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脳とクオリア : なぜ脳に心が生まれるのか(茂木 健一郎著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2022.01.01

書名 「脳とクオリア : なぜ脳に心が生まれるのか」
著者 茂木 健一郎
出版者 日経サイエンス社
出版年 1997年4月
請求番号 491.3/454
Kompass書誌情報

私たちは毎晩眠り、そして毎朝目覚めます。普通のことですが、ここにおかしなことはありませんか? 眠っている間に意識は無くなり、目覚めた瞬間に意識を取り戻します。毎日のことで当たり前に思っていますが、眠っている間にも自分は存在しているのでしょうか。同じように、死んだら自分はどうなるか、自己意識はどこかに存在するのでしょうか。

茂木健一郎さんは自己意識をクオリア(感覚に伴う質感)に代表し、その根源を脳に求めました。質感とは他人とは比較不能な自分自身の感覚です。自分が感じているリンゴの赤色、血液の赤さ、夕日の色は他人も同じように感じているのでしょうか。証明する方法はありません。質感は自己に固有のものである点で、自己意識が他者の意識とは異なるのと同義です。では、その質感は脳の中でどのように発生するのでしょうか。

ニューロンが、そして脳が作っているという考え方は心脳問題といわれています。脳はいかにして意識を作るのか、これは脳がいかに私自身を作っているのかという問題に置き換ります。意識に対する自然科学的アプローチは脳科学の勃興に呼応しており、さほど古いわけではありません。Journal of consciousness studiesが創刊されたのは1994年のことであり、意識研究に対する科学的アプローチへの関心が高まりました。そのような時代背景の中、この本は意識について哲学と脳科学を結合させるアイディアを大胆に提案しています。そして、最近の人工知能の発展はコンピューターの向こう側に意識が存在するのかという問への回帰をもたらしています。

私達は生まれ、そして死にゆく存在であり、死生観や存在意義といった問題も自己意識 によってもたらされるのです。意識のメカニズムの解明は自己の存在意義のへの説明に 繋がります。このような問いに惹かれる人は、是非この本を手に取ってみてください。当時、私が一気に読み切ってしまったように、きっとあなたの感性を刺激すること間違いありません。

文学部 教授 岩城 達也

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