用例を調査し、予習問題を解くことで基礎を固める。
事後学習: 授業内容を整理し、授業中の例題を復習する。新しい問題を解いて理解を深め、関連する定理や手法を他の具体例に適用して応用力を養う。また、教科書や参考文献を用いて不足部分を補強する。
授業計画:
  1. 第1回:導入 - 埋め込みの基礎
    埋め込みの定義と例。ジョルダン曲線定理。ジョルダン-ブラウアーの分離定理、ジョルダン-シェーンフリースの定理とアレクサンダーの角付き球面。
    参考文献:James R. Munkres, Topology、Allen Hatcher, Algebraic Topology、小沢 誠, アレクサンダーの角付き球面, 数学セミナー 2019年11月号
  2. 第2回:単体的複体の定義
    単体、複体と多面体、重心細分、単体分割、単体写像と区分線形写像、単体近似定理。
    参考文献:田村一郎, トポロジー、森元勘治, 3次元多様体入門
  3. 第3回:クラトフスキーの定理
    平面的グラフ、オイラー標数、ファン・カンペン障害入門
    参考文献:Adrian Bondy, U.S.R. Murty, Graph Theory、Arkadiy Skopenkov, Embedding and knotting of manifolds in Euclidean spaces, arXiv:math/0604045
  4. 第4回:クラトフスキーの定理の証明
    2-連結グラフとサイクル、クラトフスキーの定理の証明
    参考文献:Adrian Bondy, U.S.R. Murty, Graph Theory、Mary Radcliffe, Math 228: Kuratowski’s Theorem
  5. 第5回:ユークリッド空間への埋め込み可能性
    一般の位置の定理、単体的複体のユークリッド空間への埋め込み可能性と不可能性
    参考文献:John Stillwell, Classical Topology and Combinatorial Group Theory、Francis Lazarus, Embedding in Euclidean spaces: the double dimension case
  6. 第6回:ホモロジー群の定義
    単体的複体、ホモロジー群の定義、オイラー標数とベッチ数の関係
    参考文献:田村一郎, トポロジー、James R. Munkres, Elements of Algebraic Topology
  7. 第7回:埋め込まれた部分多様体のホモロジー
    マイヤー・ヴィートリス完全系列、閉曲面のホモロジー群、3次元球面の部分多様体のホモロジー群
    参考文献:田村一郎, トポロジー、James R. Munkres, Elements of Algebraic Topology
  8. 第8回:臨界的な多重分岐曲面
    多重分岐曲面の定義、3次元球面に関して臨界的な多重分岐曲面のリスト
    参考文献:Kazufumi Eto, Shosaku Matsuzaki, Makoto Ozawa, An obstruction to embedding 2-dimensional complexes into the 3-sphere、Shosaku Matsuzaki, Makoto Ozawa, Genera and minors of multibranched surfaces
  9. 第9回:正則多重分岐曲面の種数
    正則多重分岐曲面の定義、ヒーガード種数、正則多重分岐曲面の種数の評価式
    参考文献:Kazufumi Eto, Shosaku Matsuzaki, Makoto Ozawa, An obstruction to embedding 2-dimensional complexes into the 3-sphere、Shosaku Matsuzaki, Makoto Ozawa, Genera and minors of multibranched surfaces
  10. 第10回:正則多重分岐曲面の最大・最小種数
    最大種数と最小種数の定義と評価式
    参考文献:Mario Eudave-Munoz, Makoto Ozawa, The maximum and minimum genus of a multibranched surface
  11. 第11回:グラフと円周の直積
    クラトフスキーグラフと円周の直積から得られる臨界的複体、グラフと円周の直積を2次元部分に持つ臨界的単体的複体の特徴付け
    参考文献:Mario Eudave-Munoz, Makoto Ozawa, Forbidden complexes for the 3-sphere
  12. 第12回:埋め込みの同値関係
    単体的複体間の埋め込みによる同値関係、埋め込みによる半順序集合の性質
    参考文献:Mario Eudave-Munoz, Makoto Ozawa, Forbidden complexes for the 3-sphere
  13. 第13回:臨界的複体
    クラトフスキーグラフ上の錐、境界を持つ臨界的複体、臨界的非正則単体的複体
    参考文献:Mario Eudave-Munoz, Makoto Ozawa, Forbidden complexes for the 3-sphere、Makoto Ozawa, Current list of forbidden complexes for the 3-sphere
  14. 第14回:期末テスト
    これまで学んだことについてテストします。
教科書:
『単体的複体の埋め込み』小沢誠

Copyright (C) Makoto Ozawa. All Rights Reserved.