平成27年度 9月学位記授与式(卒業式)学長式辞

Date:2015.09.21

駒澤大学の卒業・修了生の皆さん、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

67人の学士・修士の学位取得の皆さん、皆さんが大きく成長された姿で良き日を迎えられることは、私たち教職員といたしましても喜びとするところです。ご臨席の保護者の皆様におかれましても、決して平坦な道ではなかったでしょう。厳しい社会情勢の中でのご労苦はいかばかりであられたかを拝察申し上げ、心より御慶び申し上げます。

さて、多くの学士卒業の皆さんには、思い返せば、駒澤大学に入学を決めていた矢先の2011年3月11日、東日本大震災と原発事故が起こりました。その日以来、皆さんの大学生活の期間は、日本国中が、この大災害からの立ち直り、復旧復興事業に尽力し、それを願った日々でもありました。

しかし、その傷跡は未だ癒えておらず、日本を挙げての復旧復興事業はまだまだ続きます。皆さんも卒業後、自らの生活基盤をしっかりと固めたうえで、この事業の支援に参加してほしいと思います。

皆さんの在学時代には、スカイツリーの完成、東京オリンピックの誘致、先ごろの北陸新幹線の開業という慶事もありましたが、皆さんを迎える社会は、グローバル化に伴い、伝統社会は揺らぎ、変化し、経済環境・雇用情勢も依然として厳しい状況にあり、民族間紛争とそれと表裏の関係にある宗教的対立が頻発し、多くの国で社会不安が拡大しています。我が国でも少子高齢化に伴う社会活力の低下や経済・社会・地域格差が叫ばれ、先に述べましたように東日本大震災の復興事業も思うように進まず、地球温暖化の影響か、台風・大雨の災害も絶えません。

これから、卒業されていく門出の皆さんに、なぜ、このような厳しい状況を述べるのかと申しますと、それは、厳しい社会の中でも、皆さんは立派に社会に貢献してゆけると確信しているからです。それは、長い本学の伝統を引き継ぎ、建学の理念に基づいた教育を受け、生活力、いわゆる駒澤力を身につけているからです。本学で学んだ皆さんには、専門の学問とともに、社会に向かって誇れるものが、自然と身についているのです。

学長 廣瀬 良弘
学位記授与式会場

さて、本学は他大の追随を許さない歴史とそれに付随する興味深いエピソードを数多く持っております。皆さんはそのような大学を学舎とされたのです。そのことを皆さんに、改めて示しておきたいと思います。

本学は、我が国はもとより世界的に見ても長い歴史と伝統を持つ数少ない大学の一つです。本学の前身の前身である吉祥寺は、今から540年ほど前に、江戸東京の祖とされ、武人としても歌人としても知られる太田道灌によって、江戸城とともに建てられました。そして1592(文禄元)年、徳川家康が江戸に入城して3年目、堀の外に出ました吉祥寺の中に学寮(後の旃檀林)ができました。本学の前身です。約420年前のことで、水道橋のたもとにありました(『江戸屏風図』佐倉歴民博蔵)。

江戸時代の前半、1657(明暦3)年、江戸城天守閣まで焼き尽くした振袖火事によって吉祥寺・学寮は駒込・本郷近くに移転し、門前の住民は五日市街道沿いの地を開拓し、もと居た地名を取って「吉祥寺」と称したとされます。今の吉祥寺です。

明治期を迎えて、1882(明治15)年、麻布北日ヶ窪、現在のテレビ朝日・六本木ヒルズの地に近代的な大学として開校いたします。本学は3年前に開校130周年を迎えました。それから、30年後の1913(大正2)年に駒沢の地に移転してまいりました。一昨年、移転100周年となりました。近くには日本人が初めて造成したゴルフ場があるのみでした。

本学で最も古い建物は、1928 (昭和3) 年に建てられた、レンガ造りの禅文化歴史博物館です。東京都選定歴史的建造物となっております。菅原栄蔵という人物の設計で、ビアホール銀座ライオンも菅原の設計として知られています。また、深沢キャンパスの洋館は禅・茶の湯と関係の深い数寄屋風の設計で知られる吉田五十八氏の設計で、TVドラマや映画で首相官邸などとして利用され、ロケ地としても知られています。また、禅の大学らしさを一層深めるために、図書館前や記念碑の前に枯山水の石庭が造られ、金閣寺垣や建仁寺垣などの竹垣が施され、砂紋(風紋)が描かれております。

そして、この5月から130周年記念棟建設に伴う体育館の解体工事が始まっております。新校舎は9階一部4階で、グループ学習ができるPC教場など、最先端の設備を備えたもので、南側には駒沢オリンピック公園の深い緑へと視界が広がるルーフテラスができます。また、明るく広い食堂も入ります。完成は2017年12月です。

このように、皆さんの母校は、歴史やエピソードに満ちた魅惑的な大学であり、やがては、新校舎も完成します。毎年秋に行われますホームカミングデーにお出で願い、歴史やエピソードに触れてみてください。新たな発見があり、皆さんに元気を与えてくれることでしょう。また、新校舎の食堂も是非ご利用ください。お待ちしております。

このような伝統と歴史と新しさの中で、駒澤大学は、仏教の教えと禅の精神を建学の理念、つまり教育・研究の基本としてきました。この建学の理念は、永きにわたり「行学一如」という言葉で表されてきました。

「行」とは自己陶冶(とうや)、すなわち自分をより優れた人間として育て上げる自己形成のこと、「学」とは学問研究のことです。そして「行学一如」とは、「自分をより優れた人間に成長させることと、学問研究に励むことは一つのことである」とします。もちろん、行すなわち実践と学問研究を一体とするとも説きます。

「行学一如」は、特に「行」の重要性を教えます。常にアクティブな姿勢で学問研究に取り組む「行」によって、学問研究は本物の「学」として、自分の血となり肉となるのです。高みに登り詰めた姿だけが尊いのではなく、目の前の一歩を大事に踏みしめて行く姿をも大切であるとします。努力する今の姿が尊いのです。皆さんには、この建学の理念がしみ込んでいるはずです。皆さんには、これからもこの建学の理念である「行学一如」を実践し、アクティブな「学」を続けていって欲しいと思います。

また、禅の言葉に「随処に主となる」という言葉があります。集団の中で、自分はどうせ歯車だから、人の後からついて行けば良い、という考えはやめて、いかなる場でも、集団の中に飲み込まれることなく、自分のできる仕事は何かを見出してゆく、見つけ出してゆく積極さが必要です。皆さんが主体性をもって、積極的に行動されることを望みます。

これまで、種々述べてまいりましたが、これらは、みなさんに、ことあるごとに申し述べて来たものです。皆さんの卒業に際し、改めて申し述べさせていただきました。

皆さんは卒業後もアクティブな学、行という「行学一如」、また、常に主体となって行動せよという「随処に主となる」を実践していって下さい。皆さんへの贈る言葉といたします。また、クールジャパンの原点の禅の大学、グローバル化社会でも独自性をもって、貢献できる、専門力・生活力・総合力を身に付けた人づくりの禅の大学、駒澤大学で学んだことに自信を持ってください。

さらに、皆さんは、吉祥寺ができて540年、学寮(旃檀林)ができて420年、近代的な大学となって130年、駒沢に移転してきてから100年という歴史・伝統と多くのエピソードに満ちた駒澤大学を母校とすることを胸にして、堂々と生きていって欲しいと思います。実社会という荒海に乗り出す皆さんに幸多からんことを祈念いたしましてご卒業の式辞としたいと思います。本日は誠におめでとうございました。

平成27年9月19日
駒澤大学
学長 廣瀬 良弘