JR東海社長 柘植康英氏 公開講演会

JR東海社長 柘植康英氏 公開講演会

経営学科教授 猿山義広

 11月21日(火)に開催された東海旅客鉄道株式会社(JR東海)社長 柘植康英氏の公開講演会は、大きく4つの部分から構成されていた。第1に「日本国有鉄道(国鉄)の破綻」、第2に「トップ・マネジメント論」、第3に「JR東海の現状と展望」、そして最後が「人材育成論」である。

 第1部の「国鉄の破綻」は、柘植社長が1977年に国鉄に入社されてから1987年の分割民営化までの10年間の経験に基づくものである。国鉄が経営の不在により政治の影響を強く受け、そのことが慢性的な赤字体質と深刻な労使対立を生んでいったことを語られた。当時、柘植社長は新潟鉄道管理局の人事課長として職員の合理化と雇用斡旋を担当されており、そのとき体験したことが、現在のJR東海の経営にも影響していると思われた。

 第2部の「トップ・マネジメント論」では、社長の最大の仕事は「施策決定、長期視点での判断」と「困難な経営課題のトレース」であること、そして次世代を担う「優秀な経営陣作り」であることを強調されていた。柘植社長は長らく人事部に籍を置き、取締役人事部長でもあった方なので、人事管理の専門家とお呼びしても差し支えないと思うが、管理よりも育成に重点を置いているところが印象的だった。

 第3部の「JR東海の現状と展望」では、財務的視点での成長以上に安全と技術の追求について熱く語られていた。JR東海設立後、この30年間の間に事故がどれだけ減少していったか、そして投資の6割が安全投資であることについてグラフを用いて丁寧に説明されていた。話題の「超電動リニア」による中央新幹線の整備については、派手に語ることはなく、これからも難工事が続くことを具体的な数字を挙げて述べられていた。

 第4の「人材育成論」では、「技術が進歩しても、安全を守るのは「人」、全ての仕事は「人」次第」というメッセージに感銘を受けた。2015年6月30日ののぞみ225号車内放火事件のときに人命救助と避難誘導を行った20~30代の運転士、車掌、パーサーを褒め称える姿は、古き良き日本の社長像と重なって見えた。いかにして人を育てるかという視点に立てば、「日本的経営」にも評価すべき点があることが再認識できた。

 最後に、「若い人への期待」ということで、本学学生に対して貴重なメッセージをいただいた。柘植社長からのメッセージが学生たちの未来に繋がっていくことを心から期待する。