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チェコのお婆さん(ボジェナ・ニェムツォヴァー著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2020.11.01

書名 「チェコのお婆さん」
著者 ボジェナ・ニェムツォヴァー
訳者 源 哲麿
出版者 彩流社
出版年 2014年7月
請求番号 989/78
Kompass書誌情報

のどかな田舎で繰り広げられるほのぼのとした物語。ボジェナ・ニェムツォヴァーの『チェコのお婆さん』(1855)を一言で言い表すとそうなるでしょう。チェコでは知らない人がいないと言われるほど有名な作品です。物語の舞台となっているのはオーストリア帝国の一部だった頃のチェコ。とある侯爵領で、タイトルにもなっているお婆さんとその孫たちが周囲の人々と繰り広げる日常が描かれています。

このようにまとめると政治的なことには何の関係もなさそうな作品に見えますが、実際にはチェコの民族解放運動に大きな影響を与えたとされています。当時のチェコはというと、社会階層によってきっぱりと二つに分かれていました。支配者層であるドイツ人と、被支配者層であるチェコ人。ドイツ人は当然のことながらドイツ語を話し、チェコ人はチェコ語をしゃべっていました。この二重状態は物語の中にも影を落としています。ドイツ語で暮らすことに耐えられなくなってふるさとのボヘミアに帰ってくるお婆さん。チェコ語を話さない娘婿。チェコ語を話す領民に、ドイツ語が話されている城。1918年にチェコスロバキアとして独立するまで、これが通常の状態でした。

そのような時代背景をふまえて読んでいくと、この物語がどこまでも周辺の物語であることが見えてきます。首都ウィーンから遠く離れているというだけではありません。女性がまだまだ男性の付属品とみなされていた時代に女性の主人公。しかもお婆さん。侯爵に仕える娘夫婦と違い、お婆さんは孫たちに昔ながらの生活を教えていきます。当然ながら話す言葉はチェコ語です。作者のニェムツォヴァーも女性であり、ドイツ語で教育を受けたにもかかわらずチェコ語でこの作品を書いています。ドイツ的、男性的な権力に対して、チェコ的、女性的な周辺。牧歌的でありながらも、実はひっそりと革命的な物語です。

総合教育研究部 准教授 下薗 りさ

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