令和元年度 9月学位記授与式(卒業式)学長式辞

Date:2019.09.30

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。8月の集中豪雨、9月の台風15号の上陸など、自然の脅威に振り回された列島の夏も終わりを告げ、秋の訪れを感じる時節となりました。多くの大学で後期がスタートした模様ですが、駒澤大学も夏期休業が終了し、キャンパスに再び活気が戻ってきたところです。

そうした中、駒澤大学は本日、学事暦に則って9月卒業式を迎える運びとなりました。皆さんはご存知かと思いますが、「卒業」は、英語で「始まり」を意味するコメンスメント(commencement)と言い、また「段階」を意味するグラデュエーション(graduation)とも言います。この見方に立つならば、卒業は、人生を構成する或る段階への到達を意味し、それはまた、次なる段階の始まりを指していることになりましょう。

長谷部 八朗 学長

このように人の一生の諸段階を画する、いわゆる人生儀礼のあり方を、オランダ系の民俗誌学者ファン・へネップは「通過儀礼」という概念を用いて説明しています。その中でヘネップは、かかる儀礼はいずれも、或る段階から分離し、移行の過程を経て、やがて新たな段階に統合されるのだと説いています。すなわち、人生儀礼は皆、分離→移行→統合の3つの要素が象徴的に具わって初めて本来の機能を果たし得るというのです。

この視座に立ち、本日の卒業式が皆さんにとって持つ意味を考えるならば、とりわけ大切なことは、所定の単位を修得して本学学生の立場から分離する段階とこれから実社会に仲間入りする統合の段階が、移行というプロセスを介して結びつけられているところにあるといえましょう。

では、その移行とは、皆さんにとって一体何を指すのか。すでに気付かれた方も居られるかも知れません。それは、皆さんが本学に入学し、ここに晴れて学位記を授与されるに至る学園生活をじっくりと振り返り、その成果と課題が奈辺にあるかを熟考し、その上で、これから飛び立つ社会に想いを馳せる、そうした思考の時空を指しています。

急速に進む社会変化の波は高く、時代の先行きはますます視界不良の様相を強めています。このように先読みの困難な社会がまず以て求める人材とは、これから向き合う社会の要請するニーズを敏感に読み取り、大学での様々な学びを通して手にしたシーズ(資源)を効果的に活かす意識と意欲の持ち主といえましょう。

本日は、大学の学位授与式という、臨席した皆さんの大部分がおそらく再び経験することのない人生儀礼、しかも皆さんがこれから社会に巣立つ上での踏み台となる大切な儀礼の挙行に際し、改めてその意義を考えていただきたく、一言私見を述べた次第です。およそ人生の道のりには種々の起伏が付きものです。しかし、つねにポジティブな見方・考え方を忘れず、それぞれの目標を定め、歩んでください。本日はご卒業、誠におめでとうございます。

令和元年9月21日

駒澤大学学長
長谷部 八朗