渡邊洋次郎氏のご講演「薬物・アルコール依存症からのリカバリー」

 経営学部の専門教育科目の「企業と社会」では、CSRや企業倫理の課題事項であるDE&I(多様性、公平性、包摂性)の理解にもつとめています。その中で、2024年11月20日(水曜日2時限)に精神障害者の理解の一助のためにゲストのご講演がありました。

 もともと経営学は人間協働の学であり、人間関係論を構築したM.P.フォレットがソーシャル・ワーカーとして移民の包摂に勤めたことは良く知られ、そのスピリチュアルな経営哲学の背後には豊かな宗教思想があったことが経営学史的に知られています。

 また経営学部では「仏教の教えと禅の精神に基づき、自分をより高める自己形成と学問研究を密接に関連させて行うことができる」という駒澤大学の学生としてのアイデンティティを備えていることが求められております。そのためには深い人間理解が必要なことは言うまでもありません。

 ゲストは『下手くそやけどなんとか生きてるねん。―薬物・アルコール依存症からのリカバリー』(現代書館,2019年)などの著書がある渡邊洋次郎氏です。今年度で4度目で、大阪からご講演のために本学に来られました。

 最初に動画を見てから、40分ほどのご講演、5分ほどのグループ討議、30分の質疑応答がありました。

Watanabe 2024.11.20-1.jpg

 

 渡邊氏は子供の頃は寂しさがあり、自己肯定感がないなか、わざと変なことをして友人から注目をあびるようなことをしておりました。勉強は嫌いでしたが、学校に行くことは好きでした。自傷行為を重ねた中学時代の話もありました。それは友人たちが高校に進学する中で、自分の将来への不安感からでした。

 必要以上に職場でお酒を飲み始めたのは19-20歳のころでした。お酒を求めた窃盗で警察に捕まり、警察から精神科を紹介されました。初めてアルコール依存症との診断が下されましたが、受け入れることが出来ず、精神病院への入院、逃亡を繰り返す人生でした。

 刑事事件から30歳には刑務所で暮らしました。雑居房から独房の中に移され、自身を見つめる中で、はじめて自分が依存症であることを客観的に認めることが出来ました。

 33歳に刑務所を出てから、現在に至る再生(リカバリー)の人生がようやくスタートしました。アメリカでリカバリーをする人たちとも交流を重ねてきました。現在は、大阪の福祉施設である依存症回復施設「リカバリハウスいちご長居」に勤務されており、自助グループに参加しながら、介護福祉士の資格をとり、通信制の高卒の資格も取得されました。

 Watanabe 2024.11.20-2.jpg

 参加者からの質疑応答にも丁寧に真摯に答えてもらいました。聴講した学生にとっては、他者の貴重な人生から自分の人生を見つめなおす得難いひと時でした。

 以下、参加者の感想文の一部を引用します。

 「依存症に陥った人々がどれほど苦しみ、回復への道がどれだけ険しいものかを知り、自分の中にあった偏見がいかに浅はかだったかを痛感しました。・・・今回のスピーチを通じて、薬物依存への理解を深めることができました。この気づきを日常生活の中で活かし、依存症で苦しむ人々への偏見を減らすために、まず自分自身の考え方を見直していきたいと思います。」

「今回の授業を通じて、渡邉さんの人生の軌跡を知り、人がいかに困難を乗り越えて新しい道を切り開くことができるのかについて深く考えさせられました。」

「今回の講演では実際に依存症による苦しみを経験してきた渡邊さん本人によるお話であったからこそ、辛さや苦しみ、痛みがはっきりと伝わり、今後自分自身が道を踏み外しそうになった時、今回の講演での渡邊さんの言葉を思い出し、踏みとどまれるよう努めていきたいと感じた。」

「私たちは時に他人の過去に対して偏見を持ちがちですが、渡邊さんのように過去を乗り越えた人に対しても公正な目で接することの大切さを学びました。」

(M.M.)