研究紹介

私たちは医学物理学の観点から、医学・医療の発展に寄与し、人類の健康に寄与することを目指しています。医学物理学とは、物理工学の知識・成果を医学に応用・活用する学術分野です。私たちのグループでは従来の基礎研究に加えて、最先端の画像処理・放射線シミュレーション・人口知能の知識と技術を用いることで、臨床現場にメリットのある研究を進めています。また、学外の医療施設・研究機関と協力することで、患者さんの利益に直結する研究を行っています。

汎用CT装置を用いた肺機能イメージングと個別化放射線治療技術の開発

汎用CT装置で得たCT画像と画像処理技術のみで、肺機能画像を作成できる技術開発を行っています。これにより、多くの医療施設が簡便に肺機能画像を取得でき、放射線治療施設においては、患者さん個人に最適化された個別化放射線治療の実現を目指しています。
肺がん放射線治療の有害事象として放射線肺臓炎が挙げられます。最近の研究では肺機能画像を用いることで、放射線肺臓炎が低減できることが示唆されています。一方で、肺機能画像の取得は、SPECT装置や特殊な薬剤が必要なため、多くの医療施設が使用するのは困難です。私たちは、汎用CT装置で得たCT画像と画像処理技術を用いることで、肺機能である肺換気と肺血流をそれぞれ画像化する技術を開発しています(図1)。また、肺機能画像の放射線治療計画における応用についても研究しています(図2)。
この研究は広島大学病院・東北大学病院・東京都立駒込病院と協力して開発しており、現在は放射線治療分野において臨床試験(切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する肺機能画像を用いた強度変調放射線治療第II相試験)を実施しています。

図1 肺換気画像の作成方法

図2 肺機能を考慮した治療計画と考慮していない従来計画の比較
研究助成
  • 科学研究費 基盤(C)「臓器機能情報を用いた新たなオーダーメイド放射線治療技術の開発」
    (2020年4月-2023年3月、研究代表者:藤田幸男)
  • 科学研究費 基盤(B)「局所進行非小細胞肺癌に対する肺機能画像を用いたオーダーメイド放射線治療法の開発」
    (2020年4月-2024年3月、研究代表者:木村智樹、研究分担者:中島祐二朗)
  • 東京都病院経営本部 臨床研究助成「CT画像から作成する肺機能画像を用いた新たな肺がん放射線治療法の開発」
    (2017年4月-2019年3月、研究代表者:中島祐二朗)
研究協力施設
  • 東京都立駒込病院 放射線治療部門
  • 東京ベイ先端医療・幕張クリニック
  • 東北大学病院 放射線治療科
  • 広島大学病院 放射線治療科

画像特徴量解析を用いた治療効果予測システム・診断システムの開発

画像特徴量を網羅的に解析するRadiomics解析やディープラーニングを用いることで、従来の人の目や感覚では取得できなかった情報を取得し解析しています。画像特徴量と人工知能を組み合わせることで、がん治療の効果や予後予測、悪性度診断の正確性の向上を目指します。
現在、東京都立駒込病院と協力して、脊椎転移に対する体幹部定位放射線治療の治療効果予測システムおよび患者さん個別の最適な線量分布の予測システムを開発しています(図3)。また、東京都立駒込病院と東京大学医学部附属病院と協力して、正確性の高い卵巣腫瘍の悪性度診断システムを開発しています。

図3 脊椎転移に対する体幹部定位放射線治療の最適な線量分布の予測システム
研究助成
  • 科学研究費 若手「画像特徴量解析を用いた転移性骨腫瘍への定位放射線治療の治療反応予測システムの 開発」
    (2021年4月-2024年3月、研究代表者:中島祐二朗)
研究協力施設
  • 東京都立駒込病院 放射線治療部門
  • 東京都立駒込病院 婦人科
  • 東京大学医学部附属病院 女性診療科

ビッグデータと人工知能を活用した治療効果解析

ビックデータを解析することで、既知の治療法や新薬の治療効果を解析しています。臨床試験データや学会データベースを対象としており、臨床現場に直結した研究結果を得ています。データ解析に人工知能を用いることで、従来の統計的な手法で得られなかった新たな知見の獲得を目指しています(図4)。
現在は、婦人科悪性腫瘍研究機構 (JGOG) の臨床試験データを用いて婦人科癌に対する治療効果解析を行っています。また、移植登録一元管理プログラム (TRUMP) のデータベースを用いて、造血幹細胞移植におけるサイトメガロウイルス再活性化の影響について解析しています。

図4 機械学習モデルを用いたデータ解析
研究協力施設
  • 東京都立駒込病院 血液内科
  • 東京都立駒込病院 婦人科
  • 東京大学医学部附属病院 女性診療科

電子線に対する空気のW値の絶対測定システムの開発および測定

空気のW値は診断領域では空気カーマ、治療領域では水吸収線量を求める際に使用されており、放射線量を決定する際に欠かせない重要な物理量です。空気のW値を幅広いエネルギー領域で評価を行い、放射線利用の安全性の向上を目指しています。
この研究は産業技術総合研究所と協力して進めており、現在は絶対測定システムの開発を行い、様々なエネルギーに対する空気のW値の測定を行っています。

研究助成
  • 科学研究費 研究スタート支援 「軟X線および中硬X線領域の電子線に対する空気のW値の絶対計測」
    (2019年4月―2021年3月、研究代表者:佐藤優樹)
研究協力施設
  • 産業技術総合研究所 分析計測標準研究部門 放射線標準研究グループ

MRリニアックの強磁場下における水吸収線量計測法の確立

高磁場下における線量計測ではこれまで見られなかった影響が先行研究により明らかになっています。MRリニアックシステム(図5)は国内外で臨床導入数が急速に増え、MRリニアックシステムが臨床で使用されていますが、水吸収線量計測法は確立されていません。本研究では、電離箱線量計を用いた高磁場下での水吸収線量計測法を確立することを目指しています。

図5 MRリニアック
研究助成
  • 日本医学物理学会 研究課題援助 「MRリニアックの強磁場下における水吸収線量計測法の確立」
    (2021年7月-2023年2月、研究代表者:藤田幸男)
研究協力施設
  • 千葉大学病院
  • 千葉がんセンター
  • 東京都立駒込病院
  • 東京ベイ先端医療・幕張クリニック
  • 量子科学技術研究開発機構QST病院