平成30年度 学位記授与式(卒業式) 総長祝辞

Date:2019.03.28
駒澤大学総長
学位記授与式会場

本日ここに平成30年度駒澤大学学位記授与式を迎え、晴れて卒業される皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。この日が来るのを心待ちにし、長い間、ご子女の学業成就を物心両面でご支援くださったご親族、関係者の皆々さまに対し、ご列席の来賓各位と共に、教職員一同、心からお祝い申し上げ尽心の謝意を申し上げる次第です。

卒業生の皆さん、本学でのキャンパスライフはいかがでしたか。きっと専攻の学部学科の講義や演習・実習、課外活動等を通して、先端の学問・技能を存分に修得できたことと存じます。本学で学び得た新しい知見や技能を大いに実社会で活用し、溌剌と元気にご活躍されますよう念願いたします。

今年は平成最後の年で、5月には新元号に改まるわけですが、先月8日に亡くなられた 堺屋 太一 さんは、20年前の新聞紙上で「平成30年」と題する連載を執筆し、バブル経済崩壊後に到来した時代の閉塞感や、改革を阻む政官界の姿を描き出し、結局「何もしなかった日本」と総括しました。この指摘が的中したかのように、現代の日本社会はそこここで問題が噴出しています。

政官界では公文書改ざんや統計不正問題が取り沙汰され、産業界では、車の不適格審査や免震工事の手抜き、施工不備の建築等が明るみになり、当事者の倫理観、遵法精神の劣化は目を覆うばかりです。また、教育現場や職場や家庭では、暴言暴力などのハラスメント、DVの家庭環境での深刻な児童虐待事件が相次ぎ、それも昨年3月の5才児の結愛ちゃんや、今年1月の10才児の心愛ちゃんの虐待死事件で極まった感があります。

世界に目を転ずると、自分たちさえよければ他はどうなっても構わないとばかりに、自国第一主義を唱え、ナショナリズムを掲げるポピュリズムが抬頭し、叡智を結集したはずの条約や協定はいとも簡単に破棄され、国際社会を束ねる理念や哲学の不在が、人々の不安を募らせています。

今日ほど人間の意識改革が必要な時代はないといえましょう。幸い本学でブッダの教えや道元禅師や瑩山禅師の教えを学ばれた皆さんは、生涯仏教の智慧と慈悲の哲学をバックボーンにされ、現実のどんな困難な局面に出会っても逃げることなくひき受け、問題の解決に向けて努力されるであろうことを私は信じて疑いません。

周知の通り、仏教はすべての生命体は宇宙規模で一つに繋がっていて、現象しているものはすべて無常であると教えます。この世に生かされている私たちの命には限りがあり、もろくもいとおしいものであるが故に、人生は大事に世の為、人の為になることをして全うしなければいけない、まして人間同士傷つけ合い、殺し合うことは愚劣の極みであると説いて止みません。人権が守られ、平和が実現し、自然環境が保たれることは人類普遍の理想です。全ては己れの生き方一つにかかってくる道理です。

これから各界で活躍される皆さんの、力強く美しい将来の姿に想いをはせつつ、一言、私の祝辞といたします。

平成31年3月22日、23日
学校法人駒澤大学 総長 池田 魯參